Home日本私立大学協会私学高等教育研究所教育学術新聞加盟大学専用サイト
アルカディア学報

アルカディア学報(教育学術新聞掲載コラム)

No.13
大学評価・学位授与機構の評価実施方針を問う

主幹 喜多村和之

 文部省では7月から8月にかけて国立大学の独法化に関する調査検討会議を開き、独法化に関する審議を開始した。そこでは大学の在り方について、国立大学だけにとらわれず公私大や高等教育全般にわたって、興味深い議論が活発に展開されていることが、議事録要旨から推察される。ぜひともこの検討会議で実りある審議成果を期待したい。
 これとほぼ平行して、4月に発足した大学評価・学位授与機構では、大学評価委員会を設置して、独法化のペアとなる大学評価の在り方を審議しつつある。9月26日には委員・評価員を加えると総数255名から成る6つの専門委員会も発足させている。そして10月4日には早くも「平成12年度に着手する大学評価の内容・方法等について」という照会の文書が木村機構長名で日本私立大学団体連合会会長宛にも寄せられてきた。ここには平成12年度に予定されている評価事業の全学テーマ別評価、分野別教育評価、分野別研究評価の具体的な実施案が詳細に提示されている。同機構ではこの実施案について平成12年11月15日までに団体の意見をまとめて回答することを求めている。
 発足からわずか半年の間に、同機構は評価を実施するために委員会、専門委員会を通じて評価事業の実施案まで、矢継ぎ早に提示してきた。しかも1ヵ月そこそこの期間内に私大団体全体の意見を「とりまとめて」回答せよという。私事であるが、この10月に約10日間訪米していた私は、留守中にかくもめまぐるしい動きがあったことに驚きを禁じ得ないでいる。そもそも評価の対象となる95校の国立大学や国立大学協会でも、そんなに手際よく意見がまとめられるのであろうか。ましてや400校を超える多様な私立大学の総意を短期間でまとめるなどということが簡単に出来る筈がないことは、十分承知の上であろう。大学を評価するという、国家百年の計に影響を及ぼす重要な問題に、なぜそんなに性急に事を運ぼうとするのであろうか。
 同機構がこうも急いでいるのは平成12年度中には実施しなければならないというタイムスケジュールの故であろう。ということは、大学評価機構の内部では、評価の方針、内容、方法も殆ど出来上がっていて、後は広く意見を聞いたという形をとりたいだけなのではないかという推測もしたくなる。これだけ詳しい原案ができあがっていれば、意見をはさむのも難しいし、異論が採用される可能性も乏しいだろう。なにしろ当の国立大学関係者でも、大学評価機構とは何ものであって、評価の実施案がどんなものかも知られているかどうか疑わしい。筆者の知るかぎりでは、国立大学関係者は独法化の方に気をとられていて、そのペアとなる評価の方までは、まだ気がまわっていないように見受けられる。いまのままでは、大学評価の方針は、ごく一握りの関係者によって決定されていく公算が大である。
 私大関係者の実態からいえば、この問題への情報も不足しているし、関心も決して高いとはいえないと思われる。その理由の1つは、評価は「大学等の設置者の要請をまって行うものとする」とか、私立大学は「当分の間」評価の対象としない、とされているからであろう(国立学校設置法施行規則第52条の3および附則6)。つまり私立大学にとって大学評価はさしあたっては自分とは関わりのない国立大学のことなのであり、仮に関係あるとしてもかなり先のことで、切迫感が感じられないのである。しかし私立大学はみずからの要請によっては国の評価事業に参加することが出来るし、法的には評価を免れるような規定はどこにもなく、まさに今は対象とされていないだけのことである。政府のやることはいつでもこんなふうに裏木戸から何気なく入ってきて、気がつくと思うつぼにはまっているということが少なくない。
 そこでここでは、実施案の具体例や細部に対する疑問や見解はひとまずおいて、同機構の第三者評価の基本的性格にかかわる点のみについて、同機構の回答を求めたい。
 @同機構の大学評価は公私立大学は対象としないのか、あるいは「当分の間」だけ対象としないのか、そうだとすればその期間とはどのくらいの時間なのか、是非とも曖昧にしないでお教えいただきたい、というのが第一の問いである。それに評価実施案について公私大の意見をきくということは、いずれ公私大へも評価を及ぼす意図ではないかと思われるが、どうであろうか?もし国立大学だけに評価の対象を限るのならば、公私大の意見までを必ずしも徴する必要はないであろう。
 A同機構の収集整理した評価情報は、当該大学のみならず、ひろく社会に公表するとの方針が表明されている。情報公開自体は望ましいことであるが、公表の仕方次第によっては、いくつかの問題が引き起こされる可能性がある。たとえば評価情報を利用して、さまざまな評価機関やメデイアが大学の質を序列化し、大学がランキング競争に巻き込まれる可能性である。すでにイギリスではジャーナリズムが高等教育評価機構(HEFC)のデータをつかった大学ランキングを毎年公表している。つまり公的機関が収集した評価情報が、大学の教育研究水準の向上や改善に資するという本来の目的から逸脱して、大学の序列化に利用されるおそれがある。序列化がすべて悪いとはいえないかもしれないが、大学の組織全体や教育研究の質を序列化することが、教育研究の質的評価としては適当な尺度といえないことは、過去に偏差値ランキングがもたらした幾多の弊害が証明している。機構の評価情報がこうした方向に利用される可能性に対して、機構としてはどのように考え、またこれに対していかなる対応策を講じているのか。
 B今回の「実施方針」のなかの評価の目的のなかには、評価結果を大学の改善に役立てることと公共的な機関としての大学に対する「国民の理解と支持を得られるよう支援・促進していくこと」が挙げられている。ここにはその評価結果を資源配分に活用するといった、2月の評価委員会報告にあった文言は抜け落ちている。機構はただ評価情報を提供するだけで、政府がこれをどう使うのかには関知しないのだろうか。あるいは、評価情報が政府の予算配分や優先順位の決定につかわれる可能性はないと考えているのだろうか。もしそうだとしたら、第三者評価はなんのために行われるのだろうか。機構の行う評価が、私学助成等になんらの影響を及ぼすことはないのだろうか。その点機構としてどう考えているのかを明らかにして欲しいのである。
 少なくとも以上の3点が曖昧にされたままでは、私学としての機構への回答のしようがなく、また私学としての評価システムの在り方も考えようがないのである。

Page Top