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平成26年3月 第2557号(3月19日)

改革の現場
 ミドルのリーダーシップ <60>
 社会人基礎力育成教育を徹底
 愛知学泉大学


 愛知学泉大学は、1912年、寺部三蔵・だい夫妻が安城裁縫女学校を創設したことに始まる。1966年には愛知女子大学・同短期大学部を開設、1982年に愛知学泉大学・同短期大学と名称変更。現在は、豊田市に現代マネジメント学部、岡崎市に家政学部を設置する2キャンパスの大学である。特に社会人基礎力の育成に特化する同大学の戦略について若林努学長、堀本義之法人本部事務局部長、現代マネジメント学部松岡崇暢講師、六郷恭二豊田学舎事務長に聞いた。
 一連の教育改革は、家政学部教員のゼミとコンビニチェーン「ココストア」との健康弁当の共同開発に始まる。参加した学生が生き生きとし、また、学生にとっては成長の場になるとの認識から、この取組を経済産業省の社会人基礎力の育成推進事業に申請、全国の大学からエントリーがある「社会人基礎力グランプリ」の決勝にまで勝ち残った。「これを皮切りに、大学のミッションを地域貢献と捉えるとともに、大学が掲げる教育を、@建学の精神を核とした教育、APISA型(教科横断型)の教育、そして、B社会人基礎力を育成する教育と定義しました」と若林学長は振り返る。
 社会人基礎力の12の能力要素については、それぞれ5段階の評価基準を決定しルーブリックとして公表した。「教員には、社会人基礎力のどの力を身につけさせるのかをシラバスに書いてもらっています。124単位を取ると、12の能力要素が身につくカリキュラムを目指しています」と松岡講師。
 現在は一歩進んで、学生の育成基準の策定を目指す。課外の社会活動を行う場合はもちろん、スポーツでも社会人基礎力を意識させる徹底ぶりだ。教員や学生の動機づけとして、「社会人基礎力学内グランプリ」を開催したり、企業向けに成果発表会を行うなど、小規模大学ならではの教職・学生の一体感を醸成させている。更にユニークな点として、職員評価も社会人基礎力を元に行おうとしている。
 もっとも、最初から順風満帆というわけではなかった。「最初は経済産業省の職員を講師に呼んだり、会議で延々と議論して…地域連携やPBLを得意とする教員、若手の教員を核として、徐々に教員の賛同を得る形になってきました。教員には何度も何度も口酸っぱく言うことで、あきらめてもらいました」と六郷事務長は笑う。
 学内の推進体制は、2学部・短期大学の代表者で構成される社会人基礎力推進委員会が核となる。月に一度開催され、学長が座長、学部長、教務委員長、各学部の教職員が十数名参加し、教員に対して教育方針を伝えていく。理事長室の下に社会人基礎力育成室があり、連携企業等と協定を結ぶ窓口機能や、実際の中身を企画立案する。
 経営の中核となるのは、法人と大学を結び、素早い意思決定を行う「大学・短大管理運営者会議」で、月に1度理事長も出席して開催される。その他、非公式に大学副学長、短大学長、学部長、事務局長で議論される会議があり、公式会議に諮られる前には、基本的にここで準備される。事業計画は大学学部・短大ごと、更には各部局ごとに作成され、これを元に予算配分される。
 学園の全教職員が参加する学園報告討論会を年に1度開催している。理事長の基調講演によって学園の方向性等が教職員に伝えられる。「最初は、幼稚園から大学までの教職員の交流を目的に始まりました。キャンパスが異なると、関わることが少ないので、毎回、高校二つと大学二つで会場を変えて、お互いの教育の中身を知って、協力できることは協力しようという趣旨です」と堀本部長は解説する。
 地域貢献の取組は、現状として関心のある教職員が個人で繋がっており、それを全学的な視点で捉えて地域連携センターを設置し、大学の基本戦略の中に位置づけ、年度予算も計上する。ライフスタイルデザイン総合研究所、地域社会デザイン総合研究所の二つの研究所が地域のシンクタンクとなり、自治体とも包括協定を結ぶ。こうした実績を元に、このたび文部科学省「地(知)の拠点整備事業」に応募したが落選。これについて、若林学長は次のように自己分析する。「特に『正課教育での目立った取組が見られない』とのことでしたが、学部再編の完成年度を迎えておらず、これは不可能でした。取組については、これまでのものに加えて、豊田市との連携について打ち出したつもりだったのですが…」と肩を落とす。
 しかし、自治体との連携は強固なものとなりつつある。六郷事務長が指摘するように、地域にファンを増やすことが、今後の地域に根差す大学の存続の鍵となろう。

教職員の総力を結集し、学生育成のモデル大学の構築を目指す
桜美林大教授/日本福祉大学園参与 篠田道夫

 愛知学泉大学は社会人基礎力教育を徹底して重視、それを柱に全学教育システムを構築している。チームで働く力・チームワーク、考え抜く力・シンキング、前に踏み出す力・アクションを具体化した12の能力要素をシラバスで全科目に明記、通常科目でまずこれを意識的に教育する。卒業必修単位履修で12の能力要素全てを確実に習得し卒業できるマトリックスを作成した。これに徹底したPBLを行うことで知識活用力(リテラシー能力)を育成する。2006年、(株)ココストアと、当時文系では珍しい産学連携協定を結んでPBL教育を本格的に開始、これが2007年、経産省・大学教育モデル事業「社会人基礎力育成評価事業」に採択された。以後3年連続採択。ここから本格的な社会人基礎力教育が始まる。
 学校の成績の良さと社会で活躍できる能力は一致しない。知識を活用して何かができたと実感させる教育、学ぶ意欲を喚起し学ぶ喜びに結びつける教育が必要だ。従来型の学校教育は教科型学力。しかし、いま求められるのは変化に対応する能力、変化を生み出す能力。特にコミュニケーション能力や対人能力が必要不可欠だ。知・徳・体プラス行、これで教育にイノベーションを興さねばならない。
 そのためにはテスト型ではない到達度評価、学習成果(アウトカム)評価が不可欠だ。プログレスシート(じぶん振り返りシート)を開発し、事前・中間・事後の3回の面談による振り返り、自己評価と外部評価の組み合わせで自分を客観視、学びの目標、知識活用の達成度を確認し自信を持たせる。プレゼンテーション会、自己振り返り会など発表の機会も作る。またこの具体的な行動事実、プロセスを採用企業側に学生の学びと成長の記録として知らせることができる。学生の学習履歴、成長度合いを発信することは金沢工業大学の付加価値教育にも通ずる大学教育力の証明である。このための愛知学泉大学社会人基礎力評価基準も大変優れている。経年変化で学生に何ができるようになったか具体的に記載、学習成果、到達度が評価できる。米国・アルバーノ大学に視察団を派遣し、さらなる改善・充実を進める。
 教員にとっても大きな教育のイノベーションで、この教育実践に向け徹底的にFDを行う。これら全体を社会人基礎力育成室が日常的に推進、こうした取り組みが高い就職率や国試合格率に表れる。家政学部の未就職はわずか5人。経営学部は98.3%、コミュニティ政策学部も95.4%(2012年)、管理栄養士国家試験も高い合格率を保持する。社会人基礎力の共通言語化に向けた先鞭をつけ、社会人基礎力育成・評価の体系的な独自の大学教育プログラム「無限の可能性」の構築に挑む。
 この背景には、経営学部、コミュニティ政策学部の定員未充足問題がある。この2学部を廃止し、2011年、現代マネジメント学部を新設する抜本改革を行った。こうした改革は、寺部曉理事長の強いリーダーシップで行われてきた。しかしトップダウンだけではない。ミッションでもある「無限の可能性」は構成員の力を引き出すマネジメントでもある。その一つが学園報告討論会。全学の教職員が一堂に会し、学園の現状と将来展望を報告、互いの教育実践を共有、理事長の基調講演の後、教職員の実践報告、分科会に分かれての討議で学園の目指す方向性を共有する。
 学部、学科、専攻、分掌ごとの事業報告、事業計画書の取り組みも優れている。毎年度の目標に対する到達度を自己点検、組織全体だけでなく各部署、各分掌で目標達成度を点検、まとめ集(報告書)として発刊する。これを理事会・評議員会、教授会や委員会に報告、評価や意見を聞き、フィードバックし運営改善に生かす。具体的であるが故、多くの指摘や意見があり改善・向上につながる。また各教員が授業改善報告書を提出、教育目的の達成状況の点検・評価を行う。授業アンケートも学期中間期に2回実施、各教員は授業改善プランをリフレクションペーパーに記載、冊子にして図書館等で公表する。
 定員割れから財務状況の悪化が続いたが、財政健全化5か年計画を策定し、収入と支出、教職員数、人件費比率や消費収支差額比率の具体的な目標値を%や額など数値で明示し改善を進める。
2012年、創立100周年で職員憲章を制定、ミッションを共有し、社会人基礎力のモデル大学として先駆的な取り組みで評価向上を目指している。



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