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平成25年9月 第2536号(9月11日)

ソーシャルメディアを活用した大学広報の実践 ―下―


聖学院大学  広報局長 山下研一

 ちょうど設置認可を申請した「こども心理学科」の募集広報を行なわなければならなかったので、通常の募集広報のほかにソーシャルメディアを用いた広報も試験的に取り入れてみた。facebookページに加えてmixiやgoogle+、学科ブログなどを使って発信を試みたのである。ソーシャルメディアが受験生に直接届くとは思わなかったが、保護者や先生などに届くことを想定して実施した。その効果でかなりのマスメディアに取り上げられたのは少々皮肉であったが、うれしい誤算だった。そのため初年度から募集を軌道に乗せることが可能になったのである。
大学広報間の連携とソーシャルメディアの活用
 自学のソーシャルメディア展開を行なうと同時に、ソーシャルメディアを使った広報が重要になるとするならば、もっと学ばなくてはいけないという考えから、知り合いの大学の広報担当者やライター、塾予備校関係者、教育情報会社や広告代理店の担当者にソーシャルメディアの勉強会を呼びかけた。そして2011年8月に第1回の勉強会を開催。約30名が集まり、ソーシャルメディアとは何かを中心に学びの場を持った。その場で「学校広報ソーシャルメディア活用勉強会(GKB48)」というfacebookグループを学校広報や教育に関心のある人に限定して非公開で作った。facebookへの関心の高さもあってメンバーが急速に増えていき、11月には関西で勉強会を開催するまでになったのである。この実名によるfacebook上での意見交換とリアルな勉強会という組み合わせがうまく機能したのだと思うが、1年後には600名までメンバーが増えた。2012年6月に大学改革実行プランが文部科学省から出されたように2012年は教育改革の年でもあったので、facebook上の議論も教育改革に関するものが多く、なかなか深い議論になっていた。600名全員がアクティブに発言するわけではなかったが、不思議なことに今まで意見を交わしたことのない分野の人たちの面白い議論がなされ始めたのである。大学の職員と高校の先生、小学校や中学校の先生、広告代理店、塾、予備校の先生が垣根を越えて議論する姿を目の当たりにして、大げさにいえばソーシャルメディアの教育を変えていくエンジンになる可能性を持っているのではないかと多くのメンバーが感じることが出来た。何か新しいムーブメントが生まれている実感があった。そして一周年にあたり、それまでクローズドに意見交換してきたことを、オープンに問いかけてみようということがグループ内で提言され、教育カンファレンス『これからの「教育」の話をしよう』という計画が持ち上がった。すべてのスタッフがボランティア、会場も機材もすべて無料で提供され、2012年8月に第1回の教育カンファレンスが開催された。そして、その時の講演録はその後みんなの手で編集されて、Next Publishingという仕組みで同名の本がPOD本と電子書籍として出版され話題を呼んだのである。これは、ソーシャルなグループだから成し遂げられたものであった。関心のある方はhttp://gkb48.comをご覧頂きたい。
最後に
 このようにソーシャルメディアは人々をアクティブにする力を持っている。共感すれば「いいね!」を押し、コメントを残す。これまで交流しようとしなかった人たちが進んで勉強会に出てくるし、すぐにコラボレーションやアライアンスということが始まる。そんな不思議な力をソーシャルメディアは持っている。これは、学生たちの教育にも大学を活性化する仕組みにも生かせるはずである。学生たちが大学を超えてコラボレーションを始めるときっと活気のある大学が内から形成されていくと思う。
 本学がソーシャルメディア広報宣言をしたきっかけを作った広告代理店の営業担当の一言に話を戻すと、私が閃いたのは「大学(学校)というところは非営利組織のはずなのに、募集のためにすべての行動がお金に換算されるという商業主義に毒されている」ということだった。
 2年間の勉強会の活動を通して整理することができた。またソーシャルメディアが「個」をアクティブにしたというよりも、組織が「個」が本来持っている「何か貢献したい」というアクティブな思いをスポイルしてきていたのではないかということを発見した。
 全国の私立大学の約8割は募集定員800名以下の小規模大学だ。そして生き残りをかけて募集をしなければならないと内からも外からも煽られる。しかし、落ち着いて考えみると、自大学の強み、他にない良いところをありのままにしっかりと伝えていく正攻法しかない。それは、教育の中身、在学生の元気、卒業生の活躍などの情報の丁寧な公開である。実はサバイバル競争ではなく、自校にあった意欲的な入学者を確保するためのマッチング戦略である。こういう学生なら必ず伸ばせるというターゲティングをし、入学後にこのように努力(成績の厳格化)すれば、卒業後にはこのような道を目指せると示してあげれれば入学者を得ることができる。そのような情報やメッセージを常に温かみのある真実の言葉で発信できるメディアがソーシャルメディアである。
 ソーシャルメディアの場合、反応を測れるということも大きなメリットだ。「いいね!」やコメント、あるいはシェアなどの反応で測れるメリットがある。まずはガイドラインを作ることは大切だが、効果的に発信するにはリテラシーが磨かれていく必要がある。しかし、先ほど述べたように反応を測ることができるので、いろいろと試行錯誤しているうちに、だんだんと反応の高い記事や画像(時に動画)はどのようなものかわかってくる。あまり固くならず発信者のキャラクターが伝わるような記事が書けるようになる。ラジオ番組の司会者をパーソナリティと呼ぶが、これは司会者の個性を前面に出して番組を組み立てるからそう呼ばれるのだろう。ソーシャルメディアでの発信はそれに似ている。通常は大学の広報は個性を前に出したりはしないので戸惑うが、ソーシャルメディアが一時期の流行ではなく、時代の流れであるとするとそうした新しいリテラシーとスキルが求められている。ソーシャルにコミュニケーション力の高い職員を育てることがこれからの広報の課題といえる。
 企業ではソーシャルメディア担当者を置くようになっている。大学広報でもいずれそうなるだろう。私はソーシャルメディアを積極的に活用した大学広報を一緒に考えていくことを呼びかけている。その実践の場が前述のGKB48である。関心のある方は事務局pr@seig.ac.jpに問い合わて頂きたい。 (おわり)


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