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平成25年1月 第2509号(1月9日)

 地域創職 ソーシャルビジネスと若者 A

 商店街の後継者対策に取り組む若者たち
 北海道 neeth株式会社・札幌学院大学等


大学と協働した地域課題への挑戦  neeth株式会社代表取締役 石井宏和
 当社は北海道で、2007年から500人以上の実践型インターンシップをコーディネートし、毎年100人近くの若者が就職、起業という形で社会で働きはじめている。特に2010年から2年間は、札幌学院大学、東京農業大学、小樽商科大学、札幌大学等の5大学と自治体、当社が連携して、「ソーシャルビジネスインターンシップ(内閣府地域社会雇用創造事業)」を実施した。
 札幌・岩見沢・小樽・網走の4エリアで、社会貢献型企業や事業型NPO、商店街、農業生産法人等、地域に根ざした受入団体で、150名の学生が課題解決のプロジェクトに挑戦した。当社は、@受入団体の調整・受入プロジェクトの設計、A大学教員と協働でシラバス用のカリキュラムを作成、B成果、学びを加速させる場の設定、C実践型インターンの学びを大学生活に還元する為のポートフォリオ作成、D団体や行政ステークホルダーへのフィードバック・政策提言を行った。
 本事業終了後も、前述のうち3大学で実践型インターン(短期・長期)を単位化し、継続的に農山村や商店街の抱える課題に若者と関わり続けている。なお、農山村での実践型インターンシップは、本年『食と地域の絆づくり大賞(農林水産省)』を受賞した。

地域の課題解決の原動力となる若者  neeth株式会社キャリア開発コンサルタント 黒石美有希
 @施策の実証実験を確立。コーディネータという役割
 郊外に大型量販店が次々に誕生する近年、日本各地で時代の流れと共に消え行く商店街もある中、北海道岩見沢市4条通り商店街は、後継者不足の課題を解決する目的で2012年後継者対策事業に取り組んだ。
前年度実施したインターンシップの中で発掘した課題に対して、提案し実証する仕組みは、地域社会における多種多様な課題(Gole)と、解決への政策(Process)、そこに若者(player)を繋ぐコーディネータの緻密なプロジェクト設計が必要だ。後継者対策事業は土台から順序だてをして、一つ一つ仮説と検証を繰り返しながらの数年間の歩みがあった。
 実際に商店街に入り込み、根付いている若者のケースでは、商店街の企業でインターンシップを受け入れ、フリーペーパーを通じ、街を取材し発信する。結果、それまで岩見沢と繋がりの無かった若者が地域の魅力を知って、地域の人と出会い、地域で育てられることにより今度は「恩返しがしたい」という想いが生まれ、郷土愛を持ち、活性化に取り組む、という理想の弧を描き拡がった。
 この課題の重要なポイントである「商店主らの意識改革」に真っ直ぐに取り組んだプロジェクトも、若者が持つ実直さで成功するなど、数々のプロジェクトを土台にして、2012年後継者対策事業がスタートした。
商店街に人が集まり、個店が継続できる状況を目指し、全道から若者が集まった。たくみ講座では、商店主が先生となり、市民に自身が今まで培ってきた技や知識を伝授する。それは、商店主と市民を繋げるきっかけを創った。
 若者が商店街で起業することは一見、後継者対策と無関係に思われるかもしれない。しかし、商店街という地域に根付く事で、地域を後継していく役割を担う。そうした理由から商店主が起業希望者に向けて、ビジネススキルを教える起業塾も実施された。
 2013年2月には、未来を担う若者10名が、商売、商店街、地域社会の後継を志し手を挙げる。このように後継者対策事業は、数年に渡る土台と数々のプロジェクトを経て、終盤を迎える。後継者がいない課題への解決策は、後継者を育てるべく次の土壌を整えた。
 ・個店では遠のいた客足に将来の事業継続にも悩む、店づくりや発信力を強化し「顔の見える商店街」を構築する。
 ・空き店舗の増加で商店街機能が失われるという課題に対して、商店街をフィールドにする起業家を育成し、迎え入れる。
 ・地域、商店街の活性化に取り組む次世代がいないという課題に対して、現在の若手商店主に店づくりとまちづくりを教え、育成する。
 ・地域の大学も、地域社会との接点が薄れているという課題に対しては、プロジェクトを知った学生が求めて参加し学びを大学へと持ち帰る。
 このように、課題には幾つもの要因が重なっていたが、コーディネータは、この要因を紐解き、地域の大学と共に解決、未来に繋ぐ役割がある。ちなみに、一連の取り組みは、メディアからも注目、新聞への掲載は今年度40を超えた。
 都市部の若者と農業や、地域の食との繋がりを普及させるプロジェクト「きたベジ」は、
1.食育的背景―将来の母となる女子大生が社会に出る前に、食のサプライチェーン(生産、流通、加工、消費)について学ぶ
2.農業―食の安全性、土作り、等について考えるきっかけづくり
3.生産者と消費者の交流促進―生産者の意識向上、テストマーケティングの場
 などを目的にスタートした。若者は、農業体験や収穫した野菜を使っての料理教室を行なうことで、農業を尊敬し、食の大切さを知る。北海道の農山村に魅力を感じるようになる。農山村での農業体験、交流を通じ、故郷で働こうとする若者が誕生した。
 A若者における成長
 このように政策と現実が交差する課題を抱える地域社会に、利害関係抜きで地域の未来の為にと入り込める学生たち。若者の成長という視点ではどうか。
 学生は、時代背景や、地域が持つ課題を理解する中、持続的な社会とは何か、社会の持つ課題に対峙する泥臭いプロジェクトの中で、周りの大人と一緒に自身や社会の現状に妥協する事無く、共に未来へどうあるべきかを遡及せざるを得ない状況に追い込まれる。自分を思い知り、いかにプロジェクトの成果に沿い試行錯誤しながらも自身の決断に背を背ける事の無いようにビジネスパーソンとして、遂行するか。
 “社会の中で生かされている自分”に己の非力を自覚し、己の可能性を伸ばす意味を知る。インターンを経験した者は、大学へ戻り改めて学び、知る。インターンで芽を出した学びの意欲は大学での教育の喜びと共に、インプットする知識をいかに将来アウトプットしようかと模索し始める。

地域に根ざした大学として外部コーディネータとの協働のあり方
札幌学院大学教授 河西邦人
 本学経営学部ではインターンシップを正規科目とし、研究型インターンシップに取り組んできた。しかしこれは、大学の学習との関係性は強いものの、社会人としての基礎能力を高める点では弱いと感じていた。2010年3月、neeth株式会社の石井社長から、内閣府地域社会雇用創造事業の協働へのお誘いを頂き、現場で問題解決を実行させて育てるという、石井社長の行う実践型インターンシップの理念や手法を存じ上げていたので、その場で参加を決めた。
 2010年度は実施までの期間が短かったので、地域社会雇用創造事業の予算を使い、非公式な学外教育として行った。私が担当するゼミナール生を中心に参加させ、事前研修、企業等での実習、事後研修を経て成長した11名の学生の姿を目の当たりにして、仕事の現場で企業等の社員から指導を受け、問題解決能力を高めていく実践型インターンシップへの評価をいっそう高めた。
 当時、私が教務委員長かつインターンシップ担当教員だったことから最終的な責任は私が負うとし、2011年度、同社と協働で行うインターンシップを正規科目へ導入できた。そのため、他のゼミナール所属学生五名を含め、11名が参加した。問題解決能力の向上に加え、他大学の学生と一緒にプロジェクトを行い、自信を持った学生が出たことが担当教員としてうれしかった。
 参加学生が2012年度、就職活動で成功しているのを見て、改めてインターンシップの効果を実感している。2012年度で地域社会雇用創造事業が終了したが、事前研修、実習、事後研修を同社へ委託し、インターンシップを正規科目で行っている。大学のカリキュラムに実践型インターンシップを導入できたのは、2年間の地域社会雇用創造事業での実績と同社との信頼関係があったからである。

 

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