Home日本私立大学協会私学高等教育研究所教育学術新聞加盟大学専用サイト
教育学術オンライン

平成25年1月 第2508号(1月1日)

伊勢神宮20年ぶりの式年遷宮 社殿や神宝を新たに造作


国士舘大学文学部教授  藤森 馨

 「式年遷宮」は20年に一度、社殿を建替え、御装束や御神宝を新調して神さまにお遷り願う儀式である。「式年」とは、“定められた年”という意味で、伊勢神宮では20年に一度である。第1回目の式年遷宮が行われたのは持統天皇4年(690年)と伝えられている。以来、1300年にわたり続けられ、平成5年に第61回目、今年で62回目となる。「式年遷宮」について、国士舘大学文学部の藤森 馨教授にご執筆いただいた。

持統天皇4年が始まり

 伊勢神宮では20年に一度、大規模な修造が執行される。これを御遷宮という。今回の御遷宮で62回目をかぞえる。壬申の乱に勝利した天武天皇の御願で、妻女である持統天皇がその4年に大神宮の遷宮を行い、その6年には豊受宮の遷宮が行われたと神宮の古伝は伝えている。このあたりの伝承は、あくまでも平安時代後期に成立した『大神宮諸雑事記』に見られるもので定かではない。御遷宮とは、御社殿や神宝を新たに造作して、御神威を高らしめる祭祀といえよう。
 遷宮に関しては「延暦両宮儀式帳」にも見られるが、「延喜伊勢大神宮式」の条文が詳細である。「延喜伊勢大神宮式」18・19条によれば、造替される殿舎は、正殿・宝殿や皇后東宮並びに東海道駅使幣帛や調の荷前を納める外幣殿など、基本的に朝廷からの幣帛が奉献される殿舎であり、内宮も外宮も、変わらない。別宮七院も大神宮・度会宮を除き、荒祭宮・月読宮・滝原宮・伊雑宮・多賀宮、また12社にも朝廷の幣帛が、奉献されることになっていた(須麻留社・佐奈社・櫛田社は斎宮から幣帛が奉献された)。つまり、御遷宮とは基本的に朝廷からの幣帛が奉献される神宮とその別宮及び諸社が預かることになっていたのである。
 この御社殿造営の責任者を造宮使という。「延暦両宮儀式帳」によれば、造宮使は長官、次官、判官、主典2人、木工長上1人、番上工40人で構成されている。吉日を選んで二所大神宮を奉拝。役夫を伊勢・美濃・尾張・参河・遠江各国から発し、国別に国司1人、郡司1人役夫を率いて造奉した。
 ところで、神宮の遷宮に際して、中央から差遣される使者に関して、「延喜伊勢大神宮式」には唯一、遷宮禰宜内人等装束条に、神宮の装束を神宮に送るに際してのみ、まず宮中を祓い潔め、さらに中臣氏を京・五畿内と近江・伊勢および伊勢の大神宮司に、各1人を差遣して、祓い潔めることになっていた。
 さて、都の神祇官西院で、神宮の装束や神宝の製作に当たったのは、「延喜伊勢大神宮式」宝送条によれば、弁官の五位以上1人、史1人、史生1人、官掌1人…以下略…とあるように、太政官の弁官五位以上の者と以下105人の人々であった。これらの人々が製作した装束や神宝は、『皇太神宮儀式帳』「新宮造奉時行事并用物事」によれば、装束・神宝製作監督者であり、通常は太政官の庶務や官庁間の連絡を職掌とする弁官と、神祇官の大史、および太政官・神祇官それぞれの史生によって神宮に送られたという。同様の規定は、「延喜伊勢大神宮式」遷宮禰宜内人等装束条にも、弁大夫すなわち五位の弁官以下の奉送使の詳細を窺知できる。
 つまり、神宮の社殿を奉飾する金具や殿内の装束、および神宝を神宮へ送るに際して、中央政府では最も厳重な潔斎を行う規定を置き、その正使は五位以上の貴族である弁官が勤仕することになっていたのである。こうした規定と符合して、遷宮に際して、祭主の中臣が奏上する祝詞には、

大神宮を遷し奉る祝詞〈豊受宮もこれに准よ〉
皇御孫の御命以ちて、皇太御神の大前に申し給わく、常の例によりて、二十年に一遍、大宮新たに仕え奉りて、雑の御装束の物五十四種、神宝二十一種を儲け備えて、祓え清め持ち忌まわりて、預かり供え奉る弁官の位某の姓名を差し使わして、進り給う状を申し給わくと申す。(原漢文)

 と、20年に一度社殿を造営し、装束や神宝を厳重な潔斎をした上で、弁官が神宮へ奉納する旨が見られる。
つまり、20年に一度の遷宮に際しては、装束や神宝の製作から神宮への奉納にまで関与した太政官の弁官が、朝廷からの正使として差遣されたとは考えられないであろうか。
 天平宝字6年(762)以前に成立したと思われる正倉院文書の正殿飾等金物注文が存在することから、遅くとも奈良時代には延喜式のような遷宮儀が成立していたものと思われる。
(写真提供・神宮司庁)

〈筆者の略歴〉
▽1989〜2009年/國學院大學非常勤講師、▽1991〜1993年/日本学術振興会特別研究員、▽1994〜1997年/図書館情報大学非常勤講師、▽1998〜2005年/国士舘大学文学部文学科助教授、▽2005〜/国士舘大学文学部文学科教授、同大学院人文科学研究科人文科学専攻(修士課程)教授。1994年に神道宗教学会学術奨励賞受賞。著書・論文等多数。


Page Top