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平成24年10月 第2501号(10月24日)

改革の現場
 ミドルのリーダーシップ <29>
 伝統ある社会人教育と学生教育の結合
 産業能率大学



 産業能率大学の創設者、上野陽一氏は、企業の能率向上と言うニーズに実践で応える、日本最初のマネジメント・コンサルタントだった。1925年に創立された日本産業能率研究所を母胎として1942年に財団法人日本能率学校を設立、戦後の短期大学制度発足に伴い産業能率短期大学を設置するに至った。大学の開校は1979年。既に陽一氏は亡くなっていたが、建学の精神にはその教えが受け継がれている。現在は、湘南キャンパスに情報マネジメント学部、自由が丘キャンパスに経営学部を設置し、企業、地元商店街、スポーツチーム等と連携してのプロジェクト型学習など、独自の実学教育を行うことで知られる。日本のマネジメントの祖を創設者とする大学はどのようにマネジメントされているのか、冨田 稔大学事務部長、村山 滋企画広報部長に聞いた。
 設置母体であるカ搦Y業能率大学は、併設する総合研究所において企業向けの社員研修を行っており、産業界では高い知名度を誇っている。多くの企業をクライアントに持つことから、学生が就職活動する際に企業人事担当者から話が出ることも少なくない。卒業生は、就職先でその研修を受けることもある。
 また、産業能率大学はビジネススクール型の大学院を設置しているが、総合研究所の研究員10名ほどが教鞭を執っている。これは同大学院が、リアルな課題を抱える企業人を学生として受け入れ、その解決を支援することを特長としていることから、企業コンサルティングの経験が豊富な研究員の知見を生かすことを主眼としたものである。同時に、専任教員との交流を通じて学生教育と社会人教育それぞれの活動の成果が相互にフィードバックされ、教育テーマの拡大や質の向上に寄与している。企業とのコラボレーションにも積極的なことから、大学と総合研究所にクライアントである企業や官公庁を加えたトライアングルが形成されている。これについて村山部長は「社会に人材を輩出する機関である大学・短大・大学院、社会に出た人材を育成するための調査・研究や研修を行う総合研究所、そして人材が活動する場である企業や官公庁という三つの役割がうまく機能し、産業界に最も近い高等教育機関という評価につながっています。そのことが教育はもちろん、学生募集、就職支援にもうまく活かされています」と説明する。
 大学教育の核をなすのが、プロジェクト型学習を取り入れ、体験活動や実習的な授業を組み合わせるアクティブ・ラーニング。インターンシップ、グループワーク、フィールドワークといった手法には長い間の蓄積があったが、2000年に経営学部を創設した際にこれらを改めて体系化・構造化し、「学習定着率」という指標を重視した。
 実務系教員が多い大学の特徴にもれず、教員と職員には垣根はなく、良いアイデアであれば積極的に採用していく。科目の開発は担当教員だけでなく、幅広く意見をもらう。ただ、こうした取り組みは一朝一夕にできたわけではない。「大学の設立当初は組織や仕組みを整えることで手一杯でした。その後、さまざまな取り組みを重ねていく中で理想が形作られてきました。時代に応じて変化するだけでなく、次代を見据えて施策を実践していくのは当然のことです」と村山部長。
 創立者がマネジメントの研究と普及に生涯を捧げたことから、同大はマネジメントを最も重要視している。企業にマネジメントを教える大学だけに、マネジメント体制は非常に堅実である。大学では珍しい目標管理制度を全職員に導入し、人事考課や能力開発に活用している。この制度は、目標を達成することだけが目的ではなく、能力開発やジョブ・ローテーションを踏まえた人材開発に重きを置いている。「職員評価および能力開発としての目標管理には昔から取り組んでいましたし、部署ごとの活動計画も議論をしながら組み立てていきます。各職員の年度の目標は、方針は合わせますが、押し付けではありません。マイナスを評価するものではなく、プラスを見て、モチベーションに繋げるように工夫をしています」と冨田事務部長。
 既成概念にとらわれず、常に新しいことにチャレンジする。これがすでに文化となっているところが産業能率大学の強さの秘密でもある。

企業とのコラボレーション教育で実践力ある人材を育成
日本福祉大学常任理事/桜美林大学大学院教授 篠田道夫

 「ムリ、ムダ、ムラをなくす」。誰でも知っている合理化の基本を提唱したのが能率の父と呼ばれる上野陽一。大正九年、日本初のマネジメント・コンサルティングを行った日本産業能率研究所を創立の母体とする。
 大学教育も、こうしたマネジメントの現場、企業が近くにいることを徹底的に生かし、他の大学がまねのできない強みを作り出している。インターンシップという言葉が無かった時代から企業実習を必修とし、会社を教材とする独特の教育を作り出してきた。
 今でも企業とのコラボレーションは授業の中核をなす。例えば、異業種企業とのコラボレーションで新たな商品を開発しプレゼンテーションを行う授業には、JTBと宝島社、JTBとFUJIFILMなどの組み合わせで、現職の事業開発部長などが授業に参加する。イベントを企画・運営し、レポートし実際にメディアに記事を掲載する授業では、日刊スポーツ新聞社営業開発部次長が授業をプロデュース、最前線で活躍する記者やカメラマンが授業に参加し、記事が『日刊スポーツ新聞』に掲載される。
 これらの授業推進の核となるのがSANNOアクティブ・ラーニング。「聞くだけの授業から参加する授業へ」を合言葉に、問題発見・解決型授業、PBLを活用する。キーワードは学習定着率。講義を聴くだけでは5%しか得られない学習定着率が、グループ討論50%、自ら体験する75%、他の人に教えることで90%と高まる。この効果を意識した授業改善が不断に取組まれる。
 こうした教育方法は就職活動にも生かされる。ゼミ単位でのグループワークで、業界マップ作りに取り組み、ネット調査、文献調査など業界研究を深めたり、他大学とのビジネスコンテストに参加したりする。ゼミ教員との年2回の面談、キャリア支援センター職員も担当制(チューター制)をとっており双方からの個別相談体制が整っている。人事担当者の産能大評価は高く、当然、高い就職実績をつくる。
 そもそも企業出身の教員が62.3%、併設の総合研究所出身の教員も2割おり、大学と研究所が相互に授業や講座を持つ教育交流も盛んだ。大学の教員数は約70人、職員は80人で職員の人事異動も大学―研究所間で行われ、マネジメントの現場と大学教育現場が共有されることで、社会人教育事業と学生教育事業を併せ持つ強みが発揮される。
 マネジメントの基本原理は大学運営にも生かされている。長期経営ビジョンが理事会から示され、それを踏まえ毎年、学長が大学活動方針を全教員に提示する。教学役職者並びに全教員は、年間の活動目標を設定し、年2回学長や学部長と面談を行う。ただ、これは方針の一方的提示や実施状況の点検を目的とする訳ではない。教育活動や大学業務を振り返り情報共有や意見交換を重視するもので、これを契機に自ら考え工夫・改善していくことを狙いとする。
 職員の人事考課制度も同様で、上からの査定ではなく、中長期的な視点で目標を設定し、その達成に向けて何をしたか、自発的・自律的・主体的に考えることを重視する。年2回の面談における目標設定も本人からの提案を重視、評価も自己査定を大切にしフィードバックを行う。担当者が自らテーマを設定しチームを作って改善に当たる「プロジェクトリーダー制度」などもある。
 こうした教職員のマネジメントには、産能大が推進してきた目標管理制度(MBO)の本質、目標の実現へ主体的に考え自律的に行動する、の実現が底流にある。
 上野陽一が創設したマネジメント・コンサルタントの伝統、社会人教育で培ったビジネスの現場に精通している強みを生かし、企業現場とのコラボレーション教育を通してビジネスプロフェッショナルを育成することで、強い個性的な教育を作り出している。


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