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平成24年7月 第2490号(7月18日)

国際ラウンドテーブルを回顧する
  金沢工大図書館ラウンドテーブル会議



 金沢工業大学(石川憲一学長)のライブラリーセンター(竺覚暁館長)と米国図書館・情報振興財団が主催する「図書館・情報科学に関する国際ラウンドテーブル会議」が、7月5日・6日にわたり同大学で開催された。この会議は、前身の「図書館・情報科学に関する国際セミナー」から数えて通算30回目となり、この節目に「国際ラウンドテーブルを回顧する」をメインテーマに、デジタルライブラリーの進展、Eラーニングの進展と大学教育、大学図書館の最新的な管理運営法、新時代の蔵書構成などの講演とディスカッションを行った。

 第1日目は、5人の講師から講演があった。
 まず基調講演として、「情報技術の進展 高等教育から見た見解」と題して、エデュコーズ副会長のグレゴリー・A・ジャクソン氏が講演する予定であったが、急な用件で来日できず、同ライブラリーセンター名誉館長のディアンナ・マーカス氏が原稿を代読した。同氏は、高等教育改革の原動力としての情報技術、情報技術の進展などについて、専門の教育学の視点から高等教育の展望を語った。今後、情報技術を活用した体験型学習、講義中心の授業からの脱却、コンピュータネットワークが教員に置き換わるなど、メリットばかりでなくデメリットを含めて改善方法を示唆した。
 次に、「構成主義の再創造、有効利用と実践―高等教育におけるデジタル化」と題して、スワスモア大学教授のティモシー・J・バーク氏が講演。同氏は、一八歳までに印刷文化に慣れ親しんだ世代を「印刷ネイティブ」、同じく情報技術に慣れ親しんだ世代を「デジタルネイティブ」とし、すでに大半の高等教育の専門家の情報技術に対するスキルや理解が学生よりも劣っていると指摘した。また、今世紀になって学術誌のデジタル化(電子ジャーナル)が進展し、高額な対価を支払わないとアクセスできない「クローズド」な状態を憂い、オープンアクセスな出版を知恵を絞り立ち向かうべきと提言した。
 次に、「大学図書館における管理運営のトレンドと課題―過去を振り返り、現在を評価し、未来を予測する」と題して、コロンビア大学情報担当副学長・図書館長のジェームズ・G・ニール氏が講演した。同氏は、@戦略的計画の立案、A予算の策定と財源開発、B組織とコミュニケーション、C設備と空間、D人材開発と人員配置、E評価と説明責任、Fコラボレーションとパートナーシップという大学図書館の七つの管理運営面について解説。コロンビア大学図書館では資金調達の一環として独自に寄附金を集めており、3名の専属スタッフが担当して9500万ドル(76億円)を集めた。そのほかにも出版事業、ソフトウェア開発、レストラン経営、貸しスペースの提供などによって新たな収入を獲得している。米国の研究大学図書館の驚愕の最先端事例に参加者も大いに興味を示した。
 その後、「研究大学の図書館の経済―過去、現在、未来」と題して、公立ラングラント大学協会シニアフェローのデイビッド・E・シュレンバーガー氏が講演した。同氏は、専門の経済学を駆使して、米国の私立大学図書館、公立大学図書館の各種の経費・予算を比較した。米国大学の「教育と一般経費(E&G)」はこの20年間に3.62倍に増加したものの、図書館の支出は1.89倍に過ぎず、E&Gに占める図書館支出の割合は減少していること。医療費高騰の結果、高等教育をはじめとする他分野への補助金が減少していること。電子ジャーナルの価格高騰がさらに図書館予算を圧迫しており、これは日本でも同様の傾向にあることなどを述べた。
 最後は、「プロダクト(成果)からプロセスへ―二十一世紀の蔵書構成」を題して、コーネル大学図書館長のアン・R・ケネイ氏が講演した。同氏は、1995年に図書館予算のわずか5%だった逐次刊行物費が2004年には42%にまで拡大した主原因が電子ジャーナルにあるとし(コーネル大学は60%を占める)、その費用の多くがエルゼビア社などの独占的な数社に支払われる現状を指摘した。現在、北米研究図書館協会理事会は秘密保持条項を含む出版社との契約には応じないよう強く求める決議が行われ、また、ケンブリッジ大学の著名な教授の呼びかけでエルゼビア社に対する不買運動が行われ、1万2000人もの研究者が賛同している。同氏は、この学術情報の独占状態を打破するためには、オープンアクセスジャーナルの発展が不可欠とし、財政面・著作権面での問題を早急にクリアしていくことが早急に求められるとした。
 翌日は終日にわたり質疑応答が行われ、約50もの質問に対して活発な議論となった。

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