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平成24年7月 第2489号(7月11日)

学習環境デザインで  能動的な学習を支援する 4
  能動的な学習を支援する学習環境 大学図書館とラーニングコモンズB


三重大学附属図書館研究開発室准教授  長澤 多代

 前号までに、ラーニングコモンズの構成要素、協同的な学習の空間、多様な情報資源へのアクセスの窓口について説明した。本稿では、ラーニングコモンズの設計について説明する。
 5.ラーニングコモンズの設計
 ラーニングコモンズの設計で重要になるのは、何を設置するのかではなく、何をする空間であるのかを考えることである。そのときに、利用者を増やすなど図書館の視点ではなく、教育にどのように貢献するかという大学全体の視点から考えることが重要である。ラーニングコモンズを日本で最初に紹介した米澤は、標準的・規範的なモデルはないと指摘する(米澤、2008)。米国の研究図書館協会は、計画段階における評価の手法として、質問調査、コメント用紙、学生や教員の諮問グループ、学内外の専門家からの意見聴取などを提示している(Stuart,2008)。利用者のニーズも確認しながら、各大学の教育改革の動向やキャンパスの文脈をふまえて設計することが重要になる。
 お茶の水女子大学では、「リベラルアーツ支援図書館」を目指す中で、ラーニングコモンズを計画した。その時に、図書館の1階と2階の機能を分化した。一階は会話ができる空間である。ラーニングコモンズ、新聞や一般雑誌を閲覧できるラウンジ、キャリアカフェからなる。キャリアカフェには、カップ式のドリンクサーバーを設置した。一方の2階は静かに勉強する空間である。図書館のカウンター、開架図書架、書庫がある。「一般閲覧席」を「クワイエット・スタディスペース」に名称変更して、要望のあった大学院生用の研究スペースを設置した。お茶の水女子大学では、全学的な教育改革として、2008年度に「21世紀型文理融合リベラルアーツ教育」を稼働させた。教育目標は、文系理系の垣根を超え、講義・討論・発表・実験実習・演習を組み合わせた授業構成により、「読み・聞き・書き・語り・作る」という五つの能力の養成をとおして、ひとりひとりが生涯にわたって活き活きと生きていくための英知を身につけることである。ラーニングコモンズの設置に携わった元課長は、この教育目標とラーニングコモンズの目指すものが一致しているとして、教育改革への貢献を確信している(茂出木、2008)。
 東京女子大学では、グループワークをしたり、学生が多様な学習支援を受けながら図書館で夜遅くまで学習したりするために、会話や飲食ができる空間が求められていた。これに応えて、図書館にラーニングコモンズを設置した。ラーニングコモンズは、コミュニケーション・オープンスペース、プレゼンテーションルーム、メディアスペース、リフレッシュルーム、グループ閲覧室などからなる。改修計画の準備段階では、職員が他大学を見学したり調査したりして、フロア構成やサポート制度に関する知見を得た。そして、図書館内に新しい空間を捻出するために、事務室を縮小したり、参考資料やマイクロ資料を地下へ移動させたり、電子化の作業が済んだ資料を除去したり、応接室や館長室をなくしたりした(西森、2010)。
 ラーニングコモンズを設計するのは、図書館関係者であること多いが、学内の関係者と協働することもある。大阪大学の理工学図書館では、キャンパスデザインセンターの建築専攻の教員に、什器等の配置や配色を含む設計段階から協力を得て設計した。三重大学では、共通教育棟の教室をラーニングコモンズに改修したときに、建築学科の四年次の学生(当時)が卒業研究の一環で設計し、カラーコーディネーターとインテリアコーディネーターの資格を持つ共通教育の事務補佐員が配色や什器の選定をした。その後も、建物の新築時や附属図書館の改修時には、建築学科の教員や大学院生と図書館関係者が協働してラーニングコモンズを含む学習空間を設計している。
 6.静かに学習するための空間の設計
 教室外の学習環境には、協同的な学習空間だけでなく、集中して本を読んだり思考したりする静かな学習空間も必要である。カーペットをエリアごとに色分けして、空間の違いを強調する工夫も見られる。カーペットには、吸音効果もある。
 前述のお茶の水女子大学の図書館では、1階と2階で機能を分化している。大阪大学では、総合図書館の二階をラーニングコモンズにして会話のできる空間とし、四階をサイレントゾーンにしてタイピングもできない静かな学習空間としている。三重大学では、附属図書館の耐震改修の計画で、1階にラーニングコモンズを配して交流の空間に、2階は多数のコンピュータを配して小声での会話のみを許可する静音の空間に、3階はタイピングもできない無音の空間にした。多様な学習スタイルに対応できるゾーニングが求められる。
 7.休憩するための空間の設計
 集中力を保ちながら長時間の学習をするためには、カフェやラウンジでの休憩も必要になる。
 カフェを設置する大学は日本でも増えている。東京女子大学、明治大学、金沢大学、名古屋大学がラーニングコモンズやその付近にカフェを設置している。金沢大学では、コーヒー店がコーヒーやジュース、軽食をブックラウンジで販売している。明治大学の和泉図書館では、ラーニングコモンズの下の階に、コーヒー店がある。営業時間は平日と土曜日の8時30分から18時だが、それから図書館の閉館までは、自習に利用することができる。静岡大学の浜松分館では、大学院生が、公共的な空間を創設するという研究プロジェクトの一環で、ラーニングコモンズに隣接したテラスに喫茶スペースを設け、コーヒーを期間限定で販売している。
 ラウンジは、ゆったりとくつろぎながら本を読んだり、談話したりする空間である。座り心地のよいソファを配するなど、学習空間との違いを演出する。大阪大学では、協同的な学習空間の側にベンチ型のソファを設置し、リラックスできる空間をつくりだしている。金沢大学では、ブックラウンジにソファ型のいすを備え、新聞やCNN、無線LANを利用できる開放的な空間にしている。カフェを設置できない大学も多いが、ラウンジを飲食可にすることによって、その機能を実現することができる。北海道大学では、くつろぎのスペースとして設置したメディアコートに、木製のベンチとともに、自動販売機を設置している。その周囲には、情報共有や情報発信に備えて、多数のピクチャーレールを配している。
 次号では、ラーニングコモンズの運用について説明する。
(つづく)

 〈引用文献・参考文献〉
 餌取直子,茂出木理子.お茶の水女子大学附属図書館における学習・教育支援サービスのチャレンジ.大学図書館研究.2008,No.83,p.11−18.
 加藤信哉編訳.ラーニング・コモンズ基本論文集(科学研究費補助金(基盤研究(B))研究成果報告書).2010,136p.
 茂出木理子.ラーニング・コモンズの可能性.情報の科学と技術.2008,Vol.58,No.7,p.341−346.
 西森年寿.“ケース・スタディ:マイライフ・マイライブラリー.”学びの空間が大学を変える.ボイックス,2010,p.78−99.
 Stuart,Crit.<CODE NUM=033E>ARL Learning Space Pre−Programming Tool Kit.’’ARL,2008,28p.
 上田直人,長谷川豊祐.わが国の大学図書館におけるラーニング・コモンズの事例研究.名古屋大学附属図書館研究年報.2008,No.7,p.47−62.
 上原恵美,赤井規晃,堀一成.ラーニング・コモンズ.図書館界.2011,No.360,p.259.
 米澤誠.ラーニング・コモンズの本質.名古屋大学附属図書館研究年報.2008,No.7,p.35−45.


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