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平成24年6月 第2485号(6月13日)

プロジェクト型研修の提案
  課題解決をFD・SDに結び付ける



 幣紙では、日本福祉大学常任理事の篠田道夫氏の協力を得て、「改革の現場―ミドルのリーダーシップ」を連載しているが、この連載を通して、改革に一定の成功が見られる大学の共通点の一つとして、ある特徴的な研修が行われていることが見えてきた。いわば、「プロジェクト型研修(PBT:Project Based Training)」とでも言うべき新しいFD・SDの形である。

●PBLの応用
 教員が与えたり、自ら設定した課題をチームで解決していく中で様々な学びに繋げる教授方略は「プロジェクト型/課題解決型学習(PBL:Project/Problem Based Learning)」と呼ばれ、アクティブラーニングの代表的な手法として中教審の答申等でも注目されている。
 このたび提案する「PBT」は、簡単に言えば、若手職員が学内プロジェクトを通して研修(トレーニング)されるものである。まず、各部局の若手職員、あるいは学科の若手教員を数名選出し、チームを作る。その後、課題設定を行う。課題は全学的に現在必要なものを上司が与えてもよいし、いくつかある中からチームに選ばせても良い。チームは課題に対して、情報収集、分析、解決策をまとめて報告書を作成する。この一連の作業を通して、メンバーは多くのことを学ぶ。
 椙山女学園大学では、若手教職員が中心のチームに、企画広報部を通じて課題が与えられ、解決策を「答申」する。ルーテル学院大学では、教職員、場合によっては非常勤講師が年に五回集い、教育方法や附属機関等の組織体制、学生対応をどうするか、建学の精神をどう捉え展開するかなどをテーマにグループディスカッションが行われる。この場合、「答申」という形にはならないが、学内の課題を共有し当事者意識を育てることもできる。
 常翔学園(大阪工業大学、摂南大学、広島国際大学)や鹿児島純心女子大学では、昨年度より具体的に「中途退学」をテーマに、若手を中心にプロジェクトチームを組み報告書をまとめている。
 福岡工業大学では、中堅教職員を中心に四テーマのチームが編成され、このテーマに沿った形でアメリカ・カリフォルニア州立大学イーストベイ校に二カ月海外研修に行く。大学で実施研修を受けながら、与えられたテーマをチームで解決・対策案を提示していく。
 PBTの目的の第一義は、学内の課題解決であるが、同時に教職員のスキルアップ・動機付けであり、部課署の縦割りを崩すことであり、教職協働である。こうした中で教職員のチームワーク力、課題解決力、情報収集力、調査分析能力、文章力、プレゼンテーション能力などの向上を図る。
●相互研修型との違い
 弊紙2474号(3月7日)では、「相互研修型SD」を提案したが、「相互研修型」と「PBT」の違いは、前者は仕事のリフレクション(振り返り)に重きが置かれているのに対して、後者は学内課題の解決に重きが置かれている点である。共通するのは幹部の関与の重要性であるが、PBTには更に注意すべき点が三つある。
 一つ目に、「課題解決策を提示して終わり」とならないようにする工夫である。解決策を提示したものの、それが実行されないとあれば、誰も本腰を入れて解決策を提示しないだろう。椙山女学園大学では課題の解決策を答申するチームと、それらを実現・実行するチームの二段構えにして、解決策は確実に実行されるようになっている。
 二つ目に、学生のPBLに見られるような、「チームの一人に負担が偏ってしまう」という状況には注意しなければならない。しかし、この解決もチームワーク力向上の機会と言える。
 三つ目に、年度途中で生まれる「予想外の新企画」の芽を潰さないことである。大学によっては年度の途中から新しい事業を始めることが難しいかもしれない。これをうまく解消する手法が、学長や事務局長などの裁量予算制度である。例えば、事務局長裁量予算を五〇万円と置く。新規企画経費をこれに当てれば、小規模ながら、新しい芽を育てることができる。可能性が見出せそうなら次年度からは予算化すればよい。まさに常翔学園ではこのような制度がうまく機能している。
●事務処理から創造へ
 篠田氏は、こうした動きについて、「教育目標の達成、経営課題の実現に事務局が直接関与する場面が増え、職員の役割、求められる力量が従来と全く変わってきた。事務処理から創造へ、これは進歩ではなく飛躍。その力の付け方は色々と開拓していかねばならない」と述べている。
 PBTが進めば、学内課題を解決するためのプロジェクト、あるいは、新しい企画が常時稼動する状態が生まれ、政策立案型事務組織が実現できよう。


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