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教育学術オンライン

平成24年2月 第2472号(2月15日)

大学は往く 新しい学園像を求めて〈38〉
  湘南工科大学
  人間味ある技術者育成
  就職に強い大学を自負  文理融合学科で新機軸

 文系コースにも対応し、総合的に学ぶ文理融合学科と基幹産業技術系学科の2系統6学科の工科系大学。湘南工科大学(谷本敏夫学長、神奈川県藤沢市辻堂西海岸)は、創立以来、学問研究の推進と人格形成を行うとともに、様々な分野で活躍する技術者を育成してきた。現在も、モノづくりを足掛かりに学生個々人の必要性や興味に応じて勉強の幅を広げ、人間味にあふれた技術者育成を目指す。とくに、学科再編で生まれた文理融合学科は、時代に適合、女子や文系志向の志願者の増加にもつながっている。キャンパスが海に近いこともあってサーフィンやヨットの授業もある。学生は、NHK大学ロボコン、鳥人間コンテスト選手権大会などのイベントに積極的に参加。地域貢献も目覚ましいものがある。「工科系大学ならではの企業との太いパイプと就職支援で就職に強い大学」を自負する学長に大学の今とこれから、を聞いた。
(文中敬称略)

活発な地域貢献 サーフィンの授業も

 澄み切った青い空と光りまばゆい青い海。大学から800メートル先には湘南の海。江の島も指呼の間にある。古都鎌倉も隣町だ。恵まれた自然環境がある。キャンパスは、1959年に日本に返還された在日米海軍辻堂演習場の一部だそうだ。
 湘南工科大学は、1961年に設立された相模工業高等学校が前身で、63年、相模工業大学(機械工学科、電気工学科)が開学。89年、法人名および大学名を湘南工科大学に改称した。
 2001年、システムコミュニケーション工学科を設置、電気工学科を電気電子メディア工学科に、材料工学科をマテリアル工学科に改称。03年、機械工学科を機械システム工学科に改称、機械デザイン工学科を新設。
 06年、新カリキュラムへ移行(機械デザイン工学科を除く)、システムコミュニケーション工学科をコンピュータ応用学科に、電気電子メディア工学科を電気電子工学科に再編した。
 現在、基幹産業技術系3学科(機械工学科、電気電子工学科、情報工学科)と文理融合系3学科(コンピュータ応用学科、コンピュータデザイン学科、人間環境学科)の二つの学群に約2000人の学生が学ぶ。
 学長の谷本が大学を語る。「グローバルな知識と視点を持ち、幅広く産業界そして世界で活躍できる人間性豊かな技術者の育成というのが大学の目標です。同時に、『福祉モノづくり』を重点テーマに工学的人間力と倫理観の豊かな技術者の育成に取り組んでいます」
 「基幹産業技術系3学科は、より深い専門教育を行い産業界に対して専門教育の質を保証し、加えて個々の産業界の要請に応えられる技術者の育成に努めたい。文理融合系の3学科は、文系的柔軟な発想力と統合力を活かしたモノづくりと、コンピュータ及び新素材の活用技術の教育に重点をおいています」
 文理融合系学科について補足した。「環境・デザイン・車・アニメ・CG・ゲーム・ロボット…などに対応しています。文系科目やネーティブスピーカーによる語学教育にも力を入れています。教育の幅を広げ、産業構造の変化とグローバル化に対応でき得る技術者の育成を目指しています」
 「文理融合」の成果をあげる。「スポーツメーカーと新素材を使ったスポーツ用具や、災害時に水や食料などを重さ80キロまで乗せられる特殊な構造の自転車を開発。鎌倉市が世界遺産登録する際、アピールするための文化財の復元CGも制作しました」
 『福祉モノづくり』とは?「福祉の現場を実際に見て、高齢者や障がいを持つ方が喜ぶものは何かを考えるアクティブ・ラーニングです。文科省の08年度教育GPに採択されました」
 福祉モノづくりに傾注
 社会貢献活動科目も開講している。「人間味あふれる科目で、ハンディキャップのある人々のための生活補助具の製作やPCサポートを通じて学生は人々から感謝され、それが学習意欲の向上につながっています」
自転車シェア実験も
 社会貢献のひとつに、地元の藤沢市内で市や企業と連携して行っている「自転車シェア実験」がある。「エコが目的で、自転車を複数の人が共有・利用できるシステムを次世代交通手段として取り組もうという社会実験です。試乗テストなどに本学の学生が参加しています」
 教育面について。「アットホーム教育の実践を掲げ、学生一人ひとりの能力啓発のため、きめ細かなカリキュラム編成を行っています。文系・理系の枠をこえモノづくりの楽しさを学べる多くの科目を用意しています」
 藤沢市内にある3大学(慶應大学湘南藤沢キャンパス、多摩大学グローバルスタディーズ学部、日本大学生物資源科学部)とコンソーシアムを結成した。「まちづくりに貢献するため協働を進め、単位互換で連携、人材の『地産地活』をめざしています」
 1998年、CC(コミュニケーションサークル)制度が発足した。「教員1人が6人の学生を履修から就職、悩みまできめ細かく個別指導します。学習面では、多様な理解度と学習体験を持つ学生の入学に対応し、充実したフォローアップ体制をとっています」
 学習支援センターでは、表現力=国語力強化に力を注いでいる。「面接や論文に必要な表現力を培うため、夏休みには読書感想文を書かせたりしています。理工系学生にも、論理的な思考を養う必要があると思います」
安定した就職率維持
 強い就職について。「安定した就職率(90%以上)と低いニート率」を誇る。「1年次からキャリアノートを書かせるなどキャリア教育を行っています。保護者との意思疎通を深める保護者会への出席率は大学ランキングで全国18位と工学系大学では断トツでした」
 1998年、テクノビジネスチャレンジ制度が発足した。「学生のチャレンジ精神を育てる制度。鳥人間コンテスト、NHK大学ロボコン、Hondaエコノパワー、ワールドソーラーカー、競技用高性能ロボット開発、学生フォーミュラーなどのプロジェクトなどの参加費用は大学が負担。NHKロボコンでは7位の実績があります」
 グローバル化にも早くから取り組んできた。1997年、第1回学術サミットを開催(湘南工科大で)、98年、第2回学術サミットを開催(ドイツ・カイザースラウテルン工科大学で)など、他大学に先駆けて実施してきた。
ワールドキャンパスへ
 「この学術サミットは、今年で13回目。協定大学(米・ペンシルバニア州立大学、独・カイザースラウテルン工科大学、豪・シドニー大学、韓国・ソウル国立大、中国・上海交通大学)と共同研究やシンポジウムを毎年行っている。ワールドキャンパスをめざしています」
 大学のこれからについて、聞いた。「文理融合学科は国立大学や大規模な大学では難しい。小さな、アットホーム教育が可能な大学だからこそ、できた。独自性を生かし、グローバルセンスを持った学生を育てたい」
 若者にも訴える。「時代が変わりつつあります。大学を選ぶのにも名前で選んでいた時代から、何を学ぶか、何をやりたいか、に移っている。小さくても中身の濃い大学はいっぱいある。うちもそのひとつだ。名前でなく、中身で選んでほしい」
 小さな工科系大学の学長は湘南の海のように明るかった。そして、繰り返し、こう話すのが印象に残った。「人間味あふれた技術者を育成したい」


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