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平成23年10月 第2458号(10月12日)

リーダーを育成する“復興大学”構想
  東北工業大学 沢田学長に聴く

 この10月、東日本大震災の被災地・仙台において、震災復興、そして日本再生を担うリーダーを育成する新しい試みが始まる。去る8月2日、東北学院大学において開催された、、日本私立大学団体連合会・日本私立短期大学協会が主催するシンポジウム「東日本大震災を超えて:大学のなすべきこと、できること」において、演台に立った東北工業大学の沢田康次学長が「宮城県の全ての国公私立大学・短期大学・高等専門学校が参加している学都仙台コンソーシアムの中に「復興大学」を立ち上げる」と宣言した。この復興大学とは何か、沢田学長にその“構想”を聞いた。

―どのような構想の大学なのですか。
 被害の大きい県の一つであり高等教育機関が一番多い宮城県の国公私立大学などが、「長期的視野に立った復興のためにしなければならないことは何だろう」とを話し合いました。仙台学長会議の「人材育成なしに復興はない」の掛け声のもとに、復興の担い手になる東北地方の若者をリーダーとして人材を育成し、ひいては日本再生を担うリーダーとしても役立つ期待を込め、学都仙台コンソーシアムの中にそのような教育システムを創ろうということになりました。災害時等の未知の問題解決に柔軟かつ迅速に対応でき、リーダーとして活躍できる人材の育成をめざしていますが、例えば、地元での復興を考えたときに地元の方々の意見がまとまらないこともあります。そういうときに地元での意見がまとまるようお手伝いしながら、ビジョンを指し示していける人材です。
 講義科目は運営小委員会で現在詰めの段階に入っていますが、震災復興やその他の復興に必要と考えられる政治学、経済学、社会学、思想、生活構築、科学技術などを網羅し、取得できれば、「習得証書(仮称)」を発行できるよう検討中です。所属大学の授業とバッティングしない方法で、各大学の卒業要件科目として換算することができるようにと考えています。必要とあらば、冬や夏の長期休暇を利用して集中講義を行う方法も考慮中です。
 まずは加盟大学から受講者を募り、1年に30〜50名の学生からスタートします。一方、社会人も復興へのモチベーションが高いので、何らかの形で参加していただけるようにしたいと思います。制度や組織は、新しく作るというより、なるべく既存のシステムを生かしながら進めていければと考えています。
 講義内容は、徹底した現場重視で、ディスカッション、フィールドワークが中心。各分野・科目について、加盟する大学の教員を講師に依頼しますが、他地域大学の教員、地元の産業界、行政、NPO等からも講師をお願いすることが必要です。復興に関心のある全国の学生にも参加してもらう機会ができたらと思います。正式な講義は来年度からですが、今年は年度内に連続講演会を実施する予定です。
 上記の「人材育成事業」に加えて、「初等教育・中等教育機関の教育支援事業」、「産業復興支援事業」「ボランティア情報センター事業」の合わせて四事業が「復興大学」に含まれる予定ですが「人材育成事業」以外についてはここでは省略させていただきます。
―そもそも復興大学構想はどのような経緯で誕生したのですか。
 東日本大震災後の4月初めから菅総理のもとに復興会議が開かれていましたが、教育や人材育成についてはあまり聞こえてきませんでした。一方、大学等高等教育機関ではそれぞれ何ができるか考え、個別に活躍してきましたが、人材育成の規模から考え、被災地の中心にある仙台学長会議が復興会議に教育について提言すべきと考えが纏まりました。そこで五月に、星宮仙台学長会議代表(東北学院大学)と共に村井嘉浩知事にお会いして、被災地における人材育成の重視性を説きました。知事からも賛同いただき、その結果、復興会議の最終報告書には教育についても記載されました。地元からの提案が極めて大切であることは当然です。
 学都仙台コンソーシアムという多くの立場が異なる大学の組織の中に「復興大学構想」が誕生したのはとてもよかったと思います。私が感じるところでは、私学は地域に根を張っていて、地域との距離感が近い、復興をどうすればできるかに敏感です。国立大学は災害研究のほかに、地域の拠点大学であり、まとめ役としても重要な役割を持っています。だから、立場の違いはあっても国公私立大学等がみんなまとまるこのシステムは普段では難しくてもこのような時こそ大切だと思います。
―沢田学長の思いは。
 東日本大震災前は、「勉強するつもりで入学したけど、なんで勉強しなければならないのだろう、自分たちはなんで就職するのだろう」と悩んでいる学生も少なくなかったのです。しかし、震災後には、困っている人を助けたい、だから勉強したい、という声を聞くようになりました。人間は困っている人を目の前にすると、手伝いたい、助けたいという純粋な気持ちがわき起こるのですね。実際に強烈な経験を持った若者たちは、自分は人のために存在し、人が嬉しいと自分も嬉しい、社会に役立ちたいと考えるようになりました。このことを考えると、個々の大学の従来の教育内容でいいのか、カリキュラムをどうするかはもちろん考える機会でもあります。
 災害の多い我が国は、その意味でも先進国であり、この地域でしか学べないことも多くあります。全国的にまた世界的に災害など緊急時に必要なリーダーを教育できれば、グローバル化時代の日本の一つの特徴となるでしょう。 
―全国の大学関係者にメッセージを。
 全国からボランティアの方々が大勢被災地に来ていただいています。「何かしたい」と友人や知人から多くの励ましの手紙をもらっています。本当にありがとうございます。復興大学は、間もなく開講の運びとなる予定です。スタートしましたら、冬や夏の長期休暇では、ぜひとも全国の教員の皆様にも東北にお越し頂き、復興大学の中で講義をお願いしたり、学生の皆さんには、日本のため、東北復興のために復興大学で勉強して頂きたいと思います。


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