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平成23年2月 第2432号(2月16日)

大学は往く  新しい学園像を求めて〈11〉
 多摩大学
 「現代の志塾」をめざす
 5代目は寺島実郎「実学教育を深化させる」


 学長を前面に押し立てる。多摩大学(寺島実郎学長、東京都多摩市)は、初代学長の野田一夫が「世間の常識が通用する大学」をめざして開学。以来、歴代学長が大学の歴史を築いてきた。09年の開学20周年に就任した第5代学長の寺島は、新たな改革に乗り出した。開学以来、実践してきた実学教育をさらに深化させるため「今を生きる時代についての認識を深め、課題解決能力を高める」を新しい時代の実学と再定義。大学の教育理念を改めて「現代の志塾」と定めた。志の失われた時代に、幕末の松下村塾(吉田松陰)、適々斎塾(緒方洪庵)、威宜園(広瀬淡窓)など志の高い有為の人材を輩出した私塾の現代版を目指す。学生数約2000人という新しく、小さな大学だが、休講禁止、実業界出身の教授陣、就職率の高さなどを特色としてきた。そんな多摩大学がいま一度、変貌しようとしている。第五代学長の寺島による新たな改革の内容やこれからについて学長室長に尋ねた。
(文中敬称省略)

学長力で牽引 歴代学長は著名人
 多摩大学は2学部の大学。緑萌える自然豊かな東京都多摩市の丘陵に経営情報学部、神奈川県藤沢市にグローバルスタディーズ学部がある。
 1989年、学校法人田村学園を母体として開学した。93年、社会人向け大学院(経営情報学研究科)を開設。07年、グローバル人材の育成をめざしてグローバルスタディーズ学部を開設。
 多摩大のHPの表紙をみると、大学がよくわかる。学長の寺島を真ん中に周囲を学部、大学院、教授陣、講義内容、附属研究所から入試や重点高校、さらに、就職、地域貢献、同窓会などが取り囲んでいる。全体像とともに、何に力を入れているのか、一目瞭然だ。
 初代学長の野田から寺島まで、著名な人物が学長に就任、大学を牽引してきた。野田は経営学者で、ピーター・ドラッカーを日本に初めて紹介したことで知られる。学長室長の久恒啓一(経営情報学部教授)が野田の改革を説明する。
 「全学レベルで年間講義計画をシラバスとしてまとめ、発行したのは日本の大学では最初でした。全教員に年間講義計画の確実な履行を求め、学生からの授業評価システムは開学時から全学レベルで行われています」
野田は「大学は知識産業としてのサービス業」をモットーに各界の著名人を教員に招くなどの新基軸を打ち出した。これらは受験生や父兄に大きな反響を呼び、開学時の入試の競争率は33倍にもなった。
 第2代学長の中村秀一郎は病気のため惜しまれながら短期で退任。第3代学長のグレゴリー・クラークは、英語教育、国際化教育に力を入れた。一方で、「受験英語」は不要だとして、大学入試科目の英語を必修から外すなどで話題を呼んだ。
 第4代学長の中谷 巌はハーバード大学経済学博士で経済学者、専門はマクロ経済学。自己発見力の大事なことを学生たちに説いた。また、クラークの外した大学入試科目の英語を就任時に必修に戻した。 
 寺島は学者にとどまらず、日本総合研究所理事長、三井物産戦略研究所会長、文科省中教審委員、総務省グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース国際競争力強化検討部会座長など活躍の場は広い。政官財界はもとより海外や学会、マスコミなどに幅広い人脈を持つ。
 大学人としての寺島。久恒が「学長が主宰するリレー講座とインターゼミが大学人・寺島を象徴しています」と話す。
 寺島が監修するリレー講座「現代世界解析講座」は、今年度で3年目。春と秋の2回の計24回、寺島と彼の人脈の大学教授や作家、評論家が講演。一般300人、多摩大生200人が受講する。
 「学生には、時代に発信する識者の生の声を聞いて現代世界を生きるヒントを得てもらいたいという意図、社会人の方には大学と地域社会の壁を超えて、大学が発信できるものを伝えたいという意図が、次第に定着してきたと思う」(寺島) 
 インターゼミは、「社会工学研究会」として、年次や学部に関係なく学生30人を選抜。教官を11人配置して、学生を7人程度のグループに分けて課題を設定、1年間かけて共同研究を行う。
 寺島の描く大学。「『人間を育てる教育の場』としての大学を探求していきたい。教員を中心とする研究の場であるよりも、一業を成したいと志す人間の基盤能力を育てる場を目指す。時代環境に受身で生きるのではなく、自分のテーマを発掘して挑戦しようとする学生を鍛える場を志したい」
 寺島の大学改革。「『現代の志塾』という教育理念に沿って学内組織はそれぞれの教育目標を定めた。経営情報学部は産業社会の問題解決の最前線に立つ人材を育てる、グローバルスタディーズ学部はグローバルな問題を解決でき、グローバルな舞台で活躍出来る人材を育てる、としました」と久恒。
 具体的には?久恒が続けた。「学長が新しく始めたものは、高校生に対する『志小論文コンテスト』の実施、志ある人材を選抜する志入試、地域ゼミの強化、そして、志を育む教育プログラムの再構築(カリキュラム再編)などがあります」
 志小論文には全国の高校生から1157件の応募があった。カリキュラム再編で、特に注力しているのは@実学に基づく問題発見力の養成 A志を伴った問題解決力の養成B少人数によるコミュニケーション力の養成C社会・地域へ自ら働きかける力の養成。
 社会貢献、地域貢献も多摩大の色が濃い。多摩地区を生活、実業、研究、教育の現場として読み直す「多摩学」の研究もそうだ。学内の教職員でつくる多摩学研究会では、「多摩とアジア」、「思想としての多摩」、「多摩地区の雇用力と採用実態」等をテーマに研究し、発表している。
 これらの先にある出口も「志」が関わる。「問題解決力の高い卒業生を、多摩地区を中心とする志ある企業に就職させたい。大中華圏を中核とするアジア・ユーラシアダイナミズムの勃興という新しい時代に参画してもらいたい」と寺島。
 学長効果について。「大学の最良の最高の広告塔です。学長の教育への熱意、問題解決力に教職員は日夜引っ張られています。受験生も増えていますが、父親が寺島さんをよく知っていて『ああした人のいる大学で学んだら』と薦めているようです」と久恒。
 カリスマ学長ともいえる寺島後が心配だが?「着手した改革を変えることなく、実現して次に渡すのではないでしょうか。教育に対する志はもちろん、改革の足跡は残るし、全く心配していません」と久恒は冷静に答えた。
寺島の目は常に世界を向き、学生を見つめている。「今、新たな世界秩序とその中での日本の役割を模索せざるをえない局面にある。経済活動の現場も教育の現場も、新しい時代の課題に果敢に挑戦する人間を求めている。こうした時代の『一隅を照らし』、次なる時代を支える人間を育てることこそが大学の使命である」

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