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平成23年1月 第2428号(1月19日)

大学は往く  新しい学園像を求めて〈8〉
 武蔵大学
 3学部横断ゼミで進化 共通テーマに取り組む 多様な価値感を体得


 「ゼミの武蔵」といわれる。教育の質が問われるなか、どの大学もゼミナールイコール少人数教育には力を入れている。武蔵大学(清水 敦学長、東京都練馬区豊玉上)は、ゼミが「売り」である。「建学の精神である『自ら調べ、自ら考える』力を養っています。その最大の特長がゼミで、自主性やコミュニケーション能力を育成、教員や友人との交流の場ともなり学生の満足度を高めています」と学長。ゼミに関しては、伝統もあり、就職でも実績を残し、学部横断型課題解決ゼミプロジェクトを始めるなどゼミを進化させているのは確かである。反面、「ゼミの武蔵」が普通名詞のようになり、言葉が一人歩きしているように見えなくもない。学長へのインタビューを通して武蔵大学のゼミの真髄に迫った。
(文中敬称略)

就職に実績 300超す「ゼミの武蔵」
 武蔵大学は明治から昭和と財界で活躍した根津嘉一郎が1922年に創設した旧制7年制の武蔵高等学校が前身。1949年の学制改革で、経済学部の単科大学の武蔵大学として開学した。
 現在、経済、人文、社会の3学部に約4500人の学生が学ぶ。西武池袋線の池袋駅から7分に位置しながら、樹齢200年を誇る大ケヤキがそびえる自然豊かな環境。大講堂や3号館などの歴史的建築物と最新の施設が共存している。
 学長の清水が大学を語る。「学部・学科の学びでは、専門分野を深く探求するとともに、それぞれの分野と分野を関連づけて理解するためにリベラルアーツ教育を重視。『社会と世界により開かれた大学』をめざし、地域貢献を充実させ、留学生の派遣・受入れにも積極的に取り組んでいます」
 続けて「ゼミの武蔵」を話す。「開学以来、少人数制で自ら調べ、自ら考える『ゼミナール』での教育に力を注いできました。300以上のゼミ・演習が開講され、この伝統のゼミが、学生一人ひとりの魅力を引き出しています」
ゼミの利点は?「少人数なので教員が指導する学生に対して目が行き届く、ゼミの仲間がいることで学生が孤立しない、自ら考え、発表することで主体的になる、グループで課題に取組むことでコミュニケーション力が身につく。これらは就職にもプラスになっています」
 ゼミのあり方は学部ごとに異なる。経済学部を例に取ると、基本的なゼミのステップはこうだ。1年次は、資料を探す方法や討議の方法、プレゼンテーションの技術、レポートの書き方などを身につける。2年次と3年次は、文献の購読や調査、個人やグループでの発表と討議などを繰り返しながら研究を深める。4年次は、指導教授による論文指導やゼミでの発表を通して大学生活の集大成といえる論文を仕上げる。
 「ゼミの武蔵」を象徴するイベントが「ゼミ対抗研究発表会」(ゼミ大会)。清水が説明する。「企画も運営も学生が行います。普段のゼミでも成果を発表し、議論をしますが、ゼミごとの壁を取り払い、競い合う、がテーマの開かれた場です。学内の教員だけでなく、社会人の審査員が評価します」
学生運営のゼミ大会
 「知識と経験を自分のキャリアに」をコンセプトに昨年12月4日に開かれた。経済、経営、金融などブロックごとに計34のゼミが参加、それぞれ研究成果を発表した。スポンサー企業も8社あり、ゼミの武蔵への関心の高さをうかがわせた。
 新機軸の「学部横断型課題解決ゼミナール・プロジェクト」は、これまでのゼミをさらに進化させたという。3学部の学生が協働で、一般企業から与えられた一つの課題に取り組む。
 「学部が違えば、考え方や意見も違います。それぞれの専門を生かし、共通のテーマに取組みます。他学部の学生とのコミュニケーションやディスカッションを通し、答えは一つではないことを実感しながら、多様な価値観や視点を身につけていきます」(清水)
 具体的には?「テーマはCSR(企業の社会的責任)で、前半は学部ごとに専門性を応用しながら三つの異なる角度から課題にアプローチします。その結果を中間発表でプレゼンテーションしたあと、合同チームでCSR報告書の制作に向けディスカッションを重ねます。
 そこで報告書のコンセプトやコンテンツを決め、報告書の執筆やレイアウトを分担、報告書を冊子にします。最終報告会では、企業担当者に報告書を配布し、評価を受けるとともに、制作過程やその間の人間的成長についてのプレゼンテーションも行います」
 学部横断ゼミは、これまでのゼミとどう違うのか?「他学部の『学び』に触れるため、相互理解が必要になります。異なる分野を知ることで、自らの『専門』の意義を確認することができます。また、CSR活動を調査し報告書を実制作することで、学生自らも一市民として持続可能な社会を築くために果たすべき役割を意識することができます」
 このゼミのもうひとつの柱は、ゼミの始まる前、中間、事後の計3回、プロのキャリアコンサルタントと個人面談を行う。自分自身を振り返り、プロの助言を受け、それを生かした活動を行う。「プロとじっくり話し合うことで、今まで気付かなかった自分の強み、弱みが発見できます」(清水)
ゼミを志願して入学
 他の大学のゼミとの違いは?「伝統ですかね。開学以来、ゼミが教育の中心でした。全員が入学から卒業まで必ず履修します。ゼミの規模も少人数で、経済学部は学生400人、教員40人だから1ゼミは10人、上限23人と決めています。何と言っても、学生がゼミを志願して入ってきます、学生の意識が違います」
 「ゼミの武蔵」は、これからどう進むのか。「ゼミは大きな柱です。知的能力を育むため、少人数で丁寧な教育は、これからも受け継いでいきたい。もちろん、新しい時代に即した改革は進めていきたい」
具体的には?「2011年4月から、全学部の専門科目を見直すとともに、学部学科の枠を超えた総合科目を設けました。興味・関心に合わせて自由に選ぶことができます。それぞれの学科が専門とする国・地域の壁を超え、さまざまなかたちの異文化間の関わりについて学びながら、幅広い視野と教養を身につけることが可能となります」
 清水は続けた。「国際社会の中で活躍するためには語学力も必要です。米テンプル大日本校と交流協定を結び、英語の課外授業を行いました。さらに、英語をはじめとする演習科目を設置、短期・長期の目的に合わせて選べる留学制度も用意、語学力の向上にも力を入れます」
 キャンパスにある樹齢200年の大ケヤキのように、武蔵大学は旧制高校から続く伝統のゼミが屹立している。これを基盤にカリキュラム改革など新たな道を模索する。「ゼミの武蔵」はさらに進化するのか、じっくり見ていきたい。

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