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平成22年12月 第2425号(12月15日)

学生による授業コンサルティング
  POD2010年度大会から 


帝京大学総合教育センター 土持ゲーリー法一 

アメリカのFD担当者(ファカルティ・ディベロパー)のための全国専門職組織、PODネットワークの今年の年次大会に参加した帝京大学総合教育センターの土持ゲーリー法一教授に、同大会で発表されていた学生参加のFD事例について寄稿していただいた。

 PODネットワーク2010年度大会が、11月3日〜7日、ミズーリ州セントルイス市で開催され、帝京大学教員3名で参加した。これはファカルティ・ディベロパー研修の年次大会で、世界各国から704名が一堂に集まった。FD義務化の影響もあって日本からは34名が参加した。5日間の大会期間中に147の発表があり、どのワークショップ、セッション、ラウンドテーブルも盛況であった。
 一般的に、ファカルティ・ディベロパーといえば、教員にコンサルティングをするものだと考えがちである。学生が教員の授業コンサルティングをすると聞けば、誰もが驚愕するであろう。PODの発表では、アメリカの大学(ブリガムヤング大学とUtah Valley University)で実践されている、学生による授業コンサルティング(SCOT:StudentsConsulting on Teaching)が紹介された。ブリガムヤング大学のウェブサイトによれば、SCOTはトレーニングを受けた学生が学習体験に貢献し、教員に優れたフィードバックリソースの情報を提供し、学生評価や同僚評価を補うものだという。
 つまり、希望する教員に学生の視点から、授業改善のための教室内活動の情報を提供するものである。SCOTになるには、大学のCTL(Center for Teaching and Learning)が提供する授業シラバスなどに関するFDトレーニングを14週受けなければならない。SCOTの特徴は次のようである。
 @該当科目を履修していない学生から選ばれるので、客観的な情報を教員に提供できる。
 A在学生から選ばれるので、学生に役立つ情報を教員に提供できる。
 SCOTは以下の役割を担う。
 @記録者あるいは観察者:教室における教員の行動範囲、板書の仕方、グループ討論に費やされた時間などを記録して、教員に提供することができる。この場合、SCOTの役割は教員の授業を「評価」することではなく、事実を正確に記録して提供することである。
 A「偽の学生」:授業を履修する学生であるかのように装い、クラスでメモを取り、正確なメモを教員に提供することができる。「偽の学生」は授業中に質問をしてはならない。
 Bビデオ制作者:教員の申し出により、授業を撮影、DVDにして提供することができる。教員はDVDを見ながらSCOTと議論できる。
 Cインタビュアー:学生がどれだけ学んでいるか、授業内容を理解しているかアセスメントするために学生にインタビューすることができる。この場合、教員は授業の最後の一五分間教室から退席する。SCOTは口頭もしくは書面で以下の質問に応えるように学生に指示する。
 (@)このクラスにおいて何が学ぶのに役立ちましたか。
 (A)このクラスにおいて何が学ぶのに妨げになりましたか。
 (B)このクラスのためにどのような提案がありますか。
 D準備学生:授業前に教員と会ってどのようなことを教室内で観察してもらいたいか話し合って準備することができる。例えば、具体的な問題について学生がどれだけ頻繁に応答しているか。学生は、なぜ議論に加わらないか。学生同士で互いに質問し合っているか。何が学生の学びを妨げているか。教員は学生の教材への手助けをしているか、などである。
 E授業コンサルティング:教員は教室内活動のフィードバックあるいは学習に関する具体的な課題についてSCOTの意見を求めることができる。SCOTは、教室で知り得た情報について守秘義務がある。とくに、教室外において当該教員の授業方法などを「評価」することは禁じられている。
 SCOTのコンサルティングの一例をあげれば、教員の教室内の行動範囲を示した以下のチャートをもとに授業の分析を行う。多くの場合、教員は教室内の自らの行動に気づかない。
 図表「教授の行動範囲」は、教員が授業中にどのような行動を取っているかを図式化したものである。後部座席の学生に授業中におしゃべりが多いのは、教員の「行動範囲」とも関係があることがわかる。
 Utah Valley Universityには、現在1300名の教員がいるが、SCOTプログラムがスタートした2008〜09年は、8名のSCOTと16名の教員が利用したに過ぎなかったが、2009〜10年には13名のSCOTと42名の教員が利用するようになった。SCOTが費やす時間は、平均1週間に5〜10時間で、これは学生の履修状況によっても異なる。同学学長はSCOTプログラムに1万ドルの基金を寄付した。SCOTには1時間に8ドルの賃金が支払われる。
 教員は、SCOTプログラムをどのように評価しているのだろうか。例えば、「授業について押しつけではなく、学生の視点から有益な意見をもらうことができました」「インタビューは、学生の心に何が起こっているかを知るのに良い方法だと思いました」「学生による観察は、評価プロセスに新たな側面を加えました」「2つのクラスに関する学生のビデオ観察・記録・インタビューを利用しましたが、学生の支援から自らの誤りに気づくことができ、教員としての自信を取り戻すことができました。これは、教員の教育能力の質を向上させるうえで役立ちました」などが紹介されている。
 SCOTは、ブリガムヤング大学の場合、学部横断型授業を多く履修する初年次学生が中心である。SCOTの選考基準は、学業成績GPAが3.0以上、男女のバランス、履修状況(履修科目の多い学生は除外)、留学生やマイノリティなどが考慮される。SCOTとしての経験は学生の活動業績の一部となり、就職にも有利に働く。
大学全入時代の授業改善は、学生の視点に立ったものでなければならない。この点、SCOTの取り組みは、授業改善は誰のためにするものかを考えさせてくれる。2011年2月に、ブリガムヤング大学とUtahValley UniversityにおけるSCOTプログラムについて実地調査し、日本への取り組みに繋げたいと考えている。

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