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平成22年11月 第2422号(11月17日)

大学は往く  新しい学園像を求めて<4>
 金沢星稜大学
 地域とともに、地域に還元 独自のCDPで合格アップ
 学生、保護者、大学が一体

 元巨人軍の松井秀喜やサッカーの本田圭佑ら星稜高校OBの話題には「大学とは直接関係ないので…」とそれ以上に話は進まなかった。この大学としての矜恃が好感持てた。金沢星稜大学(坂野光俊学長、石川県金沢市御所町)は3つの特長を自負し実践する。就職に強い、資格取得に有利、充実した奨学金制度。保護者のための就職ガイダンスを行い、学生・保護者・大学が一体となって活動する就職力は定評がある。難関試験の合格をサポートする「CDP(キャリア・ディベロップメント・プログラム)」によって公務員採用で実績を示す。「自分を超える力をつける」が大学のキャッチフレーズ。「学生の持っている潜在能力や“やる気”を伸ばし、社会に役立つ実力を身につけさせよう」と教職員や先輩が学生の背中を押す。公務員の就職に強い大学の歩みと改革、これからを学長に尋ねた。(文中敬称略)

公務員採用に強い就職力

 金沢星稜大学は1967年、金沢経済大学(経済学部経済学科)として設立。73年、経済学部に商学科増設。2000年、経済学部にビジネスコミュニケーション学科(BC)増設。02年、大学名を金沢星稜大学に変更した。 
 04年、経済学部に現代マネジメント学科を増設。07年、人間科学部(スポーツ学科、こども学科)を開設、ビジネスコミュニケーション学科を廃止。2010年には経済学部現代マネジメント学科を経済学部経営学科に名称変更した。
 現在、経済学部1部、経済学部2部、人間科学部の3学部5学科に約2000人の学生が学ぶ。高校野球、サッカーの強豪校として全国に知られる星稜高等学校は系属校である。
 坂野が大学を語る。「大学生活とは青年期にある若者が自らの人間的基礎を作り上げる過程です。その過程をサポートすることを大学の最も重要な使命と捉えています。『誠実な人間』を目指して人間性・社会性を磨き、『社会に役立つ人材』を目指して分析力・総合力・実践力を鍛錬しています」
 わかりやすくいうと?「国立の金沢大学が研究重視の教育大学であれば、うちは自立した社会人養成の教育大学です。もちろん、調査・研究力も求められます。卒業生を地元に送り出すのですから地元の課題に応えられる調査・研究力を身につけるよう指導しています」
 正課授業のほかに、学生の将来の進路を切り開く準備として、多様な資格取得・就職支援のための講座等を用意している。難関試験の合格をサポートする「CDP」について、坂野が説明する。
 「難関試験の公務員や税理士試験への合格のために設定された本学独自のコースです。CDPは、プログラムの一部を正規のカリキュラムに取り込んでいるため、『大学の単位取得』と『合格に向けた専門的な学習』を両立させています」
 CDPには、公務員試験合格に向けた『公務員コース』、小学校教員採用試験合格に向けた『小学校教員コース』、税理士試験合格に向けた『税理士コース』、金融・販売・営業などの業界や職種を目指しキャリアアップを図る『総合コース』がある。各コースとも1年次から早期学習を行っている。
 小学校教員コースの場合、1年次に一般教養科目基礎講座、2年次に教職教養科目基礎講座、3年次に教職専門科目基礎講座、4年次前期に総合対策講座、4年次後期に教員試験が履修モデル。「受験予備校から講師を招くほか、県教委指導主事の経験を持つ教員が徹底指導しています」という。
 就職活動には、保護者の理解が絶対に不可欠。『保護者のための就職ガイダンス』を開催している。過保護では?
 「保護者が持つ就職情報は自身の経験を基にしたものが多く、現実からかけ離れ、子どもをずれた方向に導いてしまうケースがあります。保護者向けのガイダンスは大都市の大規模校ではできない、地方の小さな大学だからこそ可能です」
 就活クルーズを実施
 就職には、保護者だけでなく大学の先輩も手助けしている。この夏、「就活クルーズ」を実施した。2泊3日で客船に乗っての就職活動合宿。2、3年生33人が参加、名古屋から北海道まで移動しながら研修した。
 「就活クルーズには、既に内定している4年生も乗船、後輩に自身の就職活動で得たノウハウを伝授していました。このように、本人・保護者・先輩が三位一体になってサポートしていきます」
 「高い就職内定率には、教職員の力も貢献している」と付け加えた。「大学での教育は、学生が自主的に思考力・行動力・決断力を身につけることを教職員がサポートすることと捉えています。高い教育力をもった教員が熱心に面倒見よく教育し、事務職員も学生に力をつけさせるのが仕事だと考え、頑張っています」
 いつごろから就職に力を入れたのだろうか。05年に大幅なカリキュラム改革を行い、CDPを導入した。このCDP一期生が卒業した09年3月の卒業生の就職内定率は99.2%と急上昇した。CDP導入の効果が数字で示された。これが大学のブランドアップにもつながった。
 坂野が説明する。「09年から志願者が増えました。いわゆる進学校からの受験生も来るなど高校からの評価も上がってきました。今年の入学者の半分がCDPに入っています。これからも質を維持しながら数を安定させていきたい」
 奨学金制度も充実
 充実した奨学金制度とは?「センター利用海外短期留学入試の合格者は、1年次の夏にオーストラリアへ短期留学。現地授業料と渡航費相当額を奨学金として給付します。2年次の5月にTOEICを受験し、基準点をクリアした学生は、2年次の夏にオーストラリアへ短期留学できます」
 地域とは密接である。「人類普遍の課題に立ち向かうとともに、地域社会固有の現実的課題の解決に努め、『地域とともに歩む大学』として、着実な研究成果を地域社会に還元する」(大学憲章)とあるように、それを実践している。
 学生の出身地は石川県が7割、残りの3割は福井、富山、新潟。就職先も石川県内が6割を占める。「入るのも、出て就職するのも地元なんです。地域社会での現実的な課題に応えて問題を発見し解決する『地域の頭脳』でありたいと努力しています」
 スポーツや学芸等のサークル活動も活発である。「大学の主人公は学生です。オープンキャンパスも3年前は教員中心でしたが、いまは学生中心です。いい大学にしたいという熱気が伝わってきます。卒業してからも手伝いに来るOBもいます」
 本業で勝負の段階
 坂野が最後に語った。「大学での勉学・研究は、正解が必ず1つあるような問題に対処するだけでなく、複数の解答があったり、正解が不明であるような問題にも挑むことが必要になります。中央は縦割りだが、地方は総合行政になっています。これは大学でもいえることで、地域性と総合性を持った学生をこれからも育てて生きたい」
 地域にこだわる学長は「やっと、本業で勝負する段階にきた」とちょっぴり自信をのぞかせた。


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