Home日本私立大学協会私学高等教育研究所教育学術新聞加盟大学専用サイト
教育学術オンライン

平成22年11月 第2421号(11月10日)

大学は往く  新しい学園像を求めて<3>
 立教大学
 全学で英語教育に傾注 次々と改革断行 「全カリ」など成果実る

 「立教ボーイ」というと、長島一茂や関口宏といったスマートで裕福な有名人2世を想像する。立教大学(吉岡知哉学長、東京都豊島区西池袋)は「専門性に立つ教養人の育成」をめざして、90年台後半から改革を続けてきた。97年から始まった「全学共通カリキュラム」(全カリ)、98年の観光学部・コミュニティ福祉学部の開設、06年度の現代心理学部、経営学部の開設、さらに08年の異文化コミュニケーション学部の開設やコミュニティ福祉学部スポーツウエルネス学科設置など学部・学科の改編、今年度からの英語教育カリキュラムの改編…。こうした不断の改革は成果を生んできたが、それはあまり外部に伝わってこない。早稲田大学を抜いて受験者数日本一になり話題を振り撒く同じ東京6大学の明治大学とは対照的。それはさておき、立教ボーイというが学生の半分は女子と変貌を遂げている。こうした現在の立大の姿、改革とその成果、これからのことを学長らに聞いた。(文中敬称略)

スポーツも伝統復活へ  「立教らしさ」重視

 立教大学といえば池袋というイメージだがキャンパスは2つある。池袋駅西口から徒歩約7分。立教大学のスクールカラーの紫のペナントが飾られた大学商店街を抜けると池袋キャンパス。 
 池袋キャンパスは蔦を絡ませた赤レンガの建物が特徴。本館(別名モリス館)・第1食堂・2号館・3号館・図書館旧館・立教学院諸聖徒礼拝堂は東京都選定歴史的建造物。映画やドラマのロケに、よく使われる。
 池袋キャンパスに文学部、経済学部、理学部、社会学部、法学部、経営学部、異文化コミュニケーション学部、新座キャンパス(埼玉県新座市)に観光学部、コミュニティ福祉学部、現代心理学部。10学部に約18000人の学部学生が学ぶ。
 1874年、米国聖公会の宣教師、ウィリアムズ主教が設立した聖書教育と洋学教育の私塾、立教学校が母体。聖書と英学の教育を目的として東京・築地の外国人居留地に設立。1918年、現在の池袋に移った。
 学長の吉岡が大学を語る。「立教大学は、ウィリアムズ主教の唱えた『キリスト教に基づく人間教育』の集大成として、また小学校から始まる『テーマをもって真理を探究する力』、『共に生きる力』を習得する一貫連携の到達点として存在します。
 創立以来、教育の理念に掲げてきたリベラル・アーツ教育は、知性、感性、そして身体のバランスを配慮した全人格的な教育で、一人一人のさまざまな可能性を育もうとするものです」
 リベラル・アーツの新しい「かたち」が1997年から始まった「全学共通カリキュラム」(全カリ)。全カリは一般教養科目の新しい展開方法として導入された仕組みで、すべての学生が、それぞれの学部の専門科目と並行して学ぶ。
 全カリの成果を吉岡が話す。「全カリと専門教育が相互に有機的に関連を持つことができ、専門領域の教育研究も刺激を受けます。これによって、真の創造的な学問研究の発展に寄与できます」。
 「全カリの突出した成果が06年に設置した経営学部の国際経営学科の1、2年生が履修する英語コースBBL(バイリンガル・ビジネスリーダー・プログラム)です」と吉岡。副学長で国際経営学科教授の白石典義がBBLを説明する。
画期的なBBL
 「経営学を英語で学ぶことを目指し、独自のプログラムで、専門知識を英語でインプットし、ビジネスの現場で英語で議論が出来る。日本にいながら、英語で学び、英語でプレゼンテーションやネゴシエーションできる力を育てています」
 全カリ導入が立教大学の改革の嚆矢だった。翌98年に観光学部を設置した。独立した観光専門の学部としては日本初。吉岡が語る。
 「観光は経済的に大きな影響力を持つだけでなく、国際的な相互理解にも貢献しています。本学の観光学部は社会学、人類学、経済学、地理学といった社会科学、人文科学を基盤にとらえていくのが特長です」
 06年度に文学部心理学科を独立させて現代心理学部、経済学部経営学科と社会学部産業関係学科を合わせて経営学部を新設。08年に設置のコミュニティ福祉学部のスポーツウエルネス学科は低迷する立教スポーツの強化か、といわれた。
 「スポーツ選手を集める学部ではなく、人々のウエルネスの向上に向けた運動とスポーツのあり方に福祉からアプローチします。スポーツでは4年前からアスリート選抜入試を導入しました」
 アスリート選抜は徐々に効果を上げている。長嶋、杉浦、本屋敷らのいた硬式野球部も「後ろをみれば東京大学」から脱しつつあり、伝統のアメフットやラグビー、バスケットボールなども復調の兆しを見せている。
 取材のなかで、吉岡は、「立教らしさ」をしばしば口にした。それを、ひとことで言うと? 「キャンパスは小さく親密度は高い。サークルの数も多く学生の9割が加入しています。学部が違ってもまとまりがある、そんなところですかね」
 こう付け加えた。「立教大学の伝統が育んできたもうひとつの特質は“立教らしさ”を重視しつつも閉鎖的になることなく、外に向けて常に開かれていることです」
 具体的には?「連携の重層的な組織化を通じて教育と研究の質の向上を図っており、3つあります。学院内の小、中・高、大を結ぶ『一貫連携教育』、新座と池袋という2つの教育・研究の中心を生かした『地域連携・社会連携』、さまざまなレベルの『国際連携』です」。
 そうそう、明治大学のことだが、「明治大学は大学スポーツの強化や受験生日本一になるなど話題づくりが上手ですね」と尋ねたのがきっかけ。「それに比べて立教大は(話題づくりなどが)下手ですね」と受け取られたのかもしれない。
 「受験生の数は大学の規模によるので気にしていません。うちもここ数年、受験生は増えています。定員に占める応募者の比率を測る“募集力”では、決して遅れを取ってはいません」と語り、こう付け足した。「両方受かると、多くの受験生はうちを選んでいます」
 これからの立大について。「全カリは、これまでの一般教養よりレベルは高く、学部の壁を超えて全学で考え、運営してきた。それなりの成果を上げ、現在、第2ステージに入りました」
 「全カリも10年経ると運動体でスタートしたのが運営体になる。もういちど、運動体にしようと、全カリの英語教育を改編しました。1年次の英語を必修科目とし、授業は原則すべて英語で行います。少人数のきめ細かなやりとりを通して、コミュニケーション能力を高めたい。これも立教らしい教育です」
 英語教育に全学あげて傾注するという宣言にも映った。ここでも「立教らしさ」が出た。吉岡は76年に東大法学部卒業後、80年に立教大法学部助手に着任以来、立教一筋。すっかり立教らしさが身についた学長の発言は自信に満ちていた。


Page Top