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平成22年10月 第2419号(10月27日)

新刊紹介
 「街場のメディア論」
  内田 樹 著

 ちょっと動機不純な本の選定だ。実は、この本は次号に掲載予定の「われら大学人」の内田 樹に対する取材の材料のひとつとして読んだ。
 むろん、本単独で、この欄で紹介する価値はある。「街場」シリーズの4冊目。アメリカ論、中国論、教育論に続くもの。
 著者の教える神戸女学院大学での「メディアと知」という授業をまとめた。メディアで働くための「心構え」を教示しようと第一講はキャリア教育。「就職は結婚と似ている」と肩をほぐして授業開始。
 かつて新聞記者経験のある自分には、著者のメディア論は極めて新鮮で刺激的だった。
 〈マスメディアの凋落の最大の原因は、ジャーナリストの知的な劣化がインターネットの出現によって顕在化してしまった〉。知的劣化の一例として教育改革に言及。
 安倍内閣は教育制度の改革を次々と行ったが、政権が変わると新制度は廃止へ。〈「うかつに教育制度をいじるな」と主張したメディアはなかった。変化するのは無条件によいことだという考え方なのだ〉
 電子書籍の出現で危機が叫ばれる紙の本。ネット上での公開物については「著作権放棄」の考えを示す著者の主張も頷けるが、「電子書籍と本棚論」が白眉だ。
 〈紙の本を処分して蔵書を全部電子化した家に遊びに行った場面を想像すると、そんな家に長くはいられない〉、〈本棚は人間関係を取り結ぶためにきわめて有益な情報を提供してくれる〉
 専門はフランス思想だが、著作は映画、武道から時事問題まで幅広い。情報源を聞くと「公開情報だけですよ」。饒舌なだけの評論家が大手を振る中、発言も容姿も剛直。だから信用できる。

 「街場のメディア論」  内田 樹 著
 光文社新書
 п@03―5395―8289
 定価 740円+税

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