Home日本私立大学協会私学高等教育研究所教育学術新聞加盟大学専用サイト
教育学術オンライン

平成22年6月 第2404号(6月9日)

SPOD 真のプロ職員育成を目指す
 SD仕掛人  秦 敬治愛媛大准教授に聞く 


 

 全国にFD・SDの地域ネットワークが広がっているが、ユニークな取組をしているのが、「四国地区大学教職員能力開発ネットワーク(SPOD)」である。四国地区の34の国公私立の高等教育機関によって構成され、FD・SDを主に行う。明確な目標のもと組み立てられた研修カリキュラムは、他には見られないほどよくデザインされている。SDカリキュラム開発のコツを、担当者の愛媛大学教育・学生支援機構教育企画室副室長の秦 敬治准教授に聞いた。

―SPODのSDプログラムの特徴は。
 全国で行われているSDの多くは、ある講師が思いつきで単発的に企画を行っている、という印象を拭えません。一方、SPODでは、次の3つの工夫がプログラムに組み込まれています。
 一つ目は体系化です。目指すべき職員像を描き、それに合わせてプログラムを組み立てます。一つ一つに到達目標が設定されており、参加者自らが到達度を判断できるようになっています。
 二つ目は段階化です。新人職員であれば、まず「知る」という段階があります。それが達成されると、次段階は「できる」、最終段階は「自ら講師ができる」と到達目標が上がっていきます。
 三つ目は継続化です。現在の講師が辞めても、SPODの同様のプログラムが続いていくということです。実はここに一番力を入れています。「段階化」にも関わりますが、「自ら講師ができる」という最終段階が、継続化の鍵となります。つまり、現在の講師が抜けても、受講修了した新しい「講師」がいる、というわけです。
―プログラムはどのように作るのですか。
 プログラム作成は次のような流れになります。
 まず、SDの研究をしている教員と現職の人事課長を中心とした人事担当者が企画、実施、運用を行うワークショップを開催します。実際、8回のワークショップにSPODネットワーク加盟校から261名が参加しました。ここから出てきた、多くの職員の現場の生の声を共通プログラムに反映、関連学会などと連携をしながら理論化・体系化をして、再び加盟校にフィードバックします。このように、実践の現場にいる職員と、人材開発の理論を知る教員が教職協働で行い、理論と実践の融合したSDプログラムを開発しています。
 新プログラムの企画・運営は手間が掛かりますが、これが可能なのは、私や佐藤(同僚の佐藤浩章准教授)が専任で携われているからということもあるでしょうね。他の大学だと兼任でFDやSDを担当したり、担当者がプロフェッショナル意識を持たずにやっていたりするケースが多い方と思います。その点、私や佐藤は、大学改革や教育改革の一環としてSDやFD分野の専門家になるという明確な夢があって、今の道がやりたい領域だということです。
―愛媛大では以前よりこのような取り組みをされていたのですか。
 愛媛は元々「まずはやってごらん」という文化がありました。だから、佐藤とまずは2人でFDやSDをやろうと。教職員に負担のない範囲でできる仕組みを私たちが作る。負担になる部分は全面的に私たちがやる。それでも無理なら、外部資金を獲得する努力をします。そして、改善効果が見えれば、皆の気持ちも前向きになるし、創造的な発想も生まれてくる。
 SPODでも、そういう仕組みを広げていきたいと考えています。今では多くの大学の教職員に火が点いています。個人的には、そういう教職員たちの環境作りが一番大事だと思っています。愛媛大学が行っているような柔軟な姿勢をSPOD加盟大学にも作れたら良いですね。そのためには、各大学のFD・SD担当者と協働しながら進めていくことが重要であると感じています。
―SPOD―SDの課題は。
 真のプロフェッショナルな職員をまだ輩出できていないことです。「研修して能力が上がりました」、ではなく、「日本型のプロフェッショナル職員」を、まずはSPODで育成したいです。
 日本型のプロフェッショナルとは、2つの専門性を持つジェネラルな職員、図にすると「鳥居型」になりますね。そういう職員がよいのかなと。専門性というと、例えば教務課に行ったら教務のプロ、就職課に行ったら就職のプロになるとイメージする人もいますが、それだと数年で異動してしまうかもしれない。そうではなくて、ワークライフにおいて、異動をしても同じテーマを掘り下げて、他の仕事にも応用していけることだと思います。
 例えば、その人の「専門」が財務であれば、教務課に異動しようが就職課に異動しようが、常に財務のプロとしての感覚で担当部署においても仕事をする。むしろ専門性は何でもよくて、誰でも何かしらの専門性、得意分野があって、それぞれの異動先で力を発揮できる、ということです。
 私が所属する大学行政管理学会職員研究グループで全国の理事長・学長向けに行った調査でも、同様の結果が出ました。職員に求める専門性は「何でも良い」と言います。その理由は前述のほかに2つあります。
 まず、職員が自分の専門性を掘り下げていく力が身につくと、各分野の「専門家」である教員の生き様が分かると言います。こうした教員の「特性」が分からずに、教員を効果的に動かすことなどできないと。2つ目は、「学び方」を知っているということです。専門性を深める学び方を知っていると、別な領域についてもすぐに深めることができます。
―大学とプロフェッショナル職員との関係は。
 多くの大学では、大学が向かおうとしているベクトルと、職員一人一人の想うベクトルが違うのではないでしょうか。職員の中には「大学のために仕事をする意識がない」という方もいますし、大学は「職員の育成をする余裕がない」ということで、お互いを理解できていないのだと思います。
 人事異動についても、これまでは「○○課を経験した」「○○さんが良いと言っていた」という理由で人事ローテーションを行っていましたが、具体的に何がよいのか、それがどのくらいの精度なのか、見えないままでした。
 しかし、一人一人の専門性、あるいは、キャリアビジョンを大学なり上司がきちんと把握をしてあげて、「君のこの専門分野を大学に生かしたいんだよ。一緒にやっていこうよ!」と言ってあげれば、「本当ですか!」と、やる気も出て、組織を活性化することができます。一人一人と向き合い、対話(メンタリング)をすることが大事だと考えています。
 この取り組みを、私たちは「スタッフ・ポートフォリオ」という形で採用しています。SPODの取組の一環なのですが、愛媛大学が先行導入しています。職員としての業績のほかに、その業績の証拠になるもの、職員自身の振り返りを合わせて、業績に基づく自己のキャリア形成に役立てようとするもので、教育企画室と人事課が協働で行っています。
―今後はどのようにしていくのですか。
 SPODでSD大学院を開校したいと考えています。
 先ほど言いましたように、SDの最終段階は講師になることですが、大学院の教員になれるかというと、そこまではできない。現場の課題を改善するだけなら今のままでも良いのですが、体系的・継続的なプログラムを開発するのは難しい。本年度から、職員向け次世代リーダー養成プログラムが走っていますが、これは2年のプログラムです。つまり、大学院創設を見据えて行っています。
 また、SPODでは、FDやSDのインターン制度を取り入れていて、教職員から学生、外部組織の方まで、1日から1年まで受け入れています。これまでにも、鹿児島の大学の職員が夏休みを使って1週間ほど来たこともありました。関心のある方は、ぜひ門を叩いていただければと思います。


Page Top