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平成22年5月 第2402号(5月26日)

新刊紹介
 「モードとエロスと資本」
  中野香織 編

 タイトル名から中身はおおよそわかるものだ。この本は、そうした本と一線を画す。
 モード、エロス、資本。三つ単語は、関連性はなさそうだが、著者は、この三つを、ものの見事に一本の線で繋いだ。
 〈エロスのエネルギーこそがモードやファッションを盛り立て、そうした品々の消費が資本主義を牽引してきた〉と。
 服飾史家で、明治大学特任教授。第一章から五章あるが、三章の「暴走資本主義が愛を蹴散らし、モードを殺す」に著者の思いがこもっている。
 〈好況に沸いた二〇〇〇年代の前半は、新らしいモードは、春夏と秋冬の二シーズンでは飽き足らず、新奇な「シーズン」が次々に創出された。資本主義が暴走した〉
 〈そのあとに続いた不況では、モードの最先端にいた人々が、倫理や環境を唱え始め、人々はその倫理の物語を消費するようになった〉
 さらに、〈かつてモードの原動力であった恋愛のエネルギーはどこへいったのか〉と過去を検証しながら探索する。
 〈恋愛を面倒くさいと思っても、都市生活の舞台は、恋愛に変わる刺激的な楽しみを与えてくれる〉、〈愛はあったほうがいいが、なければないでとりたて不幸でもない〉と仮説を立てる。
 〈二一世紀は、モードの原動力であった「恋愛」はモードの回転の外にはじかれ、その空虚を「倫理」が埋めていった。暴走資本主義の罪を償おうとするかのように〉と結ぶ。
 〈時代の映し鏡であるモードを通して、劇的な変化を遂げる社会をリアルにつかむ一冊〉という本の「帯」に偽りなし。

 「モードとエロスと資本」 中野香織 著
 集英社新書
 п@03-3230-6391
 定価 680円+税

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