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平成22年5月 第2401号(5月19日)

新刊紹介
 「原点が存在する」
  谷川 雁/松原新一 編

 伝説の人物、谷川 雁の「復活」。この本の刊行も、復活を後押しした。谷川 雁は、戦後日本を代表する詩人思想家の一人。しばらく彼の著作は古本屋でも入手困難だった。
 60年安保世代に、大きな影響を与えた詩人思想家は、吉本隆明と谷川雁。団塊世代は、隆明か雁を読んだものだ。タイトルになった評論を読む。全く古びていない。
 〈「段々降りてゆく」よりほかはないのだ。飛躍は主観的には生まれない。下部へ、下部へ、根へ、根へ、花咲かぬ処へ、暗黒のみちる所へ、そこに万有の母がある。存在の原点がある。初発のエネルギイがある〉
 昔の詩人仲間との手紙のやりとりをまとめた「リレー通信」が素敵だ。
 雁の手紙。〈満六十歳も大根の葉っぱさながら目の前をすいと流れていってしまいました。ようやく死・葬・墓・空っぽを語って、あまり頬を赤らめずにすむ齢となりました。私はこれがうれしい。ずうっと待って、待ったかいがある思いです〉
 丸山 豊の返信。〈樹木や獣の老いには尊厳をおぼえることもありますが、人間の老いはみにくくかなしいものです。しかし、医師としての私は、この率直な感想をおしころして、あわれ人間の一縷の尊厳が末期まで保持されるようにつとめています〉
 松原新一は解説で〈「リレー通信」を収録できたことを私は編者として喜ぶ〉、〈谷川 雁という人は、他者との「関係」の豊かさ・深さを生き抜いた人だった〉。
 いまの閉塞の時代が失ったのは、谷川 雁が抱えて生きた他者との「関係」の豊かさ・深さ、ではなかったのか。

 「原点が存在する 谷川 雁詩文集」 谷川 雁・松原新一 編
 講談社文芸文庫
 п@03-5395-5817
 定価 1400円+税

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