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平成22年3月 第2395号(3月24日)

新刊紹介
  大学出版会の志
 「近代日本の『国民防空』体制」
  土田宏成 著

 330頁を超える大作。「国民防空」と内容は一般向きでないし、値段も高い。正直な話、たくさん売れるという本ではない。
 書いたのは、神田外語大学准教授で、日本近代史・現代史を教える。出版したのは同大出版局。
 猪口 孝・新潟県立大学学長が読売新聞(10・3・5)で、大学出版会のことを書いていた。
 〈日本にも個々の大学に大学出版会がありますが、極端に零細で、信じられない位ひ弱であるということです〉学者の本を刊行できる仕組みを作るべき、と訴えていた。
 早大、法大など大学出版会の経営はどこも厳しいが、学術的に価値ある本を世に出している。街の出版社とは違うぞ、という大学人の矜持がある。神田外語大出版局の志の高さを誉めたい。
 さて、内容だが、著者は〈第一次、第二次世界大戦における軍と国民の関係を社会的側面から検討、その素材として「国民防空」は格好な素材〉ということから国民防空に論及する。
 〈膨大な死傷者を出して、「国民防空」は崩壊した〉で本は終わる。65年前、東京の下町が米軍の爆撃で焦土になり、10万人が死んだ東京大空襲の記述はない。
 隔靴掻痒だが、「関東防空大演習を嗤う」の社説で記者魂を示した信濃毎日新聞主筆、桐生悠々を取り上げる。この視座には、ジャーナリストの端くれとして満足満足。
 著者は東大で伊藤 隆、加藤陽子、北岡伸一、御厨 貴ら碩学の指導を受けた。出藍の誉れをめざせ、とは言わぬが、隙間領域から広場の研究をめざしたら、と言っておこう。

 「近代日本の『国民防空』体制」  土田宏成 著
 神田外語大学出版局
 п@043―273―1481
 定価 4700円+税

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