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平成22年2月 第2389号(2月3日)

大学を取り巻く国際交流の潮流  2
  JAFSA
 国際教育交流のローカル戦略 中小規模校は地域コンソーシアムで対応せよ

広島経済大学教授兼国際交流室長 ジョージ・R・ハラダ

 日本の国際教育交流への挑戦

 2008年に発表された「留学生30万人計画」は、優秀な留学生を戦略的に獲得することで2020年までに30万人の留学生を受入れることを計画している。また、従来に引き続き、アジアをはじめとする諸外国に対する知的国際貢献等にも努めていくことになっている。
 これまでと異なるのは、留学生へのリクルーティングにはじまり、大学卒業・修了後の社会への受入れ推進等を含むグランド・デザインを提示していることである。そのため、文部科学省の他、外務省、法務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省といった各省庁が連携してこの計画を推進していくことになっている。
 このような「グローバル戦略」は、ヨーロッパのボローニア・プロセスによる高等教育の国際戦略(広域内での高等教育統一基準、単位互換システムの設置、学生の流動化への推進等)、オーストラリア、シンガポール、中国、韓国などの国際教育交流への積極的な取り組みに影響されている。また、中国やインドからの留学希望者増加(OECDの統計によると2008年には300万人以上の留学希望者があった)というマーケットの需要拡大の動き、国内の少子化問題による大学に入学する18歳人口の減少や団塊世代の大量退職による人材不足を補充するといった国内事情から国際教育交流の「グローバル戦略」を考えるようになったともいわれている。いずれにしても、国を挙げての動きであるため、関係者である大学等は真剣に考えなければならない。

 中小規模大学と国際戦略

 世界のどの町に住んでいても、学業やキャリア形成のための準備に加えて、国際知識を身に付けること、多文化環境に適応し働く姿勢やそれに見合うスキルを身に付けることはますます重要になっている。欧米ではこれを重視し、大学カリキュラムの国際化、国際交流プログラムの充実化、そして大学プログラムの国際化を計るための指標を確立して人材育成のために活用しようとしている。
 国際化が急速に進行する中、日本の大学とりわけ中小規模大学はどう国際教育交流を進めていくべきなのか。個々の大学には「国際化を目指すのか否か」という問題もあるが、ここでは、既に国際化の必要性のある大学、または具体的に留学生受入れに着手している大学に向けていくつかのポイントを提示したい。
 (1)国際教育交流は大学全体で進めていくことが望ましい 
 中小規模大学に限らず、学生を姉妹校に派遣することや多数の留学生を受入れることだけでは、大学での国際教育交流の効果を生かし様々な方面でその利点を波及させることができない。国際教育交流は、大学のミッションに直結し、大学の目指す目標に貢献するのが理想的である。
 (2)質の高い国際教育交流は単独では困難である
 中小規模大学が単独で「質の高い」国際教育交流のプログラムを開始し、その後の維持・発展させていくには、多くの資金及び人間、機関・団体の協力によって初めて可能になると考える。まず、留学生受入れに関しては、大学周辺地域の理解が必要であろう。大学独自の宿舎がなければ、民間のアパート等を借りなければならない。公営宿舎の空き部屋を利用するには、地元自治体の協力を仰ぐことになる。
 また、留学生がアルバイトをできるだけ控え、勉学に集中するためには、奨学金の獲得は欠かせない。そうすると自治体の国際センター等からの留学生用の奨学金、企業からのスポンサーシップ、奨学金支援を仰ぐことになる。留学生が地元企業に就職を希望するのであれば、企業の理解が必要になる。要するに、コミュニティー全体の協力は必要不可欠であり、大学と一緒に国際化を目指していくことになる。
 次に、キーパーソン及び国際交流に携わる良いスタッフの存在が重要になる。「質の高い」国際教育交流を遂行・維持していくためには、ある程度の専門知識が必要である。豊富な海外経験、語学力と国際交流全般の知識を備え、大学のレベルそしてミッションに合わせて国際教育交流活動を発案し統括できるキーパーソンが必要となる。また、海外留学を進めるスタッフ自身に留学経験がない場合、残念ながら留学生に対し適切なアドバイスを期待することは難しい。また、業務のモチベーションも留学経験の有無で随分異なる。留学経験者は自らの経験を踏まえ、受入れている留学生の立場に立ち適切な判断ができる。しかし、このような専門知識を有するスタッフが国際交流関連部署に配置されても大抵は数年間で別の部署に異動になってしまう。このようなキーパーソンや良いスタッフがいれば、できるだけ専門性を尊重し残すべきである。
 (3)ローカル戦略から国際戦略に発展させていくこと
 国際教育交流を遂行・維持していくためには、前述のような要素が必要になると考える。しかし、中小規模大学は単独でカリキュラムの国際化を進め、国際交流のプログラムの充実化を図るような余裕は現状から考えてほとんどない。そこで、一つの提案は、ローカル戦略である。広島の実施例を挙げてみたい。一九九八年に創設された広島地域留学生団体育成支援協議会というコンソーシアム型の組織は、地元大学、自治体組織、留学生の代表等で構成している。各大学の代表は学長ではなく、実際に留学生の窓口業務に携わっている担当者である。
 この組織の当初の目的は、留学生が広島県下のどの大学に入学しても同様の情報・サービスを受けられ、できるだけ満足して勉学に集中できる環境を作ることであった。この目的を達成するため、広島県全体の国際教育交流の認識及び留学生受入れインフラ・システムの向上を図り、国際教育交流を始めようと考えていた大学に対して、実績のある大学からノウハウを提供してもらい協力関係を作り上げた。
 そして、留学生のリクルーティングのための留学フェアを実施し、留学生問題情報や解決策を交換してきた。このコンソーシアムの最大の事業は毎年、県下の大学の留学生を一同に集めて「広島地域留学生会」の総会を開催し、スポーツ大会を実施することである。このように、地域全体で「質」の高い国際教育交流を目指してローカル戦略を行うことで、単独でできないことを他大学や他団体の協力を得ながら実現する方法もある。
 次の過程として、段階的に国際教育交流に関する地域内での重複活動を削減し、一元化していくことである。さらに進んで、コンソーシアムを通じて「国際戦略」を策定し、海外にある他のコンソーシアムと国際協定を締結すれば、協定パートナーを増やすことができ、様々なバリエーションの国際交流を実施できるようになる。重要なことは、互いに協力し合いながら、個々の大学は常に大学自身のミッションや教育目標に沿って発展していくことである。



 JAFSA(会長=白井克彦早稲田大学総長)は、主に学生の国際教育交流に関する情報交換や研修等の活動を行っているこの分野唯一のネットワーク組織で、2008年に設立40周年を迎えた。会員(正会員・団体)数は、国公私立大学を中心に、232大学・団体(2009年12月16日現在)に上る。http://www.jafsa.org/

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