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平成21年11月 第2380号(11月11日)

新刊紹介
  “昭和が終わった日”
  佐野眞一著

 今の大学生が生れた時代から現代(いま)を照射した本である。自分が生れた年、時代を知ることは「人生の時間」を知ることでもある。
 著者は平成元年を、こう眺める。〈この年に物故した人物、自民党政治の崩壊、経済・社会の融解、風俗・事件、そして皇室の動きなど起きた出来事は、今日の直面する危機の前兆が胚胎していた〉と思いを深める。
 第一章は、昭和天皇が過ごした最期の日々を、二章は「平成」という改元が成った内幕、三章と四章は、昭和の終わりに起きた様々な事件や平成元年に死去した松下幸之助、美空ひばりらを描く。
 一章で印象的な二つの記述があった。〈昭和57年の戦没者追悼式に、昭和天皇が大事をとって欠席、代わりに皇太子が出席したさい、陛下がみせた「天皇の坐が脅かされる」ことへの怖れ〉に驚愕した。
 〈「お痛みですか」と侍医に問われ、「痛いとはどういうことだ」と問い直す〉場面や〈侍医といえども玉体を直接目にしてはいけない〉というくだり。偉大なる君主の死は、天皇の神格性をも失うのか。
 松下幸之助の項では、中内ダイエーの経営破綻に触れ〈『六甲の水』が大ブレイク、水の商品化という高度消費化社会の到来に対応できなかったからだ〉これは理解できる。
 文の最後は、山梨県上一色村を訪ね〈昭和の終わりと平成の開幕を告げる宮崎勤事件や美空ひばりの死、ここから起きたオウム事件さえ忘却の彼方に押し流す風景画のように見えた〉と情緒的にまとめた。 
 綿密な取材で事実を積み上げた前奏は鬼気迫るものがあっただけに残念。最後を、どう締めようかと煩悶したのはよくわかるが…。

 「昭和が終わった日」
 佐野眞一著
 文藝春秋
 03−3265−1211
 定価1400円+税

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