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平成21年6月 第2361号(6月3日)

新刊紹介
  人と組織の絵巻物 「大学の誕生(上)」
  天野 郁夫 著

 大学や大学生を取り上げた新書や単行本が、最近、書店で目に付く。内田 樹や苅谷剛彦ら表現力豊かな大学教授が現れたのも背景にある。
 この本は、そうした本とは一線を画す。「日本の大学はどのような経過をたどって生まれたのか」を膨大な資料を基にコンパクトにまとめた。高等教育論が専攻の著者ならではの大業。
 上巻は、明治10年の「東京大学」の設立と同19年の「帝国大学」誕生から幕が開く。帝国大学が自己変革していく様子と、帝国大学に対するかのように生まれる官立・私立の専門学校の隆盛が描かれている。
 〈帝国大学は「国家ノ須要」に応えることを目的に掲げ、国家の絶大な庇護のもとに期待通りの、それ以上の成長を遂げる〉
 〈東京に唯一存在した帝国大学は、明治30年、京都に第二の帝国大学が設置したことから東京帝国大学と改称される〉
 私塾から入り〈もともとわが国は、明治維新の以前から私学の国であった〉と私立大学にも頁を割く。
 〈大隈重信が創設した東京専門学校(早稲田大学の前身)は、(反体制的な政治学校の色彩が強く)東京大学の「帝国大学」への移行を大きく促進する役割を果たした〉
 興味深かったのは、大学をめぐる議論が当時と今と変わっていない点だ。
 〈慶應義塾は、同志や有志の寄付金による経営の自立をめざす。大隈の財政支援を受けていた東京専門学校も経営はきわめて苦しかった〉
 〈(専門学校)認可の条件で重要視されたのは入学してくる生徒の質の管理だった〉
 著者は、当時と変わらない閉塞状況に大学改革を促しているのではないか。森有礼、井上 毅らの役割、動きは〈人と組織が織り成す大学誕生のドラマ〉そのものだ。下巻が楽しみだ。

「大学の誕生(上)帝国大学の時代」
  天野郁夫著
  中公新書
  TEL03-3563-3668
  定価940円+税

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