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平成21年6月 第2361号(6月3日)

中教審 大学分科会
  審議経過踏まえ第1次報告案
  質保証システム・大学規模大学経営の各部会審議中心に
  大学教育の構造転換に向けて

 中央教育審議会の大学分科会(安西祐一郎分科会長)は、去る6月1日、文科省内の講堂で第80回会合を開催した。昨年9月の諮問「中長期的な大学教育の在り方について」の三つの検討事項である”社会や学生からの多様なニーズに対応する大学制度及びその教育の在り方”、”グローバル化の進展の中での大学教育の在り方”、”人口減少期における我が国の大学の全体像”に関わる同分科会の各部会等での審議経過を踏まえて取りまとめた「中長期的な大学教育の在り方に関する第一次報告」(案)―大学教育の構造転換に向けて―をめぐる審議が行われた。なお、委員からの意見等を踏まえて改めて取りまとめ、六月中旬頃にも会合を開き、委員の了解の得られた報告として、政府の”骨太方針2009”に反映したい意向だ。

 「第一次報告」(案)の概要は次のとおり。
 同報告は、大学分科会の「質保証システム部会」及び「大学規模・大学経営部会」で議論した内容等を踏まえたものであり、各施策を通じた基本的考え方として三点をあげた。
 一、質保証システムの構築と量的規模の在り方の両方の検討が不可欠である。
 二、質保証システムや量的規模の在り方を検討するには、多様化・個性化が進む大学を同一に扱うのではなく、機能別分化を前提とすることが求められる。
 三、大学教育への公財政措置の確保である。
 次に、諮問の三つの事項ごとの各論は次のとおり。

 多様なニーズに対応

 ▽第一・「社会や学生からの多様なニーズに対応する大学制度及びその教育の在り方」
 大学教育で保証されるべき質には、教育課程の内容・水準、学生の質、教員の質、研究者の質、研究環境の整備状況、管理運営方式など、様々な要素がある。その上で、最終的に保証されるべきは、学生の学びの質と水準である。その保証は、各大学が責任を持つことが大前提である。
 各大学での自主的・自律的な取組を前提とし、各大学が掲げる目標に対応した人材養成ができるような学内システムが担保できる環境を整え、維持することは国の重要な役割である。
 (質保証システムの三つの要素)=最低基準を定める「設置基準」、最低基準の担保のための「設置認可審査」、設置後の「認証評価」があり、これら三要素の役割と相互関係の早急な検討の必要性が求められている。また、質保証の検討に当たり、諸外国の取組等にも留意する必要がある。
 なお、これら三要素に加えて、大学の活動を支える公財政支援が質保証システムに果たすべき役割を検討することも課題である。
 具体的な検討課題例として、設置基準と設置認可審査の課題では、設置基準の規定内容をより具体的にし、設置認可審査における審査基準として活用しやすいようにする、定性的な規定を定量的な規定にする、などをあげている。設置基準と認証評価の課題では、各認証評価機関が定める基準のうち、一定のものについての共通化、大学評価基準の一層の具体化、などをあげている。設置認可審査と認証評価の課題では、アフターケアが完成年度までであるのに対し、認証評価は七年以内に一度であり、この二つの接続と連携などをあげている。
 そのほか、学位プログラムを中心とする大学制度と教育の再構成について、大学制度の本質、とりわけ団体性や自律性との関係もあり、今後、委員間の共通理解を図りながら審議することとし、検討課題例として、学位プログラムの実施に係る教育課程、管理運営、学校教育法や関係法令等の規定などがあげられた。

 グローバル化への対応

 ▽第二・「グローバル化の進展の中での大学教育の在り方」
 大学の教育・研究機能を高め、グローバル化に積極的に取り組み、大学教育の質的な転換を果たすことが求められている。
 近年の高等教育の拡大や国際化の進展の中、多様な質の評価の重要性が増しており、OECDは学習成果の評価(AHELO)のフィージビリティ・スタディの実施を提案している。我が国は工学分野での参加を表明している。
 そのほか、大学の国際競争力向上のための方策として、各国の動向を踏まえた対応の必要性、情報発信の重要性等にも言及するとともに、学位の国際通用性の向上、国際的な大学ネットワークの形成などが必要である。

 人口減少期の大学の全体像

 ▽第三・「人口減少期における我が国の大学の全体像」
 大学の量的規模と経営に関する多岐にわたる論点では、全体の量的規模の検討、機能別分化・大学間連携の促進・組織見直しへの支援のほか、各大学の教育研究組織や収容定員の見直しへの支援・情報公開の促進・経営改善に取り組む大学への支援・収容定員の取扱いの適正化などがある。
 大学全体に関連する制度等についての検討課題としては、社会人・高齢者等の大学就学の充実やグローバル化を踏まえた量的規模、学士・修士・博士ごとに、また、人文社会系・理工農系・医療系等の分野ごとにおよその規模の検討、分野別・地域別の在り方などがあげられている。
 そのほか、機能別分化の促進、教育・学生支援分野の共同利用拠点の創設へ向けた大学相互間の課題や各大学の自主的な教育研究組織や収容定員の見直し等への支援、学校法人の経営困難、経営破綻時の支援(ガイドラインの作成、就学機会確保)などをあげた。
 また、収容定員の取扱いの適正化では、定員超過の取扱いの厳格化及び定員割れ学部等の設置認可の厳格化等が課題となっている。
 さらに、教育研究活動の情報公開のほか、財務・経営状況についての情報公開を促進するための各種取組も課題となっている。
 これらの報告の後、意見発表が行われ、各委員からは、「”中長期的”な意味あいから、もう少し段階的な視点での大学の果たす役割を表現してもよいのではないか」「生涯学習社会との関わりにも触れてはどうか」「多様な大学の発展の視点から、大規模大学の定員超過は厳格化すべきだ」「地域振興の核にもなっている地方小規模校を大事にしたい」「全体的に具体的な数量表現をもう少し入れたらどうか」「大学分科会の多様な審議状況がよくまとめられていると思う。表題の”報告”とあるのは、”審議経過”でもよいのでないか」など様々な意見が出された。
 今後、早急に関係部会長等と相談して修文し、改めて会合を開く予定である。

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