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平成21年4月 第2354号(4月1日)

新刊紹介
  幸田文 しつけ帖
  青木 玉 編纂

 近頃の親たちの「躾」はどうなっているのか。大学の卒業式が続いた先月末、呆れた光景に出会う。近くの公園で煙草をスパスパやっている袴姿の女子学生、缶ビールを持って地下鉄に乗り込み大声で喋り合う黒スーツの男子学生…。
 そんな春、この本を読む。幸田露伴の娘、幸田文の書いたものを文の長女、青木 玉が編纂した。文は五歳のとき生母を亡くし、継母が家事に劣っていたため、露伴から家事などしつけられることになった。
 〈掃いたり拭いたりのしかたを私は父から習った〉掃除のしつけでは、初日は座学、二日目に何をするのか、を問われる。「障子に、はたきをかけます」と答えると、父は「ごみは上から落ちる、仰向け仰向け」。天井の煤に気がつく。
 畑仕事、菊作りも手伝わされる。〈黄金は、かぽちゃりかぽちゃりと悠久な音楽をかなでて〉先棒を担ぐ。途中で、棒がデデッとかしいで〈飛んで逃げた。妙香あたりに薫じ…〉。笑いながら泣いて読んだ。
  幸田 文は明治37年生まれ。死語になったような言葉が多い。「あとみよそわか」というタイトルさえ、ちんぷんかんぷん。文章ごとに「註」があって解説している。これは有り難い。
 玉は、祖父のしつけについて「あとがき」に書く。〈祖父にすれば、多少丁寧に部屋の掃除くらいは出来ないと、先行き困るであろうという程度のことであり、何もそう大仰な考え方でなく、極く普通のことなのだ〉
 こう平然といってのける孫。幸田家三代は、そろって「大道」を歩んだ。三部作で、「台所帖」、「きもの帖」と続く。いずれも、大学生の初年次教育の教本に最適かもしれない。

 「幸田文 しつけ帖」
 著者 幸田文、編者 青木玉
 平凡社
 03-3818-0874
 定価1600円(税別)

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