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平成21年3月 第2352号(3月11日)

フィンランド 豊かさのメソッド  堀内都喜子

 現地の大学院留学で体験したことを原点に書いた。女性の低い目線がいい。子どもの学力調査(PISA)で世界一になったフィンランド。その秘密を知りたがる人にとって格好の入門書。
 〈今まで陰に隠れた北欧の小国であったフィンランドにスポットがあたってきているのは、私としてもうれしい限り…〉と書き出す。驚きと戸惑いの“物差し”で秘密に迫る。
 フィンランドが「教育力」を高めたきっかけは、一九九〇年代はじめの経済危機だった。経済改革などとともに教育制度の改革を行なった。〈すべての国民に高等教育の機会を与えるようにしたり、教育者の再教育を行なった〉
 驚きは、〈高校卒業の統一試験は、日本でよくある穴埋め式や選択式というのはなく、基本的に記述式〉、〈小学校二、三年生から英語を学び、小学校六年生になると、英語で簡単な日常会話ができる…〉。
 戸惑いは、〈どの国よりも授業時間が少ない。しかも塾はないし、家庭教師に勉強をみてもらう、ことはない〉、〈煙草、酒、サボリ、遅刻の常習犯も中学生にはたくさんいる〉。
 秘密をフィンランドの識者は、▽質の高い教師▽偏差値編成や能力別クラスがない▽学生のカウンセリングとサポート▽少人数制▽経済格差が少ない教師の社会的地位が高い▽安定した政治―などを挙げる。
 著者は〈フィンランドにいると、あれも勉強したい、これも勉強したいと学習意欲が高められるし、勉強したことが確実に新たな道につながっていく達成感もある〉と最後に綴る。秘密、つまり日本との教育力の差は、このへんにありそうな気がする。

「フィンランド 豊かさのメソッド」
堀内都喜子著
集英社新書
電話:03-3230-6080
定価:700円+税。
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