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教育学術オンライン

平成21年1月 第2346号(1月28日)

高めよ 深めよ 大学広報力〈19〉
  進学部設置、改革は継続 東京女子大学
  他大学、卒業生らと連携 日本女子大学

こうやって変革した(16)

 女子大冬の時代といわれて久しい。少子化、大学全入問題に加え、「男子がいたほうが様々な影響が受けられそう」「女子だけだと出会いが少ない」といった現代女子大生気質が反映しているとも。名門といわれる女子大もかつてに比べて偏差値が下がったとか。さらに、全国各地で女子高の共学化が進み、女子大のなかには共学に転向する女子大も少なくない。米国でも、東部の名門女子七大学(セブン・シスターズ)のうち、現在も女子大であり続けているのは四大学にすぎないそうだ。そうしたなか、日本の女子大の間では、新しい学部の設置や共学の大学との単位互換制度の導入といった改革の動きも活発だ。東京女子大学(湊 晶子学長、東京都杉並区善福寺)と日本女子大学(後藤祥子学長、東京都文京区目白台)も改革の真っ只中にいる。両女子大学に生き残り戦略を尋ねた。(文中敬称略)

女子大学にも改革の波

 リベラル・アーツ充実
 東京女子大学は、一九一八年に開学。初代学長の新渡戸稲造が大学の礎を築いた。戦後の一九四八年に文学部からなる東京女子大学として発足。一九六一年、文学部は文理学部七学科となり、現在、文理学部と現代文化学部(三学科)の二学部一〇学科ある。
 同大学は、キリスト教を基盤としたリベラル・アーツ教育を行ってきた。今年四月に大きな改革がスタートする。現在の二学部一〇学科を統合・再編し、「現代教養学部」一学部四学科一二専攻の新体制となる。二学部が一学部になる。
 この統合によって、人文、国際社会、人間科学、数理科学の四学科の下に、新たに経済学や情報理学などの専攻が誕生する。その一方で、伝統的な哲学専攻は残したという。
 湊が説明する。「七年前から困難な作業を行い、ようやく実現しました。幅広い教養を身に付け、国際会議に出られるようなグローバルな人材を育てていきたい。この改革が成果を得られるか否かは今後の努力にかかっています」
 この新学部設置を浸透させるため「うちの大学にとって、かつてないくらい、宣伝費もつぎ込みました」(教育研究支援部長の大田ヒロ子)。新聞や雑誌広告のほか、新宿、渋谷、吉祥寺といったJR主要駅には大きなポスターを貼り、車内の中吊り広告も行った。
 学長自ら「伝道師」
 湊は、これまで全国各地で行った「学長講演会」でも新学部の”伝道師”を務めた。「学生もオープンキャンパスや母校に行って新学部の説明など広報のお手伝いをしてくれました」(湊)。オープンキャンパスに来た女子高生に新学部は好意的に受け止められているという。
 広報には、かなり理解ある学長である。就任してすぐ、ブランディングを手掛けた。大学のロゴ、カラーを統一した。「目立たないのが美徳といわれましたが、目立つのでなく、知っていただきたい、という思いで(ブランディングは)実施しました」と湊は笑顔で語った。
 ところで、武蔵野大を紹介した前々回の連載で、大学人は「大学ランキング」の数字を気にすると書いた。東京女子大では、二〇〇七年「大学満足度ランキング」(ベネッセ)が、これにあたるのか。大田がみせてくれた。
 このランクは、教育設備は充実しているか、講義の内容は面白いか、進路指導は適切か、といった二一四項目について全国の大学生に聞いた。トップは国際基督教大学で、東京女子大は七位に入った。
 この数字について、大田は「教育研究の充実、そのための環境の整備、就職率のよさ、などが評価されました。今後とも、文科省のGPなど競争的資金の獲得や教育施設や内容の充実をはかり学生の満足度を高めていきたい」と語った。
 他大学との連携も盛ん
 改革では新学部ばかり注目されるが、他大学との連携も盛んだ。成蹊大、亜細亜大など武蔵野地区の五大学との単位互換制。日本女子大、津田塾大など女子五大学とアフガニスタン女子教育支援コンソーシアムも立ち上げた。
 湊は「社会の変化はめまぐるしく、これからも改革を迫られることは少なくないでしょう。今後とも『女性の一生涯を支える大学』であり続けるため、さらなる改革に挑戦していきたい」と最後に語った。東京女子大の改革はまだまだ終わらない。
 ”ワンボイス”の広報
 日本女子大は、一九〇一年、成瀬仁蔵によって日本女子大学校として創立された。一九四八年の学制改革によって新制大学としての日本女子大学が発足、家政学部・文学部を設置 。現在、家政・文・人間社会・理学部の四学部がある。
 取材には、事務局長の島田京子が応じてくれた。島田は同大家政学部卒業後、日産自動車に入社。広報部、グローバル広報・IR本部の担当部長などを歴任、カルロス・ゴーン社長(当時)に仕えた。〇六年一月から同大事務局長に。
 島田は、文科省の中教審委員、三鷹市社会教育委員など外部の要職も多い。「広報については、ゴーンさんから学んだことが大きい」と、大学広報を語った。
 「大学の内にも、外に向けてもワンボイス(ブランドが一つにみえること。一貫して同じ色に見え、一貫して同じ音色で聞こえてくること)で伝えるべきです。学内では意識の統合をはかり、外には強いブランド、つまり信頼性をつくっていく、ようにしたい」
 「特に、大学は企業と違って、いろんな考え方の教員もいます。教育理念、建学の精神を中心に、ワンボイスの広報を心掛けたい。アンテナを高くして、正しい情報を広く把握して、ストーリー性を持ってわかりやすく発信していきたい」
 同大では、〇六年に学生記者制度を発足させた。受験生向けの「大学案内」や「学園ニュース」、ホームページの作成は学生記者が携わっている。「学生の目線で、出来事を見たり、大学の特色を伝えるためです」(島田)という。
 早大で学ぶ学生も
 「これからは、いろんな大学との連携が大事」と島田は力をこめた。文京区との連携「文の京ネット」、f-Campus(早稲田・立教・学習院・学習院女子大学との五大学単位互換制度)、五女子大学連携(お茶の水女子・津田塾・東京女子・奈良女子大学)…さまざまなネットワークを作っている。
 f-Campusで日本女子大から早稲田大に行った学生が「大学案内」で感想を語っている。「スポーツの普及活動などに携わりたいと早稲田大の『トップスポーツビジネス最前線』の講義に参加しました。スポーツビジネスの難しさと奥深さを感じ、憧れが目標になりました」
 東京家政大学、大妻女子大、実践女子大、昭和女子大とともに〇七年から「教職専門職大学院のモデル策定を目的としたプログラム」に取り組んでいる。この五女子大学共同教職大学院は一〇年度開設をめざして設置準備中だ。
 ”気になる数字”である「大学ランキング」では、広報渉外課長の菅原彰子は「大学サイト・ユーザビリティー調査」(日経BPコンサルティング)をあげた。このメインコンテンツへのアクセスのランクで全国三位。「ウェブサイトは有効なツールなので、正確な情報をすみやかに伝える、を心掛けています」と菅原。
 キャリア教育にも実績
 同大の就職率は高い。女性の職業観を育てる、という意味からキャリア教育にも力を注いできた。昨年四月、現代女性キャリア研究所を設置した。「女性の能力が発揮される二十一世紀社会に貢献することを目的にしています」(島田)
 女子大冬の時代について尋ねると、島田は「どうやって大学の良さ、特徴を伝えていくか、が大事になるでしょう」と語り、こう続けた。
 「少人数教育、就職率の高さなどは本学の特徴のひとつ。建学の精神とともに、さまざまな分野で活躍される卒業生、地方や地域、そして連携する大学と一緒になって(女子大学を)盛り上げていきたい」。日本女子大は、さらなる飛躍をめざして卒業生、地域、提携大学らとの連帯を求める。

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