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平成21年2月 第2346号(1月28日)

干支の弁 牛歩

 鶴見大学学長 裄V慧二

 今年は丑年で、このコラムの執筆は丑年生まれの人に回ってくることを告げられると、何か丑年について書くのがよさそうな気になる。満六〇歳の還暦から、もう一回りしたことになるが、かつては老人と思っていた七〇歳台が現実に自分のことになるとそんな歳でもないように思われるのは、幸い健康に日々を送っているからであろう。
 干支は十干と十二支の組み合わせであるが、これに人の性格や運命を結びつけることは現在ではほとんど行われていない。しかし、昭和四十一年には丙午(ひのえうま)の年に生まれる女性が敬遠されて、その前後の年に比べて極端に出生数が減少したことは、まだ記憶にある。
 迷信といってしまえばそれまでだが、科学的根拠は全くないのに、人の性格と結び付けられていることに血液型がある。血液型を決める要素と性格を結びつけることは科学的に不可能だが、血液型は遺伝し、性格もまた遺伝すると考えると、自分の周りにいるある特徴的な性格の人とその血縁のグループが作る集団は、血液型の性格づけの基になっていることはありうることである。
 性格ではないが、テレビの朝の番組の中でしばしば取り上げられるものに、誕生日の星座と今日の運勢がある。科学的な根拠はないが、悪い運勢といわれる人のその日に気をつけることを聞くと、運勢は別としても大切な注意を含んでいることは事実である。
 本題にもどって、亥年の人は猪突猛進で丑年の人はのんびりしているというように、干支と性格を結びつけることに科学的な根拠はないが、性格におよぼす教育効果を考えることはできる。
 私は中学校卒業のときに、ある先生から「牛歩」という言葉を味わいながら生きて欲しいというメッセージをいただいた。私たちが昭和十二年生まれの丑年であることを意識されて贈って下さった言葉であろう。私の性格は、どちらかといえばせっかちで気が短い。しかし、人生を振り返ると「牛歩」という言葉に助けられて、「あせるな、あせるな」と自分に言いきかせて失敗を未然に防いできたことがしばしばあったような気がする。
 教育の場にいる人間として、学生に与える言葉の重さを常に自省しながら、今年も「牛歩」を進めていきたい。

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