Home日本私立大学協会私学高等教育研究所教育学術新聞加盟大学専用サイト
教育学術オンライン

平成21年1月 第2344号(1月14日)

おわりに〜改革の加速に向けて社会全体での取組を〜

 1 学習環境の確保等に向けた産業界の積極的な協力を
 (1)学士課程教育の構築に向けては、大学と産業界との連携も欠かせない。産業界との協力を通じてまず必要であるのは、採用活動の早期化にかかわる問題の是正である。
 近年、通年採用の動きも広がりつつあるものの、新卒一括採用の慣行は、多くの学生にとって依然として大きな影響力を持っている。最近の雇用情勢の悪化に対応して、各大学は学生の就職機会の確保に向けて一層の努力と取組が求められている。
 その一方で雇用情勢の悪化に伴う学生の不安な心理がかえって就職活動の早期化をもたらすおそれもあり、学生の落ち着いた学習環境を確保することが必要となるものと思われる。
 (2)大学が、学生による学習成果の達成に向け、教育内容・方法の改善、学修評価の厳格化を徹底して進めるのと同時に、産業界においても、大学教育の成果を適切な時点で評価しなければ、改革は奏功しない。採用活動のさらなる早期化が進行するならば、学生に対し、大学での学びは実社会では意味がないという社会的なメッセージを発してしまうことにもなる。
 (3)本審議会では、過去にも新卒一括採用の見直しを提言してきたが、今日、学士課程において、社会人としての基礎力を育成する意義・必要性に関し、広範な共通理解が形成されつつある中、また、九月入学を促進していこうという機運が生じている中、産業界に対し、大胆な見直しを改めて強く期待したい。
 産業界では、経済団体が加盟企業に「倫理憲章」の遵守を呼びかけるなどの取組が見られるが、今後、その普及を図り、実効性を高めていくことが課題となっている。「倫理憲章」に違反する企業の公表等を行うべきであるとの指摘もあるが、本審議会としては、できるだけ速やかに、多くの企業(少なくとも上場企業はすべて)が、適正な採用活動に関する規範を自ら宣明し、遵守する状態が実現されることを望みたい。
 その際、大学側においても、学生の就職についての「申合せ」を遵守し、実効性を高めるための取組を推進するため、就職・採用活動のルールについて、教職員や学生に対して引き続き周知徹底する必要がある。
 学生が勉学に打ち込み、豊かな体験を通じて、必要な知識技能を身に付けるのを待つことができるか否か、我が国の社会の成熟の度合いが問われている。
 (4)産業界と大学との関係は新規学卒者の採用活動の面にとどまるものではない。
 職業教育分野においては、産業界の協力が欠かせない。関係省庁と連携を図り、産業界との対話の機会を設けるなど、積極的な働きかけを行うことが重要である。第2章で述べた職業教育分野における学習成果に関する共同研究、インターンシップの推進をはじめ、互恵関係を確立して、学生に対する教育の充実を図っていくことが望まれる。また、将来的に企業人が必要に応じて随時大学で学ぶことができるような環境をつくるため、産業界及び大学が共に手を携えて取り組んでいくことが大切である。
 なお、海外においては、企業等の財団が、大学教育の振興に向けて、様々な基礎調査や研究開発、プロジェクト支援を行ったり、奨学事業を展開したりしている。こうした面を含め、幅広い産業界の協力を期待したい。

 2 縦の接続を重視し、幅広い論議を
 (1)本答申は、大学教育のうち、学士課程教育の在り方に対象を絞って提言を行っている。
 その念頭に置かれているのは、現在の我が国の学生の大多数を占める若年学生である。しかし、大学で学ぶ者が特定の年齢層に狭く偏っている現状こそが、我が国の大学あるいは社会の抱える課題を示しているとも言える。
 一貫した理念に基づく生涯学習社会、知の循環型社会の実現に向けては、高等学校から大学への進学、大学から産業界への就職といった範囲で議論するのみでは十分ではない。
 今後は、学校体系全体を通じて、さらには家庭生活や職業生活とのかかわりを含め、縦の接続を重視して教育改革を進めていくこと、その一環として、学士課程教育の在り方を見直していくことが必要となる。本審議会の提唱している学習成果の重視、出口管理の強化という課題も、単に学士課程を対象とする方策のみでは解決されない。
 (2)本審議会は、本答申を契機として、その内容に関し、各方面で関係者が真剣に語り合う場が形成され、広範な議論が展開されることを期待している。(おわり)

Page Top