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平成20年12月 第2341号(12月3日)

"強い"経営を目指して 中期計画の実質化C
  平等型から選択と集中へ 目標、計画、予算、業務の連結

  日本福祉大学常任理事 篠田道夫

 戦略の実行計画化
 戦略を実質化するには、実際の実行計画に落とし込み、業務遂行計画や教育改革に具体化する仕組みが不可欠だ。戦略重点課題が学部の教学計画や年度ごとの事業計画、予算編成方針に反映され、到達目標が示されなければならない。中期計画をお題目で終わらせないためには、それを現実の計画に具体化し、人、物、金を集中することが求められる。
 しかし、これは言うほど易しいことではない。
 今日の右肩下がりの財政構造の中で目標の実現を図ろうとすれば、当然廃止・縮小すべき事業を明確にする決断が求められる。既得権益や前例を重視する大学風土の中では、批判や抵抗は免れえない。しかしこれを避けたり中途半端な調整を図っていては、中期計画の実現は絵に描いた餅になる。ここにこそ経営の責務があり真価が問われる。
 研究所調査でも、予算査定に最終段階で理事長自ら立会い、掲げた目標が実現できる予算か最終点検を行う大学が多かった。中期計画の実現には、資源の再配分が行える経営かどうか、平等型から選択と集中に転換し、リストラクチャリングできるかどうか、まさにここにかかっている。
 またいくつかの法人では、この重点課題を個々人の業務課題に連結させ、個人責任を明確にして事業推進を図る目標管理制度、人事考課を取り入れ、また教員の教育活動にも反映される仕組みを持っている。政策を全教職員が分担して遂行し、目標実現に迫る工夫がなされている。そして年度末には、到達点、課題を明らかにし、事業報告書等に取りまとめる。このPDCAサイクルを単なる標語でなく実際の業務運営の年間サイクルに具体化できるかどうかが重要である。
 実践の事例を研究所の経営実態調査に見てみたい。

 明快な戦略遂行システム
 福岡工業大学の経営を特徴付けるのは、明快な経営戦略(マスタープラン・MP)の策定と分野別の年度事業推進計画(アクションプログラム・AP)の具体化、その実現のため一般予算とは区別された特別予算を編成している点だ。PDCAを戦略遂行、教学改革、事務改革のツールとして教職員が使いこなし、独自の方法で学校運営の基本サイクルに定着させている。
 MPは全学的に公開され徹底的に議論されるが、一旦決められると学内全機関の三ヵ年の目標となり、あらゆる組織を拘束する。その実現のために各部署からAPが提案され、教職員参加の審査会で目標との整合性や効果等について評価、検証を受けた上で特別予算が組まれる。
 MP―AP―特別予算の流れで実行計画に落された事業は、「AP中間報告会」「APレビュー報告会」「成果発表会」などで進捗や到達、成果や問題点を明らかにし、次年度につなげている。教員(教育事業)も巻き込んでサイクルを運用している点は特に優れている。掲げた目標の実践に徹底的に拘って追求するやり方こそが、中期計画の実質化を保障する。
 全管理者の机に置かれた「For all the students―全て学生・生徒のために」「Just Do It(すぐ実行する)」の標語はこの基本精神を表している。

 数値目標への具体化
 中村学園大学では、大学・短大など六つの学校、幼稚園を持ち、六五億規模の給食事業を展開。中期総合計画は八〇ページもあり、現在第三次計画が進行中である。二〇一〇年までの教育・研究計画、学生支援計画、社会貢献計画、さらに施設計画から財務計画、事務局の課別の業務計画まで、総合的、具体的に定めている。しかも事業は実施年次を明記、就職等は何%、資格取得は何名、順位を競うものは何位以内に入る等、数値目標を多くの項目に書き込んでいる。
 また志願者・入学者の五か年の年次別獲得目標、事務局課室別業務計画、教職員の人員計画も一覧表で示され、これに基づき予算が付き進捗管理、評価が行われる。中期計画を教職員個々人の目標に連動させ具体的に示すことがキーである。これを大学から幼稚園までの教職員の人事考課制度に連結させている点も優れている。
 大阪経済大学では、教育・研究改革から学生募集や就職、学生生活支援、地域との連携、施設・設備計画から管理運営・組織改革、財政・人事計画までを網羅する一二の大項目、一〇一の小項目から成る具体的計画を作り、その実践を進めてきた。構成員の総意に基づく運営が行われているが、それだけに掲げた目標の実践を曖昧にしない措置として計画への具体的な書き込みを重視している。
 特筆すべきは、大学の目標を端的に示すと共に、実施政策を教育システムや事業計画、業務計画として具体的に提示していることだ。しかも、そのための体制整備にまで言及し、理事会改革、大学運営の改善、職員参加や人事制度改革、教員評価にまで踏み込んで改革の実効性を担保しようとしている。大学構成員に教育理念―長期ビジョン―短期計画の全構造が理解できる内容となっている。

 政策実現への取組み
 日本福祉大学でも、一九九〇年代から中長期計画に基づく大学運営を進め、ほぼ五年スパンで新たな目標や事業計画の設計を行ってきた。現在は二〇〇六年度からスタートしているが、学園ビジョン、創立六〇周年(二〇一三年)までの中期構想、短期計画によって成り立っている。学園ビジョンは、改めて三つの基本目標として@人間福祉複合系学園の構築A生涯学習型ネットワークキャンパスの展開B福祉文化の創生と普及を掲げた。三か年の短期計画では中心事業として二〇〇八年度、三つの学部、健康科学部・子ども発達学部・国際福祉開発学部の同時新設を行った。
 そしてこれらを具体化するのが重点事業計画だ。二三項目に上る重点事業全てに担当執行役員の分担責任が明確にされ、年二回、丸二日かけてその立案(計画策定)や総括(到達点、問題点の評価)を行っている。担当執行役員が予算編成、推進体制の構築、実施管理、その結果に責任を負うことで、全体目標の実現に努めている。
 広島工業大学でも中長期運営大綱に基づき二〇一五年までの四つの基本方針、五つの計画を定め中期的な改革の柱になる事業を鮮明にすると共に、三か年ごとの中期基本計画、単年度ごとの年度運営計画を定めている。この年度運営計画の策定・評価、予算編成方針の立案から予算編成作業、理事長査定、決算、事業報告書の作成、問題点と課題の明確化に至る全過程を年間スケジュールとすることで、PDCAを学内業務に定着させている。
 国士舘大学の年間方針の柱である事業計画の立案法も優れている。全ての基礎組織(経営・教学・事務)から提出されるこの計画は単なる予算要求書ではなく、事業の「達成目標」、「目標の達成度合いを示す指標」を、可能な限り数値指標も入れ込みながら設定する書式である。これは事業が単にできたかどうかだけでなく、達成指標に基き、どこが前進しどこが不十分だったのか、終了後に評価し継続的改革が推進できる点で工夫されている。
 大きな政策の実現は、トップ層の決断とリーダーシップによるところが大きい。この中に構成員の知恵を生かし現実的な政策としてまとめ上げ、具体化し業務にまで落とし込む過程を通して全学浸透を図り、教職員を組織して実践に結び付けていくことで成果に結びつく。政策と計画を教育改革、業務計画、予算に貫き、掲げた目標への実現を図る戦略的マネジメントが求められている。

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