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平成20年11月 第2340号(11月26日)

FD義務化を超えて 専門家に聞く"実践"とは

 二〇〇八年四月、学士課程レベルでのFD(ファカルティ・ディベロップメント)が義務化された。しかし、中央教育審議会「学士課程教育の構築に向けて」(答申案)によれば授業改善だけでは済まない。FDの今後の展開を専門家三氏に聞いた。

はじめに

 ●義務化されたのは授業の改善
 FD義務化の根拠となる大学設置基準は次の通り。
   大学設置基準 第二十五条の三(教育内容等の改善のための組織的な研修等)
 大学は、当該大学の授業の内容及び方法の改善を図るための組織的な研修及び研究を実施するものとする。
 ここで言うFD義務化とは「授業内容および方法」を指している。実際、多くの大学で「授業改善」FDが始まっている。その多くは、@講演会、A授業評価アンケート、B公開授業と検討会、Cワークショップ、D出版等のいずれかのようである。
 大学間ネットワークを構築し、ノウハウの共有を図っている事例も増えている。小規模大学であれば、先行する大学の実践や工夫を参考にする方が効率も良いし、教員の視野も広がる。FDは、原則的に教員相互の学び合いにより創造的に発展するものだ。
 ただし、現状の授業改善FDには次の限界もある。
 まず、FDが、教授方法の改善のみに偏っていることが多い点である。そもそも、一つの学問分野を突き詰めると、教授方法と教授内容は切り離せなくなる。従って、ユニバーサルな教授方法は存在しないという意見もある。
 次に、「授業改善」イコール「教員のみの問題」となっている点である。教育力向上は、経営サイド、教員、職員、あるいは学生が一丸となって解決していくべき問題である。
 最後に、教員の中でも、一部の熱意のある篤志家が「個人的に」取り組んでいる点である。組織的ではないため、熱心な教員に負担が極端に伸し掛かる。従って、その教員が担当を外れた場合、取り組みが急速に後退することが予想される。
 そもそも、どのような授業が「良い」授業なのかは、各大学が掲げる教育目標によって評価基準が定義されるべきである。評価なき取り組みは進むべき方向を見失いやすく、やがてモチベーションの低下を生み、仕事の山に埋没していくことになる。

 ●授業改善FDを超えて
 授業改善FDは、義務化されたので最低限行わなければならない。しかし、中央教育審議会「学士課程教育の構築に向けて」(答申案)を視野に入れれば、現場の志高い教員による授業改善に任せていれば事足れり、という話では済まなくなってくる。
 社会や学生のニーズを調査し、建学の精神やミッションに基づいた教育目標と中期計画を策定する。それを実現するカリキュラムを構築し、一つ一つの講義の内容を設定する。この場合の授業改善FDは組織的であり、あくまで教育目標を実現するためのものでなければならない。授業改善FDは、教育目標と独立して行うことはできない。
 また、教育目標実現の担い手が教員であると言っても、教員だけで出来ることは限られている。小規模の大学ほど、それに時間を割く人材も予算も少ないというのが現実であろう。
 ファカルティ・ディベロッパーは、教員の教育力を高める支援を行う専門職員である。シラバスの書き方から、保護者との話し方まで、様々な角度から教育力向上を支援する。また、カリキュラムの構築や組織改革のコンサルティングも行う。基本は教員相互の学び合いではあるが、こうした専門家のアドバイスを請うことが効果的な場面もあろう。
 学生をトータルに支援するには、教員にしか出来ないこと、教員ではなくても出来ることに分けて、こうした専門職員や事務職員と連携しつつ、「教育チーム」として対処していくことが必須になるであろう。

 ●FDからUDへ
 このたび、FDの現状や今後の動向について、まず、名城大学の池田輝政副学長に話を聞いた。
 全ては「教育目標の達成」のために、教育、研究、社会貢献、行政管理の一貫した取り組みを解説して頂いた。また、FDの学問的裏づけを与える新しいコンセプトを紹介していただいた。
 静岡産業大学の大坪 檀学長、山田 登学長補佐には、教員自身が志を高く持つことの大切さを語っていただいた。また、学内で次々にアイディアが出てくる秘訣を教えていただいた。
 最後に、国際基督教大学の絹川正吉前学長に、多様化する学生に対応する、新しいFDの領域を論じていただいた。また、経営サイドの教育支援の重要性を指摘していただいた。
 ここに登場していただいた三方に通じるFDの要は、経営サイドと現場の教職員の距離を縮め、「自分の大学の教育とは何か?」について、教職員分け隔てなく議論が巻き起こる土壌を醸成することである。
 その先に、大学全体を改善するUD(ユニバーシティ・ディベロップメント)という地平が見えてくるのであろう。

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