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平成20年7月 第2325号(7月23日)

中間まとめ 大学界・産業界 持続的協力で人材育成めざす
 産学人材育成パートナーシップ

 「産学人材育成パートナーシップ」は、産業界と教育界が人材育成における横断的課題や業種・分野的課題等について幅広く対話を行い、具体的行動につなげる場として、昨年十月に創設された。全体会議の下に情報処理、原子力、機械等の九つの分科会を置き、@それぞれの業種・分野を取り巻く環境変化を踏まえ、社会ではどのような活躍の場が想定され、どのような人材が必要とされるのか、Aその人材の育成に向けて取り組むべき課題は何か、B産学が役割分担を行いつつ具体的に取り組むべき行動は何か、といった議論を重ねてきた。その成果をこのほど全体会議で「中間まとめ」として公表した。そのうち「主に大学界に係る課題と今後の取組」及び「各分科会の議論のポイント」は次のとおり。

 ▽大学界に係る課題と今後の取組
 (1)基礎知識・専門知識の十分な定着と産業界のニーズを踏まえた教育の充実=大学では、専門分野の土台となるような基礎知識・専門知識について、なぜこれらが重要なのか、将来どのような役に立つのかといった意義を踏まえ、何について大学、大学院のどの段階で学ぶことが必要なのかといった観点から教育をデザインすることが不可欠である。大学は、常時、産業界との意思疎通によるニーズの正確な把握に努め、その視点を教育に反映していく努力が必要である。
 (2)教員の教育力の強化=産業界との人材交流も含め、ファカルティ・ディベロップメントの機会の増大、内容の充実のための取組を一層推進することが重要である。特に産業界においては、教員のインターンシップ受入れを始めとした、ファカルティ・ディベロップメントに対する積極的な支援が求められる。
 (3)教員がより公平に評価され、教育へのインセンティブが適切に付与される仕組み作り=産学で育成目標を共有し、その方向性に向けた教育の実績を適正に評価したり、地味であっても基盤的な研究・教育に対して公平な評価を実施するなど、人材育成の視点からのインセンティブを与える仕組みが求められる。
 (4)大学間の連携の充実=各大学が特徴ある資源投入を行うとともに、大学間の連携により、強みのあるリソースを相互に活用する仕組みを整えるなど、効率的かつ効果的な教育研究環境を整えていくことが重要である。
 (5)初等中等教育等に対する波及方策の検討=大学界が社会の人材ニーズを十分に咀嚼し、育成目標を定め、取組を進めれば、それ以前の教育課程も大きな影響を受ける。本パートナーシップが、これからの社会で求められる人材像やそのための育成の方策を明示することは、強いメッセージとなって伝わるはずである。
 ▽各分科会の議論のポイント
 (1)情報処理分科会=産学が求める人材像を共有し、将来を担う若い人材に対してキャリア・パスを提示するとともに、現在整備が進められているカリキュラム標準を各種人材育成ツールの整合化、専門家コミュニティを形成しながら産学の間を高度なIT人材が柔軟かつ流動的に活躍することで能力の一層の向上を図れる環境の実現に取り組んでいく。
 (2)原子力分科会=「原子力人材育成プログラム」の枠を超えた中長期的課題に対応するため、詳細な実態の把握等を検討する場として、「原子力人材育成関係者協議会」を平成十九年度に原子力産業協会に設置した。平成二十年度以降も詳細な実態の把握、他の施策や様々な制度との関係の調査等について取り組む。
 (3)経営・管理人材分科会=平成二十年度は、分野・地域ごとに複数の企業と大学が横断的にコンソーシアムを形成し、産業界のニーズが高いテーマに関する「ミドルレベル以上の経営・管理人材を育成するモデルプログラム」を、若手教員のファカルティ・ディベロップメント等も行いつつ、産学協働で開発する。
 (4)資源分科会=資源開発に関する広範な知識・ノウハウを、フルセットで提供できるようなプログラムやケース教材の開発、中核となる機関を定めるなどによる資源系大学等の連携の推進、海外資源開発現場等でのインターンシッププログラムの開発・実証を行っていく。また、平成二十一年度以降も、海外も含めた外部からの技術者・講師の受入、海外の大学や研究機関等へ若手教員や研究者を派遣、などの検討を進める。
 (5)機械分科会=イノベーションの創出を目指した「産学イノベーションネットワーク」の形成やトレーニングプログラムの確立、就職後の継続的学習体制の整備等の取組の推進を図る。
 (6)材料分科会=基礎教育プログラム開発に着手し、「産学連携プラクティス事業」具体化のためのプログラムを検討する。「拠点化事業」については、材料教育を実施している各機関における特徴を可視化するデータベースを整備しながら特色となる分野や特徴的な拠点運営方法の調査・解析を行い、拠点ネットワーク化することにより、施設・教員等のリソースを有機的に活用することを可能とするなど、「教育プログラム」を効果的に実施するための環境整備に取り組む。
 (7)化学分科会=産学が、大学・大学院で学ぶ基礎学力等が化学企業においていかに重要であるかを伝えるための「企業出張講座」や入社後のキャリアパス等を博士課程の学生に伝えるためのセミナーを実施していく。
 (8)電気・電子分科会=複数企業の技術者や研究者、教育機関の教官、学生等が交流する枠組みの構築や、専攻・業種を超えて学生と企業が交流する場の設置などにより、「産学のコミュニティ形成による知識融合活動」を促進するほか、大学等に企業の技術者・研究者を派遣して行う授業を実施する等、企業連携講座等を充実していく。
 (9)バイオ分科会=(大学教育プログラムワーキンググループ):具体的取組の対象と教育プログラムのコンセプトを明確にするとともに、モデルとなる大学部局に対して企業、行政現場等の講師を派遣するプログラムを検討する。プログラムにはインターンシップやソフトスキルを涵養するための科目を考慮する。(産学交流ワーキンググループ):バイオ企業におけるインターンシップの拡大策を検討する。また、産学交流の拡大を支援するため、モデル的な場として大学生、大学院生、大学教員、企業人を集めるバイオキャンプを企画する。
 なお、「産学人材育成パートナーシップ」の全体会議委員には、日本私立大学協会の大沼 淳会長のほか大学団体三名、日本経団連の柱エ定征副会長のほか二名が、そのほか、分科会代表委員九名、オブザーバーとして、日本学術会議、文科省、経産省からの計四名で構成されている。

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