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平成20年6月 第2320号 (6月18日)

グローバルとローカル結べ
  "連携不要論"も飛び出した第7回産学官連携会議

 第七回を迎える産学官連携推進会議(主催:内閣府、日本経済団体連合会、日本学術会議等)が去る六月十四日、十五日、京都国際会館で開催された。「科学技術による地域イノベーション」をテーマに、野間口有三菱電機取締役会長と米倉誠一郎一橋大学教授を迎えた特別講演や分科会が行われ、関係者四二〇〇名以上が参加した。また、第六回産学官連携功労者表彰の表彰状授与も合わせて行われた。

産学官連携で地域活性化

 「国の経済活力を支えるのは大企業だけではなく、中小企業や地域経済。」
 福田総理は、冒頭でこのようなメッセージを述べた。第一回会議の開催が平成十四年。当時は、大企業と研究系の国立大学が主役といった感もあったが、回を重ね、地域の中小企業の科学技術イノベーションが注目されてきた。
 岸田科学技術政策担当大臣は基調講演の中で、科学技術による地域活性化を目的として、地域の様々な機関が相互作用をして一つの機能的な単位を成す「エコシステム」(生態系)の形成を推進するなどの施策を紹介。地域の産学官連携の強化を訴えた。野間口有三菱電機取締役会長も特別講演の中で、地域活性化は、企業との連携による大学シーズの事業化促進や大学発ベンチャー創出の活性化等の課題の克服が大事であると述べた。
 地域活性というローカルな話題をテーマとする一方で、国際競争力の強化というグローバルな施策も不可欠である。世界的にもイノベーションの創出が重要視される中、日本では第三期科学技術基本計画、イノベーション25のもと研究資金の確保と環境整備が進められているが、施策が必ずしも成果に結びついていないなど課題は多い。岸田大臣と野間口氏が講演の中で、政府・産業界の各立場から「国際競争力強化」を声高に主張するのは、こうした課題から日本の国際競争力が低下することへの危機感があるからだ。野間口氏は、日本経団連が去る五月末に提言した「国際競争力強化に資する課題解決型イノベーションの推進に向けて」の中で、大学等の人材育成強化に触れていることにも言及。修士・博士課程の改革や国際的な人材交流の強化、理科離れ対策などを提言した。元科学技術政策担当大臣の尾身幸次衆議院議員も特別報告の中で、自身が会長を務める自民党国際競争力調査会の国際競争力強化のための施策などを紹介。今後、六月末に発表される政府「骨太の方針」に盛り込んでもらうよう活動していくことなどを述べた。

連携不要?

 ローカルな地域活性化とグローバルな国際競争力の強化は、相反する課題ではない。冒頭に福田総理も述べているが、国の活力は地域の活力の上に成り立っており、国の活力を維持・強化するためには、地域が新規創業やグローバル展開によって生長し、活性化することが必要だからだ。講演後の分科会も、@科学技術による地域イノベーション、A産学官連携のグローバル展開、B国際競争力強化のための知財戦略、C科学技術施策の社会還元加速と設定された。
 Aの分科会では「産学官連携など不要」との意見も。特別講演も務めた米倉誠一郎一橋大学教授は、「参加パネリストには産学官連携にすがろうと思っている人はいない。「そんなものなくてもやるよ」という人を支援することが大事であって、産学官連携ありきではない」と主張する。パネリストには、海外に通用する「本物」のビールを独自に開発した中小企業経営者や、学生時代に起業し当初から世界標準を狙ってきたIT経営者、医工連携の世界展開を行う研究者など“強者(つわもの)”が並んだ。
 米倉教授の「産学官連携不要論」は、全体会場でのパネルディスカッションにも波及。七回目を迎えた同会議は、全体的な話から個別具体の課題とその解決策を議論する場へと深化する必要があるとの意見も出された。
 産学官連携自体は普及してきた。来年度以降の会議では、その深化の方向性が問われ始めている。

私大も健闘の展示ブース

 産学官連携推進会議の目玉の一つは、会議と同時並行で行われている展示ブースである。
 大学や高等専門学校、JST等独立行政法人の研究成果について、担当者が往来する参加者を呼びとめ、デモやパネルを使用して解説する。基本的に国立大学のブースが多い。しかし、広島国際大、高知工科大、大阪産業大など私立大学の存在も目立つ。
 中でも、近畿大は、「完全養殖クロマグロの産業化」の実績が評価され、産学官連携功労者表彰の科学技術政策担当大臣賞を受賞。また、東京理科大は、産学連携により開発した「自立歩行を可能としたアクティブ歩行器『ハートステップ』」が文部科学大臣賞を受賞した。

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