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平成20年5月 第2317号 (5月28日)

研究開発投資の充実を 国際競争力強化にイノベーション不可欠

 去る五月二十三日、福田内閣は、平成二十年版科学技術白書を閣議決定した。同白書は正式には「科学技術の振興に関する年次報告」といい、科学技術基本法に基づき国会に提出する報告書である。本年は、科学技術のイノベーションの大競争時代に、我が国がいかに対応していくべきかを主題として取りまとめられている。概要は次の通り。

 まず、国際競争の激化とイノベーションの必要性について、五つの背景が述べられている。それは、@IT化、グローバル化の進展、A中国、インドをはじめとするBRICs諸国の台頭、B原材料の高騰と技術のコモディティ化、C少子高齢化の進展、D科学技術によるイノベーションの必要性である。
 例えば、@について米国では、研究開発や医療など、多くの知的労働について外国からの人材が活躍し、イノベーション創出に貢献している。Bについて、原油価格や世界の穀物価格の高騰が我が国の経済に大きな影響を与え、また、情報機器、家電において、製品の低価格化・陳腐化(コモディティ化)が進行し、企業の収益等に大きな影響を与えることが想定される。
 次に、諸外国における研究開発システム改革の進展について説明されている。
アメリカでは、競争力優位を確実にするため、研究開発の促進、理数教育の強化を図る包括的なイノベーションの推進を行う「競争力強化法」が成立している。また、中国では、科学技術進歩法が改正されている。これは、科学技術を「第一の生産力」として位置付け、「国家建設」を行う上で、科学技術を優先的に発展させ、経済発展に寄与させることを推進するもの。
 諸外国においては、研究開発費も増加しており、また、世界的な人材獲得競争も活発化している。中国では、科学技術レベルの向上のため、海外で活躍する自国の優秀な研究人材を帰国させるための国外人材呼び戻し政策を積極的に展開している。
 翻って、我が国の科学技術を巡る課題に目を向けると、@研究費においては、我が国の予算額がほぼ横ばいであるのに対して、アジア諸国により急速に追い上げられている、Aサービス産業への科学技術投資は、米国等に比べて圧倒的に低い、B高校生の理数離れ、ものづくり人材の高齢化等が挙げられ、その対策を早急に進めていく必要がある。
 それにはまず、政府研究開発投資の充実が今まで以上に重要となる。第三期科学技術基本計画においては、この計画期間中の総額の規模を約二五兆円とすることが必要であるとしている。
 また、環境問題やサービス・サイエンスなど新たな分野に関する研究開発の振興、国際的に通用する人材の育成・確保が重要になる。それには、大学・大学院の国際競争力の強化が欠かせない。留学生・外国人研究者を惹きつけられる魅力ある研究環境を構築する一方で、逆に我が国の研究人材の海外での活躍、研究成果の海外への発信の強化も大きな課題である。若手研究者の海外経験の機会の提供の拡充に取り組むことが必要である。
 優れた研究者の採用や計画的な人材育成・確保のためには、重要な研究開発を担う研究者等の人件費を確保するほか、若手・女性研究者、外国人等の能力の積極的な活用を行うべきである。また、国のニーズに沿ってスピード感のある研究開発を実施するための弾力的かつ機動的な予算、人材の投入を行う。
 研究資金の効果的活用を図るための措置としては、独立行政法人を通じた複数年契約の実施や、明許繰越の活用を促進するための要件の明確化・周知徹底等の取組を行う、資金制度の運用に係る手続きを改善、競争的資金等の制度間で、資金を使用できる対象等のルールの共通化や研究費の過度の集中の防止、適正な執行チェックの強化などを行う。
 最後に、科学技術の成果の着実な社会還元を行っていくべきと述べている。
 それには、@科学技術の成果還元の障害となる制度的隘路の解消、A大学等の研究成果の社会還元の促進、Bグローバル化に対応する知的財産戦略、C技術経営力強化の取組、D国際標準化への取組の強化、の五つの取組が必要としている。

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