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平成20年4月 第2311号 (4月9日)

「教育振興基本計画」答申案を了承
  最終調整経て閣議決定へ  教育投資等に数値目標記載なし

 中央教育審議会の教育振興基本計画特別部会(三村明夫部会長)は、去る四月二日、文部科学省内の講堂において、第一四回会合を開き、平成二十年度からの一〇年間を通じて目指すべき教育の姿、また、今後五年間に計画的に取り組むべき施策等を定めた「教育振興基本計画」の答申案を審議し、文言修正等を部会長一任として取りまとめた。
今後、同答申は文科大臣に答申された上で、政府内の最終調整を経て四月中にも閣議決定される運びとなる予定。なお、前回までの審議では記載のなかった「目指すべき教育投資の方向」の記述が新たに加わったものの、教育予算等の記載がなく、一部委員からも不満の声が聞かれた。

 同答申案の取りまとめに当っては、施策や財政関連事項について財務省をはじめ他省庁等との調整を行ってきたが、同答申がそのまま閣議決定されるということから、事前の調整が必ずしも十分とは言えない答申案となった。当日は、三村部会長が「当部会での審議は本日で終了し、文言等の修正は一任させていただきたい」と述べ、委員一人ひとりからの意見を聞いた。
 そのうち、第二章の「今後一〇年間を通じて目指すべき教育の姿」における(2)の「目指すべき教育投資の方向」については、前回まで何の記述もなかったものであり、片山善博委員(慶應義塾大学教授・前鳥取県知事)から「財政当局におもねるような書きぶりであり、どんなやり取りが行われたのか明らかにすべきではないか」といった反発の意見も出された。全体的には初等中等教育関連の意見が多く、高等教育関連の意見は少なかった。また、具体的な数値目標等の書き込みがなく、「全体的にインパクトの弱い答申案である」との見方もある。
 答申案では、今後五年間の重点目標として、@道徳教育について、適切な教材が教科書に準じたものとして活用されるよう国庫補助制度の早期創設、A幼児教育推進のため、認定こども園については、早期に認定件数二〇〇〇件以上を目指す、B福田康夫首相が施政方針演説で表明した「留学生三〇万人計画」の実現に向けて、留学生の大幅な増加を目指す、C大規模な地震が発生した際に倒壊又は崩壊の危険性の高い小中学校等施設(約一万棟)について優先的に耐震化を支援すること、などを盛り込んでいる。
 一方、初めて書き加えられた「教育投資の方向」では、「国内総生産(GDP)に占める公財政支出の割合が、OECD諸国平均が五・〇%であるのに対して、我が国は三・五%となっている」とし、「真に必要な投資を行う」と記述されたものの、教育予算を増やすことなどは述べられていない。(別掲参照)
 なお、私学振興については、私学助成の推進として、「教育条件の維持向上、私立学校に在学する幼児から学生までに係る修学上の経済的負担の軽減、私立学校の経営の健全性の向上のため、私学助成を推進する」、学校法人に対する経営支援としては、「学校法人の健全な経営を確保することを目的として、学校法人の自主的な経営改善努力を促すため、経営相談や経営分析を通じた指導・助言などの支援を行う。また、各学校法人が財務情報及び入学者数等の情報を積極的に公開するよう促す」などとの記述にとどまり、目新しさはない。

答申案に初めて記述された 教育投資の方向

 今後一〇年間を通じて以上のような教育の姿の実現を目指すためには、関係者の一層の努力を促すとともに、その教育活動を支える諸条件の整備が求められる。
 現在、我が国の教育に対する公財政支出は、他の教育先進国と比較して低いと指摘されている。例えば、公財政支出のGDP比については、OECD諸国の平均が五・〇%であるのに対して、我が国は三・五%となっている。また、特に就学前段階や高等教育段階では、家計負担を中心とした私費負担が大きい。こうしたデータについては、全人口に占める児童生徒の割合、一般政府総支出や国民負担率、GDPの規模などを勘案する必要があり、単純な比較はできないところであるが、そうした中で現下の様々な教育課題についての国民の声に応え、必要な施策を講じることが求められている。
 学校段階別に見ると、小学校就学前の段階では、近年、先進諸国では幼児教育の重要性を踏まえ、無償化の取組が一部で進められている。幼児教育の無償化については、歳入改革にあわせて財源、制度等の問題を総合的に検討することが課題となっている。
 小学校以降の初等中等教育段階については、多様化・複雑化する教育課題に対応するとともに一人一人の子どもに教職員が向き合う時間を十分に確保しつつ、きめ細かな対応ができる環境を実現するなど、質の高い教育を実現するための条件整備を図る必要がある。
 高等学校及び高等教育段階については、家庭の経済状況にかかわらず、修学の機会が確保されるようにすることが課題となっている。高等教育段階については、知的競争時代において諸外国が大学等に重点投資を行い、優秀な人材を惹きつけようとする中で、教育研究の水準の維持・向上を図り、国際的な競争に伍していくことが課題となっている。
 さらに、学校施設をはじめとする教育施設の耐震化など、誰もが安全・安心な環境で学ぶことのできる条件の整備が大きな課題となっている。
 以上を踏まえ、今後一〇年間を通じて、上述した教育の姿の実現を目指し、必要な予算について財源を確保し、欧米主要国と比べて遜色のない教育水準を確保すべく教育投資の充実を図っていくことが必要である。
 この際、歳出・歳入一体改革と整合性を取り、効率化を徹底し、またメリハリをつけながら、真に必要な投資を行うこととする。
 あわせて、特に高等教育については、世界最高水準の教育研究環境の実現を念頭に置きつつ、教育投資の充実を図るとともに、寄附金や受託研究等の企業等の資金も重要な役割を果たしていることから、その一層の拡充が可能となるよう、税制上の措置の活用を含む環境整備等を進める必要がある。

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