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平成20年3月 第2308号 (3月12日)

地球共生系と地球温暖化

 麻布大学学長 政岡俊夫

 麻布大学は地球共生系という大きな教育研究テーマの中で「人と動物と環境の共生を目指して」をモットーに、生態系と人間社会との接点において生じる諸問題を取り上げ、動物を介して人の健康社会に寄与する分野の教育研究及びこの分野で活躍する人材養成に取り組んでいる。
 本学が教育研究の対象としている分野は、地球上に人類が出現して以来、人は人間社会という偽生態系を形成し、動物は生態系の中で永遠の営みが続けられていて、人間社会と生態系は調和(共生)して存続してきたが、近年この調和に変調の兆しが認められつつある。この徴候を最初に警告した書が、一九六二年に発刊されたSilent Spring(沈黙の春)であり、著者のレイチェル・カーソン女史は、書の中で農薬や殺虫剤に含まれる有害化学物質が動植物や人体に与える影響を世界で初めて告発した。とくに有機塩素系農薬であるDDTなどの生態系に与える影響の深刻さ(生態系の破壊)を社会に警告し、これが契機となって一九七二年にDDTは全面使用禁止となっている。しかし一方では、これらの農薬が一時期飛躍的な食糧増産に寄与したことも事実である。
 また、その約三〇年後の一九九六年にOur Stolen Future(奪われし未来)が刊行され、生命の存続を支えてきた生殖システムの崩壊を警告した。俗に言う環境ホルモン(内分泌攪乱物質)が話題となったことは記憶に新しいが、元凶であるダイオキシンやPCBなどの人体への影響については未だ結論は出ていない。日本は向こう一〇年かけて大規模な疫学調査の実施を決めたばかりである。これらの物質はある時期、人間社会の発展に寄与した物質でもあり、現在でも生態系では食物連鎖により濃縮され、魚介類等に蓄積されつつあり、ごく微量ではあるが人体に今なお取り込まれる恐れのあるものである。最初の警告から三〇年を経てもなお、人間社会が発展するためのエネルギーの副産物が生態系を破壊し、ひいては人間社会に悪影響を与えるという構造が一向に修正されていないことを、我々人類は真剣に考える時期に来ている。また、本書の発行よりわずか一〇年後の一昨年、アル・ゴア元米国副大統領監修によるAn Inconvenient Truth(不都合な真実)という映画が封切られ、地球温暖化が人間社会の爆発的な進展の結果生じているという、ショッキングな事実を見せつけられた。高度に伸展した人間社会の営みは生態系に悪影響を与え、それが人間社会に跳ね返ってくるという、負の連鎖をいかに断ち切るかが今後の人類に課せられた大きな課題であり、また、地球温暖化現象は、これまでとは全く異なる価値観、理念あるいは哲学を、教育や科学及び経済、政治等々に求めてきていると思われ、これらのことに思いを巡らし、次世代を担う人材養成に努めるのが本学の使命であると考えている

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