Home日本私立大学協会私学高等教育研究所教育学術新聞加盟大学専用サイト
教育学術オンライン

平成20年1月 第2300号(1月9日)

年頭所感2008年
  生活者・消費者が主役に

内閣総理大臣 福田康夫

 新年あけましておめでとうございます。
 【日本の底力】
 「日本経済再建の成否は、一にかかって諸君の双肩にあるものであります。」
 ちょうど六〇年前、当時の片山総理大臣は、国民に向かってこう呼びかけました。戦争によってすべてが失われ、焼け跡の中からいかに立ち上がるかという困難な状況の中で、日本国民が持つ底力を信じるほかないという思いが、そこには込められていたのだと思います。
 その思いは、戦後の歩みの中で、大きな実を結びました。日本は、目覚ましい戦後復興を成し遂げ、高度経済成長を経て、世界にも誇る経済大国へと発展しました。経済発展とともに、医療の充実や国民皆保険・皆年金などを目指して安定した社会を作りあげた結果、今や、平均寿命世界一の長寿国となっています。
 一方で、いわゆる団塊の世代が定年退職をはじめた日本の現在は、人口減少社会に突入し、高齢化社会が現実のものとなりつつあります。また、バブル崩壊後、ここ二〇年近く、経済の規模も、国民の所得の水準もほとんど横ばいとなり、長く経済の停滞が続いてきました。そして、このように経済全体が成長しない状況では、誰かの所得が伸びれば、必ず他の誰かの所得が減ってしまうという結果になり、格差という問題が生じてきました。
 しかしながら、このような構造的な問題に直面し、先の見えない閉塞感の中にあっても、日本には、長年培われてきた「ものづくり」の技と心、環境・省エネをはじめとする高い技術力があります。日本は自信を失う必要はありません。私は、持ち前の底力を発揮しさえすれば、日本は必ず新たな飛躍を成し遂げることができる、と信じています。
 【生活者・消費者が主役となる社会】
 高度経済成長が終わり、少子化や高齢化が進展する中で、社会の有り様は大きく変わりました。戦後の焼け跡から生産第一主義で突っ走ってきた時代はすでに終わり、生活の質の向上へと国民の関心が移ってきています。しかしながら、社会保障をはじめとした国民生活を支えるシステムは、戦後作られたものの微修正を繰り返しながら現在に至っているというのが現実です。こうした中で、近年、住宅や食品表示などの偽装問題や、年金記録のずさんな処理など、様々な問題が明らかとなりました。
 政治も行政も、そして企業も、今こそ、生活者や消費者の立場に立つよう、発想の転換が求められていると思います。現在、すべての法律や制度が本当に国民の立場に立っているかどうかという、国民目線の総点検を行っており、できるだけ早期に結論を得たいと考えています。私は、今年を、「生活者・消費者が主役となる社会」へと転換していくスタートの年にします。
 年金記録については、これまでの三、四〇年間にわたる長い間の管理の仕方に様々な問題があり、今般の問題が生じました。そのため、「これをやれば解決」という特効薬的な方策はありません。現在、「ねんきん特別便」の送付を開始して、記録の点検をお願いしておりますが、一つひとつ着実に粘り強く取り組み、全力を尽くしてまいりますので、ご協力をお願いします。同時に、こうした問題の多い年金制度を根本から見直し、受給者や加入者の立場に立って、これ以上ないというくらい確実な制度へと改めます。年金制度のあり方はもとより、医療・介護制度など、国民生活にかかわる重要な諸制度について、安心できるきめ細かな制度づくりを進めるため、今年から、社会保障のあり方について検討する国民会議を開催いたします。労働者、消費者、女性など各界各層の代表にお集まりいただいて、例えば、これまで日本がとってきた社会保障制度、すなわち中福祉中負担のままでよいのか、スウェーデンのような高福祉高負担の方向が望ましいのかなど、広い視野から議論し、多くの国民が納得する制度を考えていただきたいと思います。
 【環境で世界をリード】
 日本には、天然資源は乏しくとも、豊富な人材に裏打ちされた高い技術力があります。とりわけ、環境分野においては、世界最先端の技術を有しています。昭和四十年代や五十年代のオイルショックや深刻な公害問題をバネにしながら、日本は、環境・省エネ分野において世界の研究開発のトップを走り続け、環境にやさしい国づくりを進めてきました。このような、いわば「環境力」は、日本が今後成長していく上で、大きな「強み」であると言えます。
 近年、温暖化をはじめ地球規模での環境問題が顕在化する中で、日本だけでなく、世界各国が協力してこの問題に取り組む必要があります。日本が持つ世界最先端の技術を各国に広めることで世界に貢献し、大きな役割を果たすことができます。
 今年は、いよいよ日本でサミットが開催される年です。環境問題は今年のサミットの大きな議題の一つであることは間違いありません。七夕の日には、北海道の洞爺湖に世界の首脳が集います。北海道の澄んだ空に浮かぶ天の川を見上げながら、このきれいな空を子どもたちに引き継ぐために今私たちに何ができるのか、日本が世界の議論をリードしていきたいと考えています。
 【地域再生】
 長い間の経済の停滞によって、特に地方においては依然厳しい状況にあります。しかし、地方には、自然や伝統などそれぞれの特色があります。まずは、それぞれの地方が、自らの創意工夫によって、その持てる特色を活かすことが、地域再生の第一歩です。国が決めた政策を押し付けるのではなく、地方の自由な取組を後押しする方向へと転換していきます。
 さらに、そうした努力を続けている地方は、域内で農業や中小企業、大学などのネットワークをつくりあげるとともに、それぞれの地方の枠を超えて、他の地方や都市、さらには海外へとつながることで、人や情報が行き交い、販路が拡大し、大きな相乗効果を得ることができるでしょう。今後、地域ブロックごとに全体を統括する専門官を置くなど、地方の枠を超えたネットワークづくりを応援してまいります。
 【国際社会とのつながり】
 日本経済を建て直し、今後さらに成長していくためには、とりわけ海外との「つながり」が重要です。
 日本は、低成長時代で、人口も減少しつつあります。しかし、アジアの周辺諸国は今でも高成長を続け、人口も増えています。日本を「世界に開かれた国」としていくことによって、アジアの活力をとりこみ、日本もともに発展していくことができると考えます。
 わが国は、戦後、貿易立国として発展してきました。今後とも、わが国が発展していくためには、国際社会と協力し、相互依存を深めていかなければなりません。平和で安定して国際社会は、日本にとってかけがえのない財産です。その国際社会に対して日本ができるだけのお手伝いをする必要があります。

Page Top