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平成20年1月 第2300号(1月9日)

企業が学生インターン支援で社会貢献
  損保ジャパン環境財団の"CSOラーニング制度"を聞く

 文部科学省のインターンシップ実施状況調査によれば、平成十八年度で約六六%の大学で実施、五万四三〇人もの学生が体験しており、引き続き増加傾向にある。一方、損保ジャパン環境財団(佐藤正敏理事長)では、CSO(NPOやNGOと同義)への学生インターンシップ支援を通して、社会貢献を行っている。「木を植えるより、木を植える「人」を育てたい」を理念に一九九九年に設立され、以後、このインターンシップの支援を行う「CSOラーニング制度」で三二五名の大学生を輩出してきた。同制度の仕組みや成果について、同財団の北 健治専務理事と(株)損保ジャパンの関 正雄CSR・環境推進室長に話を聞いた。

 ―CSOラーニング制度とはどのようなものでしょうか。
 CSOは、Civil Society Organization(市民社会組織)の略で、一般的なNPO(非営利組織)やNGO(非政府組織)と同義です。
 「CSOラーニング制度」は、大学生や大学院生が、環境問題等に取り組む分野のCSOで長期インターンシップ(約八か月)を支援する制度で、インターンを通して環境問題や市民社会のあり方を考え、より視野の広い社会人として育っていくことを目指しています。また、学生を受け入れるCSOにとってマンパワーの支援の一助となることを目的としています。二〇〇〇年から開始して、これまでに三二五名が卒業しています。
 また、学生にはCSOでの活動時間に応じて奨学金支給を行います。奨学金は損保ジャパン社員のボランティア組織である「損保ジャパンちきゅうくらぶ」からの寄附金を活用しています。この寄附金は、社員有志の給与から毎月一〇〇円以上を天引きし、集めたお金をボランティア活動等に役立てる制度で一九九九年から開始しております。
 ―制度の主な特徴は。
 まず、インターンの期間が長いということ。一般的なインターンは数週間程度で、「お客さん」扱いをすることが多いのですが、ここでは「戦力」として働いてもらいます。それによりCSOの役割、課題を深く理解することが出来ます。また、毎月のインターン生同士の定例会で、お互いの活動体験を報告し合うことで自らの活動を振り返り、気付きを得ると同時に、自分のインターン先以外の活動も知ることが出来ます。
 ―卒業したインターン生たちはどのように成長していますか。
 インターン生募集時に集った学生たちは、「環境問題の勉強はしているが、実際に環境問題に対して何が出来るのか分からない」という学生がほとんどです。CSOの職員の話でも、「環境へのモチベーションは高いが、現場で求められていることや、現場で何が必要なのかを知らない」と口を揃えます。
 学生たちは、八か月のインターンシップの間に、与えられた現場の仕事をこなし、また、それらの仕事を何のためにやっているのか理解していきます。そうした経験を通して、現場でどんな課題があるのかを知り、自分自身の意見を持ち、人前でも物怖じせずに発表できるプレゼンテーション力やコミュニケーション力も身につけていきます。学生を指導されている大学の先生方からも、「積極性とリーダーシップが身についた」といった高い評価もいただいております。
 今後はさらに、インターンシップを通じて、グローバルな視野やものの見方を身に付けていって欲しいと思います。環境問題を初め様々な諸課題はグローバル化していますし、企業活動もグローバルに展開しています。そのような時に、自分の考えを明確に伝えられ、そして、相手が何を考えているのか、発言の背後にある価値観や文化を理解できる人材が求められます。CSOもグローバル化していますから、インターンを通じてそのようなものの見方を養ってもらいたいと思います。
 ―企業への見方も変わってきますか?
 はい。CSOの視点だけではなく、損保ジャパンの社員や当財団の職員との交流から企業の視点、企業とCSOのパートナーシップを学びます。募集時に集まる学生たちは、「企業は環境に悪いことをしている」、「環境対策もイメージ戦略では」という先入観が強いようです。しかし、多くの企業ではグローバル化と資源不足の中で、環境問題を真剣に考えなければ会社が存続できないことを実感しています。また、「企業の社会的責任(CSR:Corporate Social Responsibility)」が注目され、経済と社会と環境を軸とした経営を行う必要も出てきています。こうしたことを、学生たちは社員や職員と話をする中で、自然と分かってくれます。
 ―単位認定されている大学もあるようです。
 関東地区では早稲田大学、明治大学、関西地区では立命館大学、神戸大学等、多くの大学で単位認定をされています ただし、「お手軽なインターン制度」と捉えるのではなく、また、一部の熱心な先生がインターンを勧めるのではなく、大学としてきちんとしたポリシーのもとにカリキュラムを編成し、その中で単位認定を行っていただきたいと思います。例えば、環境というテーマをカリキュラム全体の中で位置づけて、全ての講義の中で環境の視点も組み込んでいく。そうして大学の特徴を出した上で、講義での学びを検証する場として、CSOへのインターンがあるというような…。  国連の「持続可能な開発のための教育(ESD)」も重要だと思います。環境問題という答えのないテーマに対して、様々な知識を横断的に駆使しながら自分なりの答えを出していく訓練も行って欲しいと思います。社会に出てから求められる能力は、まさに課題解決力。自分の頭で考えて答えを出す力を身につけさせて欲しいと思います。もっとも、企業ですら出来ていないことではありますが…。
 ―今後はどのように考えていますか。
 現在、インターン生の募集に対してかなりの応募者があり、全ての学生を受け入れることができません。意欲がある学生が多いのに、受け皿が小さいことが非常に残念です。各地でのCSOや大学の方々とも、制度拡大に向けて協議させていただき、より多くの学生に参加していただければと思います。また、インターン生同士の横のつながりや、卒業生との縦の繋がりを作り、社会を変えていく人材のコミュニティを形成していけたらと思います。

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