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平成19年12月 第2298号(12月19日)

音大と地域が奏でるハーモニー 大阪音楽大の地域連携

大阪音楽大学エクステンション事務部門部門長 山口宏美

 (学)大阪音楽大学(西岡信雄理事長)は一九一五年に、創立者永井幸次氏が「新音楽新歌劇ノ発生地タランコトヲ」と大阪音楽学校を大阪市内に創立、二〇〇五年に九〇周年を迎えた大学、同専攻科、大学院、短期大学部、同専攻科の学生数約一六五〇人の音楽系単科大学である。地域連携活動としては二七年目を迎える「指導者研修」、二二年目を迎える「古今東西音楽考」(大阪府立文化情報センター共催)等がある。他に大阪府高槻市、同羽曳野市でも講座を開講するなど、地域の中で『音楽』を様々なかたちで発信し続けている。このたびは、同大学エクステンション事務部門の山口宏美部門長より寄稿頂いた。

 大阪音楽大学の「ザ・カレッジ・オペラハウス(席数七五六)」が竣工したのが一九八九年。爾来、専属のプロオーケストラと合唱団を持つ大学の講堂として学生が舞台経験を積んでいる。学生オペラ、各種コンサートや卒業演奏、教員や卒業生の研究成果としての演奏会も広く公開。市内外から多くのお客様に来場頂き、二〇〇五年にはオペラ「沈黙」(松村禎三)で文化庁芸術祭大賞を受賞した。
 本稿で話題にする「地域ふれあいコンサート」は、大学の位置する豊中市立第十中学校区の保育所、幼稚園、小学校、中学校の教員と保護者、地域の福祉を担う人々から構成される“十中校区地域教育協議会”と本学が、ザ・カレッジ・オペラハウスを会場に手探りで作ってきたコンサートである。年に一回開催、今年で七回目になり、地域の方々にとても楽しみにして頂けるコンサートに育った。
 二〇〇二年二月十六日、ザ・カレッジ・オペラハウスに三つの小学校(野田小学校、島田小学校、豊島小学校)と第十中学校の校歌が響いた。ザ・カレッジ・オペラハウス合唱団と田原祥一郎教授(当時・テノール)、ピアノは第十中学校校歌の作曲者である鈴木英明教授(当時)。第一回「地域ふれあいコンサート」の開催である。七五〇人の老若男女はオペラハウスの席に着いてどんな気持ちで自分たちの校歌を聴いたのであろうか。この日は、オペラの合唱曲や懐かしのメロディを充分に楽しんで頂いた。演奏者達も普段、直接には交流のなかった地元の子どもたちやお年寄りを含む地域の方々に聴いて頂き、交流できたことをとても嬉しく思ったのである。
 当日のプログラムから挨拶文を抜粋してみる。『十中校区地域教育協議会は「地域ふれあいコンサート」を開催するにあたり運営委員会を設置、検討を行ってまいりました。その中で第一に家庭・地域の活動の中で、子どもたちに感動を与え、心豊かに育つ機会や場を提供すること。第二に地域の人々と交流を深め、地域の人間としての育成を図ること。この二点を念頭に計画をたて、この度、十中校区にありながら足を運ぶことの少ない大阪音楽大学の「ザ・カレッジ・オペラハウス」を、お借りしてのコンサートを開催することにしました。世界的な音楽家も育つ大阪音楽大学ですが、子どもたちや地域の方々もどれほど、ご存知なのでしょうか。「庄内の文化」を代表するものの一つである大阪音楽大学を知っていただきたいと思います。そして、また音楽での感動を堪能していただきたいと考えています。…運営委員一同』『…本学の施設、そして演奏が皆様方のコミュニティー活動に参加・協力させていただけることを大変嬉しく思います。…心から楽しんでいただけることを願っております。この活動が今後益々発展し、“地域のふれあい”の輪が広がっていくことを祈念するとともに…西岡信雄 理事長・学長(当時)』
 「地域ふれあいコンサート」スタートの経緯
 完全学校週五日制の実施に伴い、豊中市教育委員会は中央教育審議会の答申を受けて、子供たちをより安全に健やかに育てるため、二〇〇〇年度から二〇〇二年度の三年間で豊中市の全十八中学校区に「地域教育協議会」を設置した。この事業は学校・家庭・地域の三者による相互連携の充実を図りながら、学校教育や地域における諸活動を活性化させるとともに、豊かな人間関係づくりを通して、子どもに「生きる力」を育むことを目的としたものである(豊中教育ネットワーク パンフレットより)。このことは大阪府教育委員会のすすめる「地域教育協議会(すこやかネット)」の設置ともリンクしている。二〇〇〇年度より活動を始めた“十中校区地域教育協議会(以下協議会)”は豊中市教育委員会から補助(のちに委託金)を受け、地域全体で子どもたちを育て、地域の人々の交流の場として音楽を楽しむための活動を計画した。
 コンサートの準備と運営
 内容については、毎年プログラムや舞台進行について様々な意見が出され、集約はなかなか大変である。みんなあれもこれも聴きたい、歌いたいで、協議会と大学との打ち合わせでは、時間をかけてみなさんに喜んでいただけるコンサートづくりを目指している。
 また協議会は、大学にまかせきるのではなく、地域の人々が企画、広報、チケットの配分などの準備と、当日の運営をしている。特にチケットについては参加希望者が多く、毎年満席になるため、配分について心配りをして頂いている。
 会場内外の整理、コーヒーやケーキの用意なども担当。来場者の自転車整理は第十中学校サッカー部の生徒が受け持ってくれている。大学側は舞台と演奏者を準備し、来場者の「心に届く」音楽を聴いて頂くことに力を注ぐ。
 大学の中では
 スタート時から教員、卒業生、在学生が積極的に参加、演奏し、喜びを分かち合っている。この協力により、広い分野の演奏を届けている。実施はエクステンション・センターとオペラハウスのスタッフが担当してきた。開演前のロビーコンサートでは、学生たちが演奏だけでなく、直接子どもたちと会話しながら楽器のことを知ってもらうための場面も見られる。こうした経験の中で学生たちは聴いて頂き、知って頂くために様々な工夫を重ねている。
 活動資金
 本学は大阪音楽大学音楽文化振興財団を持ち、地域音楽文化振興のための支出が認められている。例えば市立豊中病院でのロビーコンサートや小中学校の音楽鑑賞会などの実施に助成をしている。また前述した豊中市教育委員会の予算は初年次〜二年次に五〇万円が支出され、この予算の一部を使ってコンサートが立ち上げられた。三年次以降助成は減額されるが、協議会では活動を継続しながら資金問題に取り組んできた。今では協議会のメンバーである小・中学校のPTA、社会福祉委員会などが「地域ふれあいコンサート」のための賛助金を予算化するまでになっている。また、ロビーでお茶やケーキを楽しむことでの売り上げや、カンパもコンサートを支える大きな力になっている。これらは地域の方々がこのコンサートを“地域と大学が協同して子どもやお年寄りを巻き込んだ年中行事”として認め、定着してきたことを物語っている。
 これまでの内容
 第二〜六回 吹奏楽、箏合奏、打楽器、木管アンサンブル、独唱、ミュージカル、ピアノ独奏、ジャズバンド、弦楽四重奏、フルートアンサンブル。この間、第十中学校生徒のトーンチャイム、島田小学校児童・PTAの合唱、第十中学校吹奏楽部が参加している。
 第七回の今年は十二月二日に開催。ロビーではヴォーカル・アンサンブルでお迎えし、オープニングは恒例の第十中学校吹奏楽部が「ハネウマライダー」など三曲を元気いっぱい演奏した。そして学生と教員、卒業生による歌声と打楽器アンサンブルを楽しんだ。
 締めくくりは、毎回舞台と会場が一体となった大合唱と決まっている。今年はリクエストにより「さとうきび畑」「涙そうそう」をみんなで歌った。夏からリハーサルを重ね、地域からの要望にも応えようとしてきた学生たちは、自分の音楽を磨くだけでなく、楽しんで頂くためには何をすればよいのかを一人ひとりが考えるようになっていく。
 今後
 大阪音楽大学では様々な活動を通して地域に『音楽』を発信し続け、また地域の方々と交流を持ってきた。二〇〇六年度からは豊中市教育委員会との連携協力により『サウンドスクール事業』がスタートしている。まず市立の四一小学校と十八中学校を対象に「音楽溢れる学校づくり」を目指し、将来は音楽溢れる街・豊中へとつなげていきたいとしている。小・中学校へ学生たち(時には教員や卒業生)が出掛け、演奏や指導を行うもので、この活動により学生たちも大きく育つチャンスをいただいている。
 ご紹介した「地域ふれあいコンサート」も含めた多種多様な活動を通して、本学も地域の一員であることを忘れず、認めて頂きながら、今後も学生たちを育て、『心に届く音楽』を発信し続けていけることを願うものである。

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