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平成19年11月 第2296号(11月21日)

"地域共創"の研究協議会開く 106大学から136名が出席

元国務大臣内閣府特命担当大臣(地域再生担当等)
村上誠一郎が『日本再生』の基調講演

 日本私立大学協会(大沼 淳会長)は、去る十一月六日、東京・市ヶ谷のアルカディア市ヶ谷において、加盟一〇六大学から一三六名が出席して“地域共創”に関する研究協議会を開催した。研究協議では、「日本再生のための喫緊の課題」をテーマに元国務大臣内閣府特命担当大臣(地域再生担当等)の村上誠一郎衆議院議員の基調講演、また、「国公私を通じた大学教育改革支援と大学の地域貢献」と題する文部科学省高等教育局大学振興課の井上卓己大学改革推進室長の講演のほか、美作大学、東北福祉大学からの事例発表、さらに、「我が国の高等教育政策のトレンドと私立大学の地域貢献を考える」と題して、少子化時代の経営戦略の視点から文部科学省の芦立 訓私学助成課長が講演した。

 開会に先立ち、同協会の小出秀文事務局長は「この研究協議会も三年目に入る。本協会の加盟三七六大学は、北は北海道から南は沖縄まで、それぞれの地域の振興のため、自治体・産業界・社会教育施設等との連携によって、新しい展開を企図して奮闘している。これらの地道な努力が大きな流れとなり、“骨太の方針二〇〇七”にも地域の大学の充実が提言され、平成二十年度の文部科学省の予算として『戦略的大学連携支援事業』に五〇億円を要望することになった。地方の大学にも光を当ててもらうことを大いに期待している」などと趣旨説明を述べるとともに挨拶した。
 研究協議に入り、始めに村上衆議院議員が「日本再生のための喫緊の課題」と題して基調講演を行った。
 同氏は、小泉内閣で国務大臣(行政改革・構造改革特区・地域再生担当)として推進してきた政策等について、種々の資料を掲示しながら、財政・教育・外交の立て直し、地域活性化政策、テレビ亡国論、小選挙区制の弊害と小泉・安倍内閣の総括等、日本の課題を語った。その上で、日本が元気になるための地域再生について、@省庁横断的な交付金の創設(タテ割補助金の一元化など)、A補助対象施設の転用の円滑化(補助金で整備した施設を他の目的に転用する手続きの簡素化など)、B税制上の優遇措置(地域再生に役立つ事業を行う民間企業の出資に対する優遇措置など)といった地域再生法(二〇〇五年成立)の三本柱を中心に解説した。締めくくりに、地域活性化の五つの視点として、知恵・担い手・資源・交流・基盤を挙げ、特に今後は、これらの視点に沿った人材育成が大事であるとして、その面でも大学に大いに期待したいと述べた。
 次に、井上大学改革推進室長から「国公私を通じた大学教育改革支援と大学の地域貢献」と題する講演が行われた。
 同氏は、大学改革の経緯と現状を述べる中で、平成十七年一月の中央教育審議会答申「我が国の高等教育の将来像」に、新しい時代にふさわしい大学の役割として生涯学習機能や地域社会・経済社会との連携の重要性が織り込まれており、地域社会からも大学の地域貢献が期待されているなどと語った。そして、大学が地域にもたらす効果として、@社会・文化への効果(地域への専門知識の提供、地域社会を担う人材養成、公開講座の提供等)、A地域経済への効果(社会人の再教育、企業との産学連携等)、B直接的な効果(雇用の創出、学生等の消費)などを例示した。
 また、平成二十年度の予算として新規に「戦略的大学連携支援事業」(五〇億円)を要望しており、事業内容として、大学連携による共通・専門教育の先進的プログラム開発(複数大学の共同による学位授与、連合大学院等)、地域の教育研究資源の結集による知の拠点としての機能強化(産学官連携、豊富な生涯学習教育の提供、国際交流など)、大学間の連携による効率的かつ効果的な大学運営(事務局機能の強化)など、「広域型」「地元密着型」「教育研究高度化型」等の連携に対し、今後五年間で二〇〇件程度の取組を三年間継続しての支援を構想していることなども解説した。
 引き続く事例発表では、始めに美作大学の目瀬守男学長が、「美作大学の地域貢献」と題して、大学・短期大学合わせて学生数一三三七名の小さな同大学が、岡山市から北へ六〇ワ離れた津山市の美作地域をフィールドに展開する地域貢献について説明した。
 同大学の理念・目的には「創造的で自立した人間の育成」「人間性豊かな専門的職業人の育成」と「地域社会の発展・文化の進展に寄与すること」の三つの大きな柱が定められており、立地条件からも必然的に地域との関係は強い。
 まず、教員による地域貢献では、教育・文化・スポーツをはじめ、産業の振興・活性化、まちづくり等で果たす役割は大きく、同大学は都市機能の重要な一翼を担っている。一方、学生による地域貢献は主にボランティア活動である。その代表的なものは、@福祉施設訪問、A児童相談所へのメンタルフレンド、B放課後の学童保育への出向、C歴史的行事、イベント参加などがある。
 同氏は、大学が地域社会と補完関係を保ちながら大学運営をしていくことこそ大学自らを“地域と共に創る”ことになると述べ、その意味で地域社会に積極的に貢献していかなければならないと力説した。
 そのほか、過去一〇年間を振り返っての地域貢献活動の具体例を紹介し、最後に、「地域貢献支援基金」(仮称)の創設を望みたいと添えて発表を終えた。
 次に、東北福祉大学感性福祉研究所の阿部四郎副所長が、「大学と地域の間―歴史の目、比較の目」と題して、産学官連携に関わる日米それぞれの動向や施策の歴史的流れを追うとともに、日米を中心とする諸外国の動向や施策の比較では@テクノポリスの衝撃、Aシリコンバレー・モデルの解釈変遷、Bクラスター・フィーバー、C大学発ベンチャーの功罪、D比較の教訓について学術的な見地から解説した。その上で、東北福祉大学の産学官連携の全体像を示す中で、同大学の感性福祉研究所(一九九八年設立)の地域連携及び地域貢献を紹介した。開所からの五年間の第一期学術フロンティア推進事業として、生命科学を基礎とする感性と環境の相互作用に関する学際的研究、その後の五年間の第二期学術フロンティア推進事業として、五感を介する刺激測定に基づく健康向上のための人間環境システムの構築など大学関連施設のほか、仙台ウェルネスコンソーシアム、日本感性福祉学会、認知症介護研究研修センター等、多くの福祉施設との連携と地域活動について説明した。
 発表の最後に、同氏は、「大学と地域」の関係は、戦略的利益の相補から挑戦のシナジーへと発展していかなければならないと結んだ。
 日程の最後に登壇した芦立私学助成課長は、「我が国の高等教育政策のトレンドと私立大学の地域貢献を考える〜少子化時代の経営戦略〜」と題して熱のこもった講演をした。
 同氏は、まず、政府の“骨太の方針二〇〇六”に触れて、私学助成予算が対前年度予算一%減とされているものの、科学研究費補助金等の競争的資金の増額や「地域の知の拠点活性化プログラム」のスタートなどにも目を向ければ、必ずしもマイナスの風ばかり吹いているとは言えない、地域の知恵袋・知の拠点として、大学には大きな期待が寄せられているなどと解説した。そして、社会の期待に適切に応えていくためには、多様化、機能分化の流れの中でそれぞれの大学が存在感を示していただきたいと強調した。その上で、社会の期待に応じた継続的な運営に向けた今後の大学経営の課題として、@機能分化・多様化時代に向けた取り組みの強化、A経営の健全性・安定性の確保、B社会的・経済的一般ルールに対する配慮の三つを挙げた。

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