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平成19年10月 第2293号(10月24日)

大学教務部課長相当者研修会を開催 242大学・421名が熱心に研修

「教育力」テーマに講演・事例報告・ディスカッションなど

 日本私立大学協会(大沼 淳会長)は、去る十月十七日から十九日まで、名古屋市のメルパルク名古屋において、平成十九年度(通算第四五回)大学教務部課長相当者研修会を開催した。同研修会は、大学教務研究委員会(担当理事:小出忠孝愛知学院大学学院長・学長、委員長:橋本弘一帝塚山大学特別顧問・理事)が準備を進めてきたもので、大学教育・研究の充実に関する共同研究を行い、大学教務の業務改善及び資質向上を図るもので、加盟三七六大学から二四二大学四二一名が参加して、熱心に研修が行われた。

 このたびは、昨年度に引き続き四年目となる「大学教育力の強化」をテーマとし、特に中央教育審議会で審議されている学士課程教育の再構築等について話し合われた。また、平成二十年度より義務化されるFD(ファカルティ・ディベロップメント)具体事例についての発表やパネルディスカッションがあった。
 同協会の小出秀文事務局長、小出忠孝担当理事の挨拶の後、研修・協議に移った。はじめに、「私立大学を取り巻く諸情勢と今日的課題―新たな大学像、機能分化を考える」と題した小出事務局長の解説、「大学教務に関わる諸課題と大学教務部課長相当者研修会の研修目標について」と題した橋本委員長の解説がそれぞれ行われ、政府の教育再生会議や中教審における高等教育改革の審議動向、科学研究費補助金の仕組みなどについて報告された。
 一日目の最後は、記念講演として「学士課程教育の再構築に向けて―カリキュラム、学士課程総体の目標と内容、そしてFD、SD―」と題した寺ア昌男立教学院本部調査役の講演があった。寺ア氏は、アメリカの事例を紹介しながら、社会の諸課題をカリキュラムに落とし込むことがFDそのものであると述べた。また、カリキュラムは、建学の精神に基づいた学習の目標と、学生を中心とした授業科目を定め、学生が科目をどのような順序で学んでいくかという視点から作っていく必要があると主張した。また、SDとしては、大学とは何かを知り、大学政策・大学組織・各大学それぞれのアイデンティティへの理解を含めた「大学リテラシー」を職員が学ぶことが重要であると述べた。
 二日目は、中村尚五副委員長の趣旨説明の後、「学士課程教育の再構築と大学改革を巡る政策動向」と題して、鈴木敏之文部科学省高等教育局高等教育企画課高等教育政策室長から講演があった。鈴木氏は、教育再生会議や中教審など、政府で検討されている高等教育政策について紹介、大学改革については様々な会議で議論されているが、共通するキーワードは、「国際化」と「流動性」であると述べた。最後に、「それぞれの大学は、文科省が出している政策や事業について、一律に全部やるのではなく、様々なオプションから、建学の精神に則った個性を出していって欲しい。情報アンテナを張って、情報を取っていく努力を」と語った。
 続いて、「学生の変化と組織的なFD活動の取り組み」と題して、原 清治佛教大学教育学部教育学科教授から講演があった。原教授は、授業評価の意味やとらえ方についてふれ、「教員にどうフィードバックするかは重要なポイント。ランキングや実名の公表は、下手をすると、『君たちに私の授業の価値など分からない』と、学生に対して批判的になったり、非協力的になる教員が出てくる」と、その課題について解説した。また、FDについても、どうしても動かない“深海魚”のような教員も必ず二割はいることなど、様々な抵抗勢力も覚悟しなければならない。更に、大学コンソーシアム京都における調査結果でも、FD活動の沈滞感と一部教員の個人的負担感が見られると述べた。最後に、組織的なFDとして、同大学の携帯電話の掲示板を利用して学生の参加を促し、授業改善を図った手法を紹介した。
 続いて、「学生の潜在的主体性の引き出し方〜学生参加型教育改善と一五〇人ゼミ〜」と題して、橋本勝岡山大学教育開発センター教授から講演があった。
 橋本氏は、一五〇人で行う多人数ゼミの手法を確立、「橋本メソッド」として知られている。まずは、三〜四人のチームに分け、提示されたテーマ群の中から自分たちの興味や関心を中心に取り組むテーマを選択。エントリーされたレジュメ案から橋本氏が選抜した二チームが発表を行う。単なるグループ学習と異なるのは、調査研究をしても発表できないこともあるという点。二チームの勝敗も決定するため、競争原理によりレベルアップするとともに、相互に学び合い、自己の再発見や相互集団教育力に結びつくという。
 橋本氏は、FDについて、「岡山大学がたどり着いた結論は、FDは教員だけでは限界があるということ。教員だけが努力しても学生が変わらなければ実効性に乏しいし、学生の発想の方がより的を射ている場合がある」と述べ、学生・教員FD検討会(現学生・教職員教育改善委員会)をスタートさせた経緯とともに、具体的な成果としては、シラバスの改善や学生発案授業、授業評価アンケートの再検討等を紹介した。
 「実践を通じた人材育成の取り組み〜広島経済大学『興動館プログラム』」と題して、友松 修広島経済大学興動館課長補佐より講演があった。同大学では、日本の社会科学系の教育が、社会が期待する人材を充分に育成していないことから、新たに効果的なプログラムについて検討、目指す人材像を「ゼロから立ち上げる興動人」として、「興動館教育プログラム」の導入を決定した。興動館では、単なる知識の教授だけではなく、「経験する場」や「実践する場を提供する」ため、@少人数、A双方向授業、B体や手を動かす、Cフィールドワーク重視、D発表重視の教育方針を定めている。その他、学生の「人間力」を引き出すための様々な支援体制を紹介したのち、友松氏は、「学生と共にボランティアや地域貢献をすると、職員の人間力も鍛えられる。また、最近の学生は一概に無気力とは言えない。内に秘めたものをいかに引き出すかが大事だ」と述べた。
 友松氏の講演後、午後から最終日の午前には、学問分野別の班別研修が行われ、各論の議論が行われた。
 最後には、パネルディスカッション「教員と職員の協働と教務系職員の新たな課題」が行われた。パネリストには、池田輝政名城大学副学長・大学教育開発センター長、山本眞一広島大学高等教育研究開発センター長・教授、古矢鉄矢同委員・北里大学事務副本部長・学長室長が務め、パネリスト兼コーディネーターに福島一政同副委員長・日本福祉大学理事・学長補佐・事務局長が務めた。パネリストは、それぞれ、「プロフェッショナル人材像の明確化と人材育成の環境づくりが学会と現場と政策に求められる(池田氏)」、「プロフェッショナル経営人材を養成するためには、職務内容に応じた、教員・職員の協働・分担関係の再設計や各種能力開発の制度と実践の拡大が重要である(山本氏)」、「大学経営人材は、教育・学習・研究を支援し、政策形成に関与し、大学の個性を際立たせる人材である。そのためにまずやるべきは、「できません」の代わりに、「考えてみましょう」「やってみましょう」と言う事だ(古矢氏)」、「プロフェッショナルな大学職員に求められるのは、コミュニケーション能力や戦略的プランニングの手法、政策を実現するマネジメント、新たな価値創造、複数業務領域での知見、信頼される人格と教養、使命感と勇気だ(福島氏)」などとまとめ、それぞれ職員のプロフェッショナル像を語った。また、フロアとの質疑応答では、職員は専門性を高める努力は必要であること、大学ごとにプロフェッショナルとは何かを定義するべき、という意見も出された。
 最後に、橋本委員長からの閉会の挨拶があり、全日程を終了した。

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