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平成19年10月 第2292号(10月17日)

教育・研究充実の研究会開催 主催=財団法人私学研修福祉会

「変革期にある日本の私立大学」テーマに協議

 (財)私学研修福祉会(廣川利男理事長、東京電機大学学園長)主催の第三〇回私立大学の教育・研究充実に関する研究会(大学の部)が「変革期にある日本の私立大学」をテーマに去る十月十五日、十六日の両日、東京・市ヶ谷のアルカディア市ヶ谷を会場に開催された。同研究会には一四七校の私立大学から、学長・学部長、学校法人の理事長等一九四名が参加し、「高等教育改革の現状と課題」と題する講演やシンポジウム、「学校法人の活性化・再生」に係る基調講演や基調報告、グループディスカッションなどが行われた。

 第一日目の開会にあたり廣川理事長は「構造改革という市場原理のもとで、私立大学の基盤的経費は削減され、競争的資金にシフトされつつある。そして、地域間格差がますます広がるなど、私立大学の前途に暗い影を落としている。二年前に発足した私学事業団の「学校法人活性化・再生研究会」が、先ごろ最終報告を取りまとめた。一方、中央教育審議会においては、グローバル化の中での学士課程教育の再構築の審議経過報告を発表している。今まさに、私立大学は変革期を迎えていると言える。この研究会がご参加の大学にとって大いに意義のあるものとなるように願っています」との期待を込めて挨拶した。
 また、佐伯弘治同研究会運営委員長(国士舘大学理事長、流通経済大学学園長)からは「大変厳しい状況だが、どう生き残るか、私学人に課せられた大きな課題であり、皆さんと共に考えたい」と挨拶した。
 講演に入り、天野郁夫東京大学名誉教授が「高等教育改革の現状と課題」と題して解説した。
 同氏は、有識者会議による大学改革論議が活発に行われ、教育再生会議での議論は、初等中等教育についての内容が多く、高等教育については不十分であること。さらに学部・学科・講座等の枠の廃止や専門教育、専門職大学院制度の登場など、大学の内部で起きているさまざまな問題を真剣に考えることが大切であること。一方、高等学校教育は多様化し、大学の入学者選抜は、高等学校段階での未履修科目や学力判定の必要性など多くの課題が山積していること。また、一八歳人口の変動、全入化とユニバーサル化の現状などの問題点を解説した。
 最後に大学教育の再生に向けてとして、中教審大学分科会制度・教育部会での「学士課程教育の再構築に向けて」に触れ、学士課程教育は、学部の違いを越えて、四年間の学部教育をトータルに大学全体としてとらえる考えであること。そして、研究重視の傾向は日本の大学全体にとって望ましいことではなく、大学の役割は何と言っても教育であることなどを述べた。
 一日目の午後に開かれたシンポジウムでは、前半に、京都産業大学学長の坂井東洋男氏、桜美林大学理事長・学長の佐藤東洋士氏、早稲田大学名誉教授・前芝浦工業大学理事長の藤田幸男氏が、「変換期にある日本の私立大学―その使命と役割について―」というテーマに沿ってそれぞれ講演した。
 始めに、坂井氏が「京都産業大学におけるトップマネジメント―教員評価制度導入と絡めて―」と題し、関心を集める教員評価制度導入など、同大学の改革の内容を発表した。
 グランドデザイン策定の段階から教職協働、全学から意見を集めて取り組むという方針のもとに、数々の改革の端緒となったことを示した。また、教員評価制度導入については、当初はFDの一貫との考えだったが、二十一年度より処遇に反映させることにした実情を交えて語った。
 続いて、佐藤氏が「桜美林大学の使命と再編」と題した発表を行った。
 大学の使命を再確認するために、ミッションステートメントを確立し、大学再編に着手するに当たり、教育目標に沿った制度の改革を行い、学習区分制度、GPA制度、多様な専攻コース、アカデミック・アドバイザー制度、早期卒業制度、などの取組を紹介した。さらに、近年の中教審の審議内容を受けて学群制を導入、機能を明確化した大枠を設定して、プロフェッショナルアーツ系とリベラルアーツ系、その他へと学部・学科を移行し、社会のニーズを踏まえた教育課程の提供、職業人養成が可能となったことを説明した。
 藤田氏からは、「変革期にある日本の私立大学」と題して、私立大学が生き残るためにはどうしたらよいのか、といったことを一般的な視点から述べた。
 私立大学の社会的使命は、建学の精神に基づく大学文化の伝承にあること、教養ある人間を育成するためリベラルアーツ教育の再認識が必要であり、宗教教育を基とした人間教育が可能なのも私立大学の強みであると述べた。
 終わりに、教員一人ひとりが変わらなければ組織としての大学も変わらないのだと、教員に求められる“正師”としての姿について語り締め括った。
 シンポジウム後半は、任期制の導入について、教員評価制の導入、教職共働について職員と教員の給与体系はどうか、ガバナンス改革について、など多く寄せられた質疑、また、会場からの質問に対して、三氏がそれぞれ意見を述べた。
 第二日目の午前は、はじめに清成忠男(学)法政大学学事顧問から、同氏が会長を務めた学校法人活性化・再生研究会の審議内容や学校基本調査等を背景に「学校法人の活性化・再生」と題しての基調講演が行われた。
 同氏は、学生の大都市集中や国土構造の変化などの状況を述べた上で、大学法人の経営状態の悪化について、帰属収支差額比率の変化(減少)を指摘した。さらに経営悪化のプロセスについて、定員割れに伴う収入減→コスト削減の限界→資金ショート→キャッシュフローがストック(資産)をオーバーの流れを示し、収入増へ向けた@教育対象・教育方法の多様化、A事業内容の刷新、B新しい教育ニーズの把握や教育方法の開発等の教学改革が欠かせないと語った。また、大学間連携や他機関との連携、地域ぐるみの連携などの試みの必要性も強調した。
 最後に、法人と教学組織が危機意識を共有し、余力のあるうちに対応することが肝要であると結んだ。
 次に、日本私立学校振興・共済事業団の西井泰彦私学経営相談センター長が「イエローゾーンとチェックリスト」―再生研究会報告と私立大学の経営環境―と題する基調報告を行った。
 同氏は、まず、イエローゾーンとは「学校法人自身が経営改革努力を行うことにより、経営改善が可能な状態」、レッドゾーンとは「過大な債務を抱えている等の理由で、自力での再生が困難になった状態」であるとの定義を示した上で、特に再生可能なイエローゾーンの学校法人に対する対応策について、@経営改善計画の作成を指導・助言、A私学事業団の積極的な指導・助言の実施、B融資と連動した効果的な指導・助言、C補助金による経営改善への支援、D運営調査委員制度の活用、E経営者の責任、F早期決断(募集停止など)、G再生を支援するための諸方策、などを挙げた。
 最後に、環境変化への認識と対応、先導と協働の必要性、大学改革と経営革新、私学の存在意義の再確認など、厳しい時代における私立学校への期待を語って報告を終えた。
 午後からは、「大学全入時代と規制緩和」、「法人の経営権と教援会自治の現状」、「学生のための大学づくり」のグループに分かれてのディスカッションが行われて全日程を終了した。

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