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平成19年10月 第2291号(10月10日)

学士課程教育の再構築に向けて

   おわりに 〜改革の加速に向けた社会全体の支援を〜

 ○本委員会では、改革の具体的方策として、「大学の取組」、「国による支援・取組」について述べてきた。社会からの信頼に応え、国際通用性を備えた学士課程教育の構築に向けて、これらの方策が確実に実行されることを期待する。そのためには、「国による支援・取組」の中で触れたとおり、適切な財政措置をはじめとする多角的支援の充実が欠かせない。
 ○財政措置に関し、本文においては、各種の機関補助を念頭に置いて記述を行っている。大学改革を推進していく上で、各機関の自主性・自律性を尊重しつつ継続的・安定的な支援をすること、各大学の努力の成果である優れた取組を重点的に支援すること、管理運営の在り方の見直しを促進すること等が重要であり、そうした観点から、機関補助は有効な政策手段である。
 ○一方で、主として教育の機会均等の観点から、個人補助も重要な役割を持つ。我が国の高等教育については、OECD諸国と比較して、私費負担の割合が極めて高い水準にある。デフレ基調の中にあっても授業料が一貫して上昇してきたこと等を背景に、教育費に関する保護者の負担感は強まっている。
 「大学全入」時代と言われ、進学率は五〇%を既に超えているが、その一方、大学教育を受ける能力・適性を十分に備えた者が、経済的な理由によって、進学や学業の継続を断念せざるを得ない事例が存することを看過すべきでない。
 このため、こうした事態を生じさせないようにする観点から無利子及び有利子奨学金の充実に努めることが必要である。さらに、経済的に恵まれない優秀な学生に対し、合理的・客観的な基準により授業料減免等の措置が広く講じられるような手立てを望みたい。
 ○我が国の大学は、多くの場合、授業料に依存し、外部からの寄附の比重が少ない。大学自らが、教育基本法の理念の下、社会の発展に寄与する存在として、一層の説明責任を果たしていく必要があるが、同時に、我が国社会全体として「寄附の文化」を育てていくことが重要な課題である。そのための誘導策として、大学に対する企業や個人からの寄附を優遇する税制上の措置などを積極的に講じていくことを期待したい。
 ○大学から社会へと連なる階梯を設計していく上で、学士課程教育と産業界との関係は益々密なものとなっていく。本文では、「学習成果」の明確化、キャリア教育やインターンシップなどに関連して、随所で産業界との連携の必要性について言及した。大学では、就職・採用活動のルールについて、教職員はもとより学生に対しても引き続き、周知徹底する必要があるが、学士課程教育の再構築に向けて、まずもって協力をお願いしたいことは、採用活動の早期化の問題の是正である。
 最近では通年採用の動きも広がりつつあるものの、新卒一括採用の慣行は、多くの学生にとって依然として大きな影響力を持っており、現に問題点として指摘する声が大きい。
 近年では、採用内定者への入社前研修も目立つようになっており、修業に向けて学生の学習環境を確保することが益々困難になっている。中央教育審議会は、過去にも新卒一括採用の見直しを提言してきたが、今日、学士課程において、社会人としての基礎力を育成する意義・必要性に関し、広範な共通理解が形成されつつある中、また、九月入学を促進していこうという機運が生じている中、産業界に対し、大胆な見直しを改めて強く期待したい。
 ○本報告の後、学士課程教育の在り方について、審議を行うことが望まれる重要課題としては、例えば以下のようなものが考えられる。本委員会としては、制度・教育部会等での本報告に関する検討を経た上で、付託された課題に関し、審議を進めていく予定である。
 ・分野横断的な「学士力(仮称)」の在り方
 ・分野別の教育の質保証の在り方
 ・機能別分化の観点に立った教育の在り方
 ・高等学校との接続の改善方策
 ・教育・学習支援に関する大学教員の専門性の在り方
 ・質保証システムの具体的な在り方
 ・短期大学教育の在り方
 ・大学院教育との接続の在り方
 ・大学団体の果たす役割とこれに対する支援の在り方

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