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平成19年10月 第2291号(10月10日)

学士課程教育の再構築に向けて

  第三節 高等教育との接続

(1)入学者選抜
 (「大学全入」と入学者選抜の状況)
 ○少子化と大学の入学者定員の拡大が進行することに伴い、大学・短期大学の志願者の殆どが入学できる状態になってきている。このことを形容する「大学全入」という言葉は、大学進学の需給関係の変化を象徴している。入学をめぐって激しい競争が行われる選抜性の高い大学が一部に存在する一方で、私立大学の約四割(平成十九(二〇〇七)年度)は入学定員を充足できず、また、合格率が九〇%以上という、殆ど「全入」に近い大学も一〇〇校余りに至っている。このように、大学の入学者確保をめぐる状況は、大学間で二極化する様相を示しつつも、総じて大学への入学が容易となってきている。
 ○これまでの大学入試は、高等学校での「学習成果」や、大学で教育を受けるために必要な学力水準を評価・判定するものというよりは、入学者を選抜することが中心的な機能であった。過度の受験競争は、知識の詰め込みを助長するものであり、自ら学び、自ら考える力などの「生きる力」を育むことを妨げるおそれがあるという問題がある一方、大学進学をめぐる競争が、入学者全体の学力水準を維持・向上させ、高等学校教育の質の保証や高等教育の「入口」の質を保証する機能を一定程度果たしてきたことは否定できない。しかし、「大学全入」時代においては、多くの大学について、大学入試の選抜機能が低下し、入学者の学力水準が十分に担保されない状態となりつつある。これは、我が国の大学制度が成立して以来、初めて生ずる状況であり、入学者選抜の在り方の見直しを避けては、学士課程教育の質の維持・向上は期しえない。
 (選抜方法の多様化の経緯と現況)
 ○従来、入学者選抜については、中央教育審議会として、過度の受験競争を緩和する観点から、選抜方法の多様化や評価尺度の多元化、受験機会の複数化などについて提言を行ってきた。これを受け、各大学においては、学力検査だけでなく、面接、小論文、リスニングテストを実施したり、推薦入試、帰国子女や社会人、専門高校・総合学科卒業生を対象とした特別選抜を採用したりするなど、多年にわたって様々な取組を進めてきた。
 一方、文系志望、理系志望がそれぞれ理系科目、文系科目を十分学ぼうとせず、学習の幅が狭く、偏ってしまう懸念が指摘されている。こうした観点から、できるだけ募集単位を大くくり化することが望まれるが、これは、学部・学科の縦割りの壁をどのように打破していくか等、学士課程教育の改革と連動して実現される課題である。
 ○受験競争をめぐる現状認識に関して、平成十二(二〇〇〇)年度の大学審議会答申「大学入試の改善について」では、「一八歳人口の減少や推薦入学の増加等により、相当数の者にとって大学入試が過度の競争ではなくなりつつある中で、高等学校教育と大学教育との円滑な接続をどう図っていくかが重要な課題」という認識を示している。また、選抜方法の多様化等の基本的な考え方は維持しつつ、受験教科・科目数に関しては、従来できるだけ少なくしていくべきという姿勢であったが、この答申では、「入学後の教育との関連を十分に踏まえた上で設定することが必要であり、各大学の教育に必要なものを課すことは当然」と認識が変化している。また、同答申は、「まず大学は、それぞれが特色ある教育理念等を確立することが必要であり、それに応じた入学者受入れ方針(アドミッション・ポリシー)を明確にし、対外的に明示する」ことを強く要請している。
 ○このように、様々な社会環境の変化に応じて、入学者選抜の改善策が示されてきたが、基本的には、選抜方法の多様化等を推進する方向で取組が進められている。その結果、推薦入試やアドミッション・オフィス入試(いわゆるAO入試。詳細な書類審査と時間をかけた丁寧な面接等を組み合わせて行うもの。)が必ずしも学力検査を課さない形態で普及・拡大し、学力検査を伴う「一般選抜」の割合は五八%(平成十八(二〇〇六)年度(大学))へと大きく低下した。「大学全入」時代が到来する中、このような状況に対しては、推薦入試やAO入試における外形的・客観的な基準が乏しく、事実上「学力不問」となる等、本来の趣旨と異なった運用がされているのではないか等の懸念も示されている。
 また、入学者受入れ方針の策定については、多くの大学で普及してきているが、その中身は抽象的なものに止まっており、高校生に対して習得を求める内容・水準を具体的に示すものとはなっていない。
 さらに、AO入試や推薦入試などの選抜方法の多様化が進むにつれて、高校生等にとって入試方法が分かりにくくなっていること、入試に携わる大学の教員にとって負担が重くなってきていること等の問題も挙げられている。
 入学者確保をめぐる大学の状況が二極化しつつある中、これまでの選抜方法の多様化等の在り方について、国及び各大学は成果と課題を十分に検証すべき時期を迎えている。
 ○我が国の入学者選抜のシステムは、大学入試センター試験と個別大学入試の組み合わせで行われている。大学入試センター試験は、アラカルト方式を取り入れ、利用大学数は着実に増加して現在は七五五大学(平成十九(二〇〇七)年一月実施(大学・短期大学)が利用するに至っている。利用大学は、大学入試センター試験によって、高等学校レベルの「学習成果」を客観的に把握するとともに、当該大学の個性・特色に応じた選抜方法の工夫を行ってきている。大学入試センター試験は、我が国全体として、選抜方法の多様化を推進する上で、大きな貢献をしてきたと言える。
 こうした積極的な評価の上に立ちつつ、様々な環境変化を踏まえ、改めて大学入試センター試験と個別大学入試との関係の在り方について考えていくことが望まれる。
 ○今日、「大学全入」時代を迎え、教育の質を保証する観点から、単に個別の学校の努力のみに委ねるのではなく、システムとして高等学校と大学との接続の在り方を見直すことが重要である。受験生、大学の双方が多様化する中で、学士課程教育の質の維持・向上の前提として、学校間の円滑な接続を実現し、両者の希望のマッチングを図るため、高等学校の「出口管理」や大学の入学者選抜のシステムを改善することが求められている。そして、それぞれの学校段階において、一人一人の生徒や学生に対し、「学習成果」に関わるマイルストーン(里程標)を示し、教育の質を保証する新たな仕組みを構築していくことが望まれる。
 (特定の大学をめぐる過度の競争など)
 ○全体から見れば少数であるが、社会的な影響力という面で、選抜性の強い特定の大学をめぐる受験競争の問題は看過できない。大学進学を念頭に置いて行われる中学校受験等をめぐり、競争の低年齢化や裾野の広がりが生じていることも、知・徳・体のバランスのとれた発達や、教育の機会均等といった観点から懸念される。大学全体として見れば、選抜方法の多様化等は相当に進んでいるが、これら特定の大学については、必ずしも多様化が十分に進んでいるとは言えない。
 ただし、受験競争をめぐっては、社会全体の価値観による面が少なくなく、大学入試だけで解決を図ろうとすることは適当ではない。また、有力な大学への進学をめぐる競争は諸外国でも見られ、競争そのものを全否定すべきでないという意見があることも十分留意する必要がある。
 ○昨年、高等学校における必履修科目の未履修問題は、大きな社会問題となった。これは、高等学校関係者が教育課程の基準を遵守しなかったという問題であり、現行制度上の重要な選抜資料である調査書の信頼性を著しく損なうことになったのは、極めて残念なことである。
 一方で、この問題は、大学入試の在り方が高等学校以下の教育を規定する傾向が依然として強いという現実を改めて示すことになった。今後、高等学校教育の在り方と併せて、大学入試の在り方についても検討が求められる。
 ○大学入試の在り方は、社会的な関心が極めて高く、国民生活への影響も大きい問題である。また、高等学校以下の学校教育の在り方との関わりも深く、慎重な検討を要する(例えば、受験機会の複数化やAO入試等による丁寧な選抜を一層推進しようとするならば、選抜の実施時期の早期化の是非に関する議論も避けられない)。さらに、国においては、高等学校以下の教育課程の基準である学習指導要領の改訂について検討が進められている。
 このため、今後、高等学校関係者の意見を聴きながら、適時に中央教育審議会初等中等教育分科会と大学分科会との連携を図りつつ、審議を深めていくことが必要である。
 今回は、当面の方策として、大よその共通理解が得られた事柄に限って若干の提言を行うに止め、その他の事項については、引き続き審議を行うこととした。

 〈改革の方策〉
 【大学の取組】
 ◆大学と受験生とのマッチングの観点から、入学者受入れ方針を明確化する。
 その際、求める学生像等だけではなく、高等学校段階で習得しておくべき内容・水準を具体的に示すように努める。
 ◆受験生の能力・適性等を多面的に評価し、求める学生を入学させて大学教育を活性化させるといった観点から、選抜方法の在り方を点検し、適切な見直しを行う。
 個別学力検査は、入学志願者の自ら学ぶ意欲や思考力、判断力、表現力等を適切に判断できるよう一層の改善を図る。また、現行の選抜方法が、必要以上に複雑化し、透明性を損なう恐れがあるような場合は、簡素化・合理化を図る。逆に、選抜方法の多様化等が不十分な場合は、改善を図る。
 ◆推薦入試やAO入試については、それぞれの意義を踏まえ、入学者受入れ方針との整合性を確保しつつ、適切に活用する。
 その際、高等学校段階で求められる最低限の学力水準に到達していることが、基本的な前提であることに留意する。また、専ら学生確保の目的のみによって、選抜の実施時期の過度の早期化を招くことは避ける。さらに、AOを担う職員の専門性を高め、体制の充実に努める。
 ◆入試科目の種類・内容については、入学者受入れ方針に基づいて適切に定める。 その際、入試に限らず、例えば、高等学校の履修の実態も踏まえつつ、あらかじめ履修すべき科目や学習内容を指定又は奨励するなどの手法を活用することも併せて検討する。さらに、文系・理系の区別に拘らず、幅広い総合的な学力を問う学力検査を行ったり、募集単位を大くくりにしたりすることを積極的に検討する。
 ◆高等学校との接続をより密にする観点から、選抜資料の多様化や適切な活用を進める。
 調査書の積極的な活用に努める(併せて、高等学校においては、必要な情報を確実に記載することをはじめ、調査書の信頼性や精度を高めるための取組が必要)。高等学校での学習状況に関し、選抜資料として、どのような情報を欲しているかをあらかじめ明示し、当該情報の調査書への記入や、関連資料(例えば、主体的な学校外活動の成果や学習ポートフォリオなど)の添付を高等学校あるいは受験生に求めるよう努める。
 ◆入試問題作成の合理化を図り、良問を出題する観点から、大学の実情に応じて、過去の試験問題等を利用することも検討する。
 検討に当たっては、当該大学に限定せず、複数の大学間で相互に利用することも選択肢となり得ることに留意する。また、当該大学の入学者受入れの方針との整合性に十分配慮する。
 【国による支援・取組】
 ◆入学者受入れ方針の更なる明確化や具体化などについて各大学の取組を促す。
 過去の試験問題の利用については、それが適切に行われる場合、公正性に反するものではないという考え方を明らかにする。
 ◆明確な入学者受入れ方針の下、高等学校との接続や連携の面で、優れた教育実践を行っている大学に対して支援を行う。
 ◆AO入試や推薦入試等について、その基本的な留意点を明確化して周知する。
 ◆高等学校段階の基礎的な「学習成果」を評価し、客観性の高い選抜資料として広く活用する新たな仕組みの在り方について、高大接続の観点から検討を進める。
 その際、大学入試センター試験や各大学の個別学力検査との関係、最低限の学力を担保する観点からの推薦入試やAO入試の在り方との関係などに留意する。また、卒業や入学に関する各校長・各学長の責任・権限や、高等学校教育に与える影響等について適切に配慮する。

(2)初年次における教育上の配慮、高大連携
 (初年次における教育上の配慮)
 ○入学者選抜をめぐる環境変化、高等学校での履修状況や選抜方法の多様化等を背景に、入学者の在り方も変容しており、総じて、学習意欲の低下や目的意識の希薄化などが顕著となっている。大学教員を対象とする調査によれば、六割を超える教員が、「学力低下」を問題視し、特に論理的思考力や表現力、主体性などの能力が低下していると指摘している。少子化等を背景に、従来であれば合格できなかった低学力層も進学するようになってきている。高等学校と大学それぞれが、自らの責任の下、適切な「出口」と「入口」の水準を設定し、的確に運用しているのか、改めて見直しが求められる。
 ○こうした実態を踏まえ、大学においては、高等学校での履修状況に配慮した取組を多くの大学で行うようになってきている。とりわけ、近年では、補習教育(リメディアル教育)が広がりを見せつつあり、文部科学省の調査(平成十七(二〇〇五)年度)では、約三割の大学で補習授業が実施されている。学校間の接続をめぐっては、高等学校が学習指導要領等に基づき、高等学校として求められる学力を保障して卒業生を送り出すこと、また、大学が、安易に学生数の確保を図るのではなく、自らの入学者受入れ方針に基づき、大学教育を受けるに足る能力・適性を見極めて選抜を行うことが本来の在り方である。
 そうした前提に立てば、大学として、自らの判断で受け入れた学生に対し、その教育に責任を持って取り組むことは当然であり、補習教育は重要な意味を持つものと言える。
 ○一方、人生の新たな段階、未知の世界への「移行」を支援する取組として、初年次教育への注目も高まってきている。初年次教育は、「高等学校や他大学からの円滑な移行を図り、学習及び人格的な成長に向け、大学での学問的・社会的な諸経験を成功させるべく、主に新入生を対象に総合的につくられた教育プログラム」あるいは「初年次学生が大学生になることを支援するプログラム」として説明される。
 アメリカの初年次教育(FYE(First−YearExperience))は、大衆化した大学における主体性や意欲の乏しい学生への対応策として考案されたものであり、その取組が中退率を抑止する上で有効な役割を果たすとともに、その後の大学生活への適応度を規定しているという点が、我が国においても確認されつつある。  我が国の大学の、初年次教育においては、「レポート・論文などの文章技法」、「コンピュータを用いた情報処理や通信の基礎技術」、「プレゼンテーションやディスカッションなどの口頭発表の技法」、「学問や大学教育全般に対する動機付け」、「論理的思考や問題発見・解決能力の向上」、「図書館の利用・文献検索の方法」などが重視されている。
 今後、我が国においても、学部・学科等の縦割りの壁を越えて、充実したプログラムを体系的に提供していくことが課題となる。
 ○初年次におけるこれらの教育上の配慮を行うための前提として、当該学生の高等学校における学習状況等に関する必要な情報が、進学先となる大学に円滑に引き継がれることが大切であり、高等学校との一層緊密な連携を図っていくことが課題となる。
 (高大連携)
 ○高等学校と大学との接続の場面においては、ややもすると大学入学者選抜の点のみ焦点化されがちであるが、高等学校と大学との連携により、教育内容や方法等を含めた全体の接続が図られていくことも重要である。例えば、高大連携の取組により、特定の分野について高い能力と強い意欲を持ち大学レベルの教育研究に触れる機会を希望する生徒に、高等学校段階から科目等履修生として大学の授業科目を履修させることや、その学修成果として生徒が大学の単位を取得し大学進学後に既修得単位として認定を受けることなどは、生徒の能力の伸長を図る上で有効と考えられる。
 また、高大連携は個々の高等学校教員・大学教員にとって有効な研修の機会となりうるものであると同時に、大学の社会貢献機能が着目される中、大学がそれを通して地域社会に教育研究成果を還元していくことも可能になってくるものである。
 ○しかしながら、このような高大連携については、未だ散発的な取組に止まっており、一層の推進が必要である。その際、個々の大学が、専ら学生募集の観点から高大連携を進めるだけでは、取組の普及・深化が十分には図られないことから、大学間の協同による教育の提供など、当該取組の実質化に留意する必要がある。
 また、優秀な高校生を念頭に置いて、学問へ誘う活動のみならず、学力が必ずしも高くない高校生に対して、大学進学の目的意識を持たせたり、入学後の補習教育の負荷も軽減したりする観点からの取組も重要になってくると考えられるとともに、高等学校における進路指導が、偏差値に偏ったものとならないよう、大学改革の状況や個々の大学の個性・特色について、一層の理解を求めていくことも大切である。
 さらに、特に専門的な知識や技能の効果的な向上を図る観点から、専門高校等と大学が連携して、学びの連続性に配慮した高大連携を推進することも望まれる。
 〈改革の方策〉
 【大学の取組】
 ◆学びの動機付けや習慣形成に向けて、初年次教育の導入・充実を図り、学士課程全体の中で適切に位置づける。
 その際、大学生活への適応、当該大学への適応(自分の居場所づくり、自校の歴史の学習等)、大学で必要な学習方法・技術の会得、自己分析、ライフプラン・キャリアプランづくりの導入などの要素を体系化する(例:「フレッシュマンゼミ」、「基礎ゼミ」など)。
 ◆大学や学生の実情に応じて、補習教育(リメディアル教育)の充実に向け、積極的に取り組む。
 自ら受け入れた学生に対しては、十分な教育の責任を負うという認識に立って取り組む。ただし、高等学校以下のレベルの補習教育を計画する場合、教育課程外の活動として位置づけ、単位認定は行わない取り扱いとする。
 ◆幅広い高校生を対象に、地域の実情に応じた連携事業など、高大連携の様々な取組を一層推進する。
 【国による支援・取組】
 ◆初年次教育や高大連携などに関する優れた実践に対して支援する。
 ◆補習教育の充実のため、eラーニング型のシステム開発、大学間の連携による教材開発を支援する。
 ◆高等学校までの学習歴に関する情報が、大学に引き継がれていく仕組みを構築する(大学から社会への移行の段階も同様)。
 例えば、高大接続を実効あるものとする観点から、必要に応じ、所定の資料に加えて入学者に関する具体的な情報が高等学校から大学へと引き継がれ、入学後の指導に当たって適切に活用されるよう、所要の環境整備を図る。

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