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平成19年10月 第2291号(10月10日)

学士課程教育の再構築に向けて

  第二節 教育内容・方法等

(1)教育課程の編成・実施
 (教育課程の体系性)
 ○教育課程編成・実施の方針は、学位授与の方針、人材養成の目的等の実現を図る観点から、それらと整合性・一貫性を持ったものであることが求められる。また、教育課程は体系性を持ったものであることが、法制上でも要請されている。各大学は、個性・特色ある方針に基づいて、基礎教育や共通教育、専門基礎教育、専門教育などの適切な区分を設けて、教育課程を編成・実施することが期待されている。「21世紀型市民」としての「学習成果」や「教養」は、これら特定の区分の科目のみではなく、課外活動を含め、あらゆる教育活動の中で、修業年限全体を通じて達成し、培うものとして考えていく必要がある。
 ○しかし、かねて我が国の学士課程の教育課程については、科目内容・配列に関して個々の教員の意向が優先され、必ずしも学生の視点に立った学習の系統性や順次性などが配慮されていない、あるいは、組織的にどのような「学習成果」を目指していくかが不明確である等の課題が指摘されてきた。個々の科目についても、どのような目標、内容・水準であるのかが判然としないなど、単位の互換性や通用性の面でも、支障が生じかねない状態にある。これらの課題は、今日なお解決されていない。
 ○専門教育については、大学院教育の役割の比重が大きくなり、学士課程教育では、完成教育というよりも、専門分野を学ぶための基礎教育や学問分野の別を超えた普遍的・基礎的な能力の育成が強調されるようになってきている。このため、教育課程に求められる体系性に関しても、学問的な知識の体系性(ディシプリン)という観点からのみ考えることは適当ではない。むしろ、当該大学の人材養成の目的等に即して、いかにすれば、専攻分野の学習を通して、学生が「学習成果」を獲得できるかという観点に立って、教育課程の体系性の在り方を考えていくことが一層大切となる。
 (大綱化以降の教育課程の変化)
 ○大学設置基準の大綱化以降、科目区分、必修教科などの見直しが急速に進められた。また、学部・学科等の組織の改組が活発に行われ、学位の専攻分野の名称と同様、多様で新奇な名称の学部・学科(いわゆる「四文字学部」、「六文字学部」)等が登場するようになった。こうした組織改編等の中では、現代的な課題に即した学際的な取組を目指した動きが目立つようになっている。
 ○文部科学省の調査によれば、直近の過去四年間に限っても、約八割の大学がカリキュラム改革を実施している。また、最近一〇年程度の間、実施率が大きく伸びた科目・内容として、例えば、情報教育科目、文書作成の訓練、ボランティア活動、インターンシップ、大学外の教育施設等における学修の単位認定などがある。カリキュラム改革の進展により、多様な科目が開設され、総じて学生の選択幅が広がってきたことが伺える。
 ○また、様々な調査研究の結果によれば、分野による相違はあるが、大綱化以降、全般的に以下のような傾向が見られる。
 ア 教育課程全体の中で専門教育の比重が増していること(基礎教育や共通教育については、履修単位の減少、専門基礎教育の組み込みなど。専門職業との結びつきの強い学部(例:医療、家政、芸術系など)において、専門教育の早期化や高度化が生じている一方、高学年向けの共通教育や基礎教育は余り普及していない。)
 イ 共通教育や基礎教育において、外国語能力や情報活用能力など、スキルの訓練に関する教育の比重が大きくなっていること
 ウ 初年次教育や補習教育、資格取得支援、就職支援、インターンシップなどが様々なかたちで教育課程内外に位置づけられる例が増えつつあること
 エ 学際的な教育活動について、その前提となるべき関連する学問の知識体系(ディシプリン)に関する基礎教育が必ずしも十分になされていないこと
 オ 人文系、社会系などの学部(他学部と比べて基礎教育や自由選択の比重が高い)では、専門教育の学際化が進んでいること
 ○これらは、学生が専門教育志向や資格取得志向などを強めている中で、学生の変化や社会的ニーズに柔軟に応えようとする大学の努力の反映と見ることができる。しかし、そうした努力が、学士課程教育の本来の姿を実現し、教育水準を維持・向上させることに寄与しているとは言い切れない。
 例えば、学生のニーズの背景には、企業全般が学卒者に「即戦力」を求めているという「誤解」により、学生が就職への有利性を過度に意識しているという面もある。その結果、学生確保に向けた大学間の競争が活発化する中、就職支援の教育活動について、学士課程教育(あるいはその正規の教育課程)の一部として位置付けることが相応しい内容・水準であるのか、責任ある実施体制と言い得るのか、疑問の生ずる事例も見受けられる。
 ○学生の学習の幅広さという観点からはどうであろうか。一見、開設科目の種類・内容が多様であったとしても、それらが学位授与の方針や教育課程編成・実施の方針と遊離することなく、学生の体系的な履修を可能とするものになっていなければ、学士課程教育が求める本来の幅広い学びを保証するカリキュラムであるとは言えない。すなわち、沢山の科目の中から場当たり的に取りたい科目を取れるようにするだけであったり、中核となる科目の位置づけが曖昧であったりするならば、学生の学びは狭く偏り、あるいは散漫になるなどして深まらず、所期の「学習成果」は達成されない。「二十一世紀型市民」としての「学習成果」に照らしても、それらが、体系性を持った幅広い学びを経てはじめて達成されるものであることは明らかである。各大学においては、学位授与の方針等の確立と同時に、幅広い学びを保証する教育課程の編成が重要である。
 ○また、学生の所属先については、多くの学生が、入学時に学科等への所属を決定されている。共通教育や基礎教育の後退傾向や専門教育の早期化の動き、さらに第三節で触れる入学者選抜の在り方も相まって、早期から学生の学びの幅を狭めてしまうことが懸念される。ユニバーサル段階及び「大学全入」時代において、自己決定力の未熟な学生も目立つようになる中、入学してから時間のゆとりを持って専門分野を選択できる(Late Specialization)、あるいは柔軟に変更できるような仕組みづくりも課題となる。
 ○なお、大学設置基準の大綱化以降、国立大学を中心に、基礎教育や共通教育の担い手であった教養部が改組され、多くが廃止されるなどの組織改革が進められた。これらの改革は、旧教養部等の教員に限らず、多くの教員が基礎教育や共通教育に携わることを目指すものであったが、現実には、個々の教員は、研究活動や専門教育を重視する一方、基礎教育や共通教育を軽んじる傾向も否めないといった課題が残っている。各大学の実情に応じて、基礎教育や共通教育の望ましい実施・責任体制について、改めて真剣に議論する必要がある。

 〈改革の方策〉
 【大学の取組】
 ◆明確化した「学習成果」や人材養成の目的の達成に向け、順次性のある体系的な教育課程を編成する(教育課程の体系化・構造化)。
 「教養教育」や「専門教育」などの科目区分に拘るのでなく、一貫した「学士課程教育」として組織的に取り組む。専攻分野の学習を通して、学生が「学習成果」を獲得できるかという観点に立って、教育課程の体系化を図る。その際、例えば、科目コード(履修年次等に応じて付記)による履修要件の設定や科目選択の幅の制限等も検討する。
 ◆学生の「幅広い学び」を保証するための、意図的・組織的な取組を行う。
 例えば、多様な学問分野の俯瞰を可能とする教育課程の工夫や、主専攻・副専攻制の導入などを積極的に推進する。また、入学時から学生が学科に配置され、専ら細分化された専門教育を受けるような仕組みについては、当該大学の実情に応じて見直しを検討する(例えば、学部・学科間の移動の弾力化、学部・学科の在り方の見直しなど)。
 ◆英語等の外国語教育においては、バランスのとれたコミュニケーション能力の育成を重視するとともに、専門教育との関連付けに留意する。
 「読む・書く・聞く・話す」の四技能のバランスに留意し、例えば、ライティングセンターなどにより、学習支援を行う。「専門を学ぶための英語(EAP(English for Academic Purposes)」という観点に立って教育活動を展開する。TOEFLやTOEICなどの結果に基づいて単位認定を行う場合、大学教育に相応しい水準か、単位数が適当か等について吟味する。
 ◆キャリア教育は、生涯を通じた持続的な就業力の育成を目指すものとして、教育課程の中に適切に位置づける。
 豊かな人間形成と人生設計に資するものであり、単に卒業時点の就職を目指すものではないことに留意する。アウトソーシングに偏ることなく、教員が参画して学生のキャリア形成支援にあたる。
大学が責任を持って関与するインターンシップと、単なるアルバイトとは峻別する(後者を単位認定することは行わない)。
 ◆一方的に知識・技能を教え込むのではなく、豊かな人間性や課題探求能力等の育成に配慮した教育課程を編成・実施する。
 例えば、資格取得に係る教育を行う場合であっても、バランスのとれた教育活動を行う。教育課程内の活動と併せて、学生の自主的な活動等の充実に向けた支援に努める。
 ◆共通教育や基礎教育の重要性について教員間の共通理解を確立し、教育活動への積極的な参画を促す。また、これらの教育における努力や業績を適切に評価する。
 その際、共通教育や基礎教育の目的達成を、特定の科目のみに任せてしまうことはしない(例えば、アカデミック・ライティング等は、基礎教育科目等だけでなく、専門科目の学習を通じて実践的な訓練を行うことが望ましい)。
 ◆地域の実情に応じて、大学間連携を強化し、学生に対する教育内容を豊富化する。
 例えば、共同プログラムの開発、単位互換などを進める。その際、基礎教育や共通教育の充実の観点から、放送大学との単位互換も検討する。
 【国による支援・取組】
 ◆個性や特色のある教育課程に関する優れた実践に対し、積極的に支援するとともに、そのための体制を整備する。
 例えば、目指すべき「学習成果」を明確化し、順次性のある体系的な教育課程を実施する取組や、「幅広い学び」を保証するための意図的・組織的な取組などを支援する。
 ◆大学間の連携、学協会等を支援し、国際的な通用性に留意しつつ、分野別のコア・カリキュラムを作成する等の取組を促進する。
 ◆大学間の連携強化に向けた取組を支援し、共同プログラムの開発、単位互換などを促進する。
 ◆産学間の対話の機会を設け、インターンシップの推進に向けた理解の増進などの環境整備を進める。

(2)教育方法
 (単位制度の実質化)
 ○我が国の大学教育のシステムは、アメリカなどの諸外国と同様、単位制度をとっており、これを的確に運用することが、教育の質の維持、国際通用性の確保の観点から不可欠である。従来単位制度を採っていなかった欧州においても、「欧州高等教育圏」の実現を目指す一環として、その導入に踏み切っており、単位制度の考え方は一種の国際標準となってきている。
 ○我が国の単位制度は、四五時間相当の学修量をもって一単位と定めており、それが実質を伴うものでなければならない。しかし、学生の学習時間を見ると、内閣府の調査(平成十二(二〇〇〇)年度)では、学外の勉強を「ほとんどしていない」者が約半数、総務省の調査(平成十三(二〇〇一)年度)では、学内外を通じた学習時間は一日平均三時間足らずであり、国際比較の研究でも、我が国の大学生の学習時間の短さは顕著である。こうした実態は、必ずしも制度の趣旨を踏まえたものとなっているとは言えない。
 ○学生の学習時間は、「学習成果」の達成度にも密接に関連してくるものと推認される。
 「学習成果」を直接測定したものではないが、学生の主観的評価によれば、数理的な処理能力や外国語能力などに関しては、入学時点から低下したという回答が多い。学生が本気で学び、社会で通用する力を身に付けるためには、単位制度の実質化に努めることが強く求められる。
 単位制度の実質化の必要性は、これまでも指摘され、改善策が提言されてきた。シラバス、セメスター制、キャップ制、GPAなどの諸手法は、いずれもその狙いにより導入が図られてきた。文部科学省の調査結果(平成十七(二〇〇五)年度)では、各大学において相当に普及し、例えばシラバスは、既に全大学で取り入れられている。けれども、学習時間の実情からすれば、これらの取組は奏功しているとは言えない。
 ○一つの原因としては、単位制度を実質化するための諸手法について、それらが単体で機能するものでなく、相互に連携させることが必要だという点が認識されていないということがある。また、個々の手法について、単位制度の実質化との関わりが十分に理解されていない可能性もある。例えば、シラバスについては、「準備学習等についての具体的な指示」を盛り込んでいる大学は約半数に止まっている。
 ○このような状況を踏まえ、各大学では、学習時間などの実態把握を行った上で、その結果を教育内容・方法の改善に生かしていくことが必要である。また、教育課程の体系化を進めた上で、きめ細かな履修指導と学習支援を行っていくことも併せて求められる。
 「大学全入」時代を迎え、学習意欲や目的意識の希薄な学生が一層増加することも想定され、そうした備えは急務である。
 (「大学全入」時代の学生への対応)
 ○「学習成果」を重視する大学教育の改革については、「何を教えるか」よりも「何ができるようにするか」に力点が置かれる。このことは、教育内容に勝るとも劣らず、教育方法の改善が重要であることを示唆する。入学する学生の変容については、第三節で触れることになるが、学習意欲や目的意識の希薄な学生に対し、どのようなインパクトを与え、主体的に学ぼうとする姿勢や態度を持たせるかは、極めて重要な課題である。
 具体的には、学生の主体的な参画を促す授業方法となっているか、授業以外の様々な学習支援体制が整備されているか、学内に止まらず、積極的に体験活動を取り入れているか等について、改めて点検・見直しが必要となる。
 ○また、少人数指導の推進も重要な課題であり、教員と学生数の比率(ST比)が様々な大学ランキングの指標とされていることからも伺えるように、教育の質を規定する一つの重要な要素である。ただし、こうした少人数指導の有無のみで教育方法の望ましい在り方を考えることは適当ではない。国際競争力を有するアメリカの大学については、大規模な講義であっても、ティーチング・アシスタント(TA)などの多数のスタッフが教員の教授活動を組織的に支援するとともに、施設・設備の面で情報通信技術(ICT)等が積極的に活用されているなど、双方向性を確保するための様々な工夫が凝らされている。
 こうした教育方法の改善のため、アメリカの大学は積極的に投資しており、OECDの国際比較統計によれば、学生一人当たり教育費は顕著に増大してきている(五年間で約一・二倍)。一方の我が国については、学生一人当たり教育費は微減傾向にあり、金額にしてアメリカの半分程度という状態に甘んじている。国際比較の難しさを勘案したとしても、こうした格差は歴然としている。大学の国際競争力の強化を政策目標に掲げるのであれば、教育方法の改善に向け、施設・設備の面を含めた十分な環境整備が欠かせない。
 ○なお、大衆化した学士課程教育を担う大学について、「教育」及び「研究」を活動の両輪とする大学制度の理念との関連性をどう考えるべきであろうか。この問題は、望ましい教育方法の在り方と不可分の関係にあるものと考える。
 「二十一世紀型市民」に相応しい「学習成果」は、課題探求や問題解決等の諸能力を中核とするものである。学生がそれらを達成できるようにするためには、単に既存の知識を一方向的に伝達するのみではなく、討論などを含む双方向型の授業を行うこと、学生自らが「研究」に準ずる能動的な学びの営みに参画する機会や場を設けていくことが不可欠となる。「研究」という営みを理解し、実践する教員が、学生の実情を踏まえつつ、「研究」の成果に基づき、自らの知識を統合して「教育」に当たるということが改めて大切な意義を有するのである。換言すれば、「教育」と「研究」との相乗効果が発揮されるような教育内容・方法を追求し、模索することが、ユニバーサル段階の大学にとって一層重要となってきていると考える。

 〈改革の方策〉
 【大学の取組】
 ◆自己点検・評価活動の一環として学習時間等の実態把握を行い、単位制度の実質化の観点から、教育方法の点検・見直しを行い、質の向上を図る。
 卒業要件単位数、各科目の単位数配当、履修指導と学習支援の在り方などの点検・見直しを行う。
 諸手法(シラバス、セメスター制、キャップ制、GPAなど)を相互に連携させて運用する。
 点検・評価のための目安として、具体的な学習時間を設定することも検討する。
 ◆各科目の授業計画に関しては、学部・学科等の目指す「学習成果」を踏まえて適切に定め、学生等に対して明確に示す。
 シラバスに関しては、国際的に通用するものとなるよう、以下の点に留意する。
 ・各科目の到達目標や学生の学修内容を明確に記述すること
 ・準備学習の内容を具体的に指示すること
 ・成績評価の方法・基準を明示すること
 ・シラバスの実態が、授業内容の概要を総覧する資料(コース・カタログ)と同等のものに止まらないようにすること
 ◆各科目の授業時間内及び事前・事後の充実の観点から、各セメスターで履修する科目の数・種類が過多とならないようにする。
 例えば、細分化された二単位科目(週一回開講)を多数履修するような在り方を見直し、教育効果の観点から適切と判断する場合、三単位又は四単位科目(間に休憩を入れた二コマ続きの授業又は週複数回開講する授業)を標準形態とする。科目登録等に際し、各学生の実情に応じて登録の適否等に関する履修指導を積極的に行うよう努める。それらの種々の取組と併せて、キャップ制の導入や受講科目数に対応した柔軟な授業料システムについて検討する。
 ◆学習の動機付けを図りつつ、双方向型の学習を展開するため、講義そのものを魅力あるものにすると共に、体験活動を含む多様な教育方法を積極的に取り入れる。
 学生の主体的・能動的な学びを引き出す教授法(アクティブ・ラーニング)を重視し、例えば、学生参加型授業、協調・協同学習、課題解決・探求学習、PBL(Problem / Project Based Learning)などを取り入れる。大学の実情に応じ、社会奉仕体験活動、サービス・ラーニング、フィールドワーク、インターンシップ、海外体験学習や短期留学等の体験活動を効果的に実施する。学外の体験活動についても、教育の質を確保するよう、大学の責任の下で実施する。
 ◆TAを積極的に活用して、双方向型の学習や少人数指導を推進する。
 授業における指導(例えば、ディスカッション、討論など)への参画、授業外の学習支援など、TAの役割を一層拡大する。優秀な学部学生をTAとして活用することも検討する。
 ◆情報通信技術(ICT)を積極的に取り入れて教育方法の改善を図る。
 例えば、以下のような取組について検討する。
 ・VOD(Video on Demand)システム等、eラーニングの活用による遠隔教育
 ・LMS(Learning Management System)を利用した事前・事後学習の推進
 ・ブレンディッド型学習(教室の講義とeラーニングによる自習の組み合わせ、講義とweb上でのグループワークの組み合わせなど)の導入
 ・クリッカー技術(リモコンによる学生応答システム)による双方向型授業の展開
 【国による支援・取組】
 ◆少人数指導の推進や情報通信技術(ICT)の活用などに必要な施設・設備の整備を含め、教育方法の改善に向けた優れた実践を支援する。
 ◆学生に対して特にインパクトを与える体験活動として、諸外国の大学との間の短期留学の派遣・受入れを積極的に推進する。また、これらを促すため短期留学生向けも含めた宿舎等の住環境・生活環境の整備を支援する。
 ◆TAの訓練等の取組を支援するとともに、各分野でのTAのより積極的な活用に向け、各大学に対して環境整備(例:業務の明確化、適正な待遇、学内でのTAの評価・統括システム等)を促す。
 ◆大学間の連携、学協会等を支援し、国際的な通用性に留意しつつ、分野別のモデル教材を作成する等の取組を促進する。
 ◆教育方法の革新に向け、基礎的な調査研究や実践事例の情報収集・提供、学協会等の取組の連絡調整等を行うナショナルセンターを創設する可能性を検討する。
(3)成績評価
 ○第一節で述べたとおり、我が国の学士課程教育をめぐっては、「出口管理」の強化、卒業認定などの評価の厳格化が大きな課題となっている。このことは、単に卒業時点だけの問題ではなく、入学してからの教育指導の過程全体を通じて、学生の成長という観点から考えなければならない重要な課題である。これまで、文部科学省は、教育方法の面で、単位制の実質化を目指した様々な取組を推進してきたが、それと同時に、成績評価基準の明示、アメリカで一般的に普及しているGPA(Grade Point Average)などの客観的な仕組みの導入なども各大学に促してきた。
 ○しかし、修業年限での卒業率や中退率などの指標で見る限り、我が国の大学の成績評価が厳格化してきているとは言えない。中退者の少なさは国際比較でも顕著であり、そのこと自体は、否定的評価を直ちに下すべきではないが、適正な評価が行われていない可能性も示唆している。GPAは、三五%の大学で導入されているが、その運用方法の内訳を見ると、奨学金や授業料免除対象者の選定や個別の学習指導に活用される場合が多い一方で、「進級や卒業判定の基準」(二七%)、「退学勧告の基準」(一八%)といった踏み込んだ活用は少数に止まっている(平成十七(二〇〇五)年度)。
 ○教育内容・方法と同様、評価についても、我が国の大学においては、個々の教員の裁量に依存し、組織的な取組が弱いと指摘されてきた。「大学全入」時代の学生の変容に際し、学生確保という経営上の要請も相まって、従来のままでは、なし崩し的に安易な成績評価が広がってしまう恐れがある。
 このため、教員間の共通理解の下、各授業科目の到達目標や成績評価基準を明確化するとともに、GPAをはじめとする客観的な評価システムを導入し、組織的に学修の評価に当たっていくことが強く求められる。その際、GPAの導入・運用に当たっては、国際的に認知されているGPAの一般的な在り方に十分留意すべきである。また、成績評価の結果については、基準に準拠した適正な評価がなされているか等について、組織的なチェックが働くような仕組みが必要となる。
 ○客観的な評価を推進する際、資格や検定といった外部試験などを活用することも考えられる。ただし、その際、大学自身の学位授与や教育課程編成・実施の方針との整合性を十分に考慮することが求められる。また、客観的な評価という場合、特定の時点で実施するペーパーテストによる方法のみを想起するとすれば、必ずしも当を得たものではない(先進諸国でも、標準的なテストによって大学生一般の「学習成果」を測定することの可否、妥当性に関しては結論を見ておらず、十分な研究を要する課題となっている)。
 第一節で示した「二十一世紀型市民」としての「学習成果」の達成度を評価しようとするならば、多面的できめ細かな評価方法を取り入れることが望まれる。
 ○現代の社会は、個人が生涯にわたって学習し、複数の職業や組織で働き、活動する流動性の高い社会である。個人の能力を評価する方法として、ポートフォリオが重視される時代ということができる。学士課程における評価に当たっても、多様な学習活動の成果を評価する観点から、学習ポートフォリオの手法を積極的に取り入れていくことは有意義である。PDP(Personal Development Planning)など、学生の学習履歴などの記録と自己管理のためのシステムを開発することは、「学習成果」を重視した評価を進めるための条件整備として、重要となる。
 ○なお、成績評価の厳格化や「出口管理」の強化は、単に学生を振るい落とすことを目的とするものではない。GPAに関しても、学生に対するきめ細かな履修指導や学習支援の実施、評価機会の複数化と一体的に運用し、効果的に「学習成果」を達成することを促す点に意義がある。また、教育システムの在り方として、必要な時に再挑戦をすることができる柔軟な仕組みづくりが併せて望まれる。成績評価の厳格化や「出口管理」の強化については、こうした学生の利益を増進するという配慮も忘れてはならない。
 〈改革の方策〉
 【大学の取組】
 ◆教員間の共通理解の下、成績評価基準を策定し、その明示について徹底する。
 成績評価の結果については、基準に準拠した適正な評価がなされているか等について、組織的な事後チェックを行う。
 ◆GPA等の客観的な基準を学内で共有し、教育の質保証に向けて厳格に適用する。
 GPAを導入・実施する場合は、以下の点に留意する。
 ・国際的にGPAとして通用する仕組みとする(例えば、グレードの設定を標準的な在り方に揃える、不可となった科目も平均点に算入する、留年や退学の勧告等の基準とするなど)
 ・アドバイザー制を導入するなど、きめ細かな履修指導や学習支援を併せて行う。
 ・教員間で、成績評価結果の分布などに関する情報を共有し、これに基づくファカルティ・ディベロップメント(FD)を実施し、その後の改善に生かす。
 ・その他単位制度の実質化に向けた諸方策を総合的に講じる。
 ◆「学習成果」を学生自らが管理・点検するとともに、大学としてこれを多面的に評価する手法として、学習ポートフォリオを導入・活用することを検討する。
 ◆各大学の実情に応じ、在学中の「学習成果」を証明する機会を設け、その集大成を評価する取組を進める。
 例えば、卒業論文やゼミ論文などの工夫改善や新規導入を実施したり、学部・学科別の、あるいは全学的な卒業認定試験を実施したりすることを検討、研究する。
 ◆国際性を特色とする大学においては、外国語コミュニケーション能力の評価を厳格に行う。
 例えば、卒業や進級の要件として、EAPの観点に留意しつつ客観的な到達目標を独自に設定したり、TOEFLやTOEICなどの検定の結果を活用したりする。
 【国による支援・取組】
 ◆徹底した「出口管理」、成績評価の厳格化について先導的に取り組んでいる大学に対して支援を行う。
 そうした支援を通じ、例えば、当該大学において、成績優秀な学生に対する経済的支援(授業料減免や奨学金の返還免除など)を行うことや、学習ポートフォリオなどのシステム開発を行うことなどを併せて促進する。
 ◆成績評価の在り方に関して、対外的な信頼を確保する上で、最低限共通化すべき事柄は何かを検討し、適切な対応をとる。 例えば、GPAの標準的な在り方、成績証明書の基本的要件などについて検討する。
 ◆大学間の連携、学協会等を支援し、国際的な通用性に留意しつつ、分野別の「学習成果」や到達目標の設定などの取組を促進する。
 ◆大学間の連携強化に向けた取組の支援を通じ、成績評価等の在り方について、外部評価や相互評価の取組を促進する。

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