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平成19年10月 第2291号(10月10日)

学士課程教育の再構築に向けて

  第二章 改革の基本方向 〜競争と協同、多様性と標準性の調和を〜

 ○第一章で述べた経緯や現状を踏まえて、個々の大学においては、改革の取組が重ねられてきた。文部科学省が毎年実施している大学における教育内容等の改革状況に関する調査等によれば、教育内容・方法、成績評価、入学者選抜など各般にわたって改革の取組が普及していることが看取される。
 ○国においては、様々な規制を緩和し、大学間の競争的な環境づくりを進め、各大学の個性化・特色化を促す方針をとってきた。大学運営システムの改革(国立大学等の法人化、学校法人制度の改善等)、大学の質保証のための制度改革(設置認可の弾力化と第三者評価制度の導入等)、国公私立大学を通じた優れた教育研究活動(Good Practice;GP)への重点的支援(以下、「GP事業」という。)などの取組を推進してきた。将来像答申も、大学の個性・特色の一層の明確化を求め、「総合的教養教育」型を含む七つの機能類型を例示して、各大学が自らの選択により緩やかに機能別に分化することを望ましいとした。
 ○こうした大学と国それぞれの改革の結果として、大学の個性化・特色化は着実に進んできたと考えられる。しかし、「大学とは何か」という概念が希薄化し、ともすれば目先の学生確保の必要性が優先される傾向もある中、我が国の大学、学位が保証する能力の水準が曖昧になることや、学位そのものが国際的な通用性を失うことへの懸念も強まってきている。例えば、多様化する一方の学部・学科等の組織名称や学士に付記する専攻分野の名称は、そうした懸念を強める一因である。また、改革の取組の結果、学生の学習活動や「学習成果」の面で顕著な成果を挙げてきたかという点については、第三章の各節で述べるとおり、未だ改革が実質化していない面も少なくないと考えられる。
 ○従来の改革の背景には、新規参入を促進し、学生獲得の競争を活発化させることが、「教育の質」を向上させる有効策であるという考え方もあった。今後の大学改革に向けても、そうした主張が依然として見受けられる。しかし、既に「過当競争」状態も懸念される今日、こうした「市場化」の改革手法のみでは、十分な成果を期待できない。「大学の多様化」が単なる無秩序に陥り、日本の大学全体の国際的な信用や信頼性を失墜させるような結果を招来してはならない。
 ○先進諸国の状況を見ると、大学間や教員間を結びつけ、構成員の主体的な教育研究活動の質的向上を支援する組織やネットワークが大きな存在感を持っている。高度で専門的な教育機関である大学、専門職としての大学教員の自主性・自律性を支える基盤(インフラストラクチャー)として、そうした組織やネットワークは不可欠である。具体的には、各分野の学協会、大学関係団体、職員の職能団体などの果たす役割・機能は重要である。大学関係者のボランティア精神と不可分の「評価文化」の存在や、様々な産業における専門職の職能団体による大学教育とその評価への関与・貢献などの意義も指摘される。我が国の場合、こうした教育研究活動を支える社会的基盤、知的共同体の存在感が相対的に希薄であり、大学教育の振興の制約要因の一つになっていると考えられる。
 ○このような認識に立つとき、今後の学士課程教育の改革の推進に当たって重要なことは何であろうか。本委員会では、「学士」の質保証を図るためには、「大学間の健全な競争環境の下、各大学が自主的な改革を進めること」と同時に、「自律的な知的共同体を形成・強化し、大学間の連携・協同を進めること」が極めて重要であると考える。その際、個性化・特色化に伴う「教育の多様性」と、国際通用性等の観点から要請される「教育の標準性」の両者を調和させていくことが必要となる。こうした基本的な考え方の下、本章では、「大学の取組」、「国による支援・取組」のそれぞれに関し、目指すべき改革の方向について述べる。

  (1)大学の取組〜社会からの信頼に応え、国際通用性を備えた学士課程教育の構築を〜
 ○我が国の学士課程教育の抱える課題、社会的な要請の高まりを踏まえると、各大学に求められる事柄を端的に言うならば、「社会からの信頼に応え、国際通用性を備えた学士課程教育の構築を」実現すべきということになる。本委員会としては、この目標の実現に向けて、以下のような改革の実行を期待するものである。
 これらの改革の実行に当たっては、明確な「三つの方針」に貫かれた教学経営を行うことが肝要である。大学の個性・特色は、各機関ごとの学位授与の方針、教育課程編成・実施の方針、入学者受入れの方針(将来像答申の述べるディプロマ・ポリシー、カリキュラム・ポリシー、アドミッション・ポリシーに対応)に具体的に反映されるものである。教学経営に当たって、「三つの方針」を明確にして示すこと、そして、それらを統合的に運用し、共通理解の下に教職員が日常の実践に携わること、さらに計画・実践・評価・改善(PDCA)のサイクルを確立することが重要である。
 @幅広い学び等を保証し、「二十一世紀型市民」に相応しい「学習成果」の達成を
 ○学位授与の方針に関しては、抽象的な人材養成の目的を掲げるに止まるのではなく、「学習成果」重視の観点から、卒業までに学生がどのような能力を修得することを目指すかを、できるだけ具体的に示していくことが大切である。大学が掲げる「学習成果」は、「二十一世紀型市民」として自立した行動ができるような、幅の広さや深さを持つものとして設定することが重要である。また、各大学の教育理念や「建学の精神」との関連に十分留意して、達成すべき「学習成果」を明確に示すことにより、それらが一層学生に浸透することになろう。
 学士課程教育の在り方の基本的な要件として、国際的にもほぼ共有されているものは、学びの幅広さや深さである。「二十一世紀型市民」に相応しい資質・能力を育成する上で、いかにしてこれを保証していくべきか、各分野の特質や当該大学の個性や特色を踏まえつつ、各大学がそれぞれに解を見出していかなければならない。その際、幅広い学び等は、一般教育や共通教育、専門教育といった科目区分の如何によらず、学生の自主的活動や学生支援活動をも含め、それらを統合する理念として、学士課程の教育活動全体を通じて追求されるべきものである。
 こうした点に十分留意しつつ、当該大学の人材養成の目的等に即して、いかにすれば、専攻分野の学習を通して、学生が「学習成果」を獲得できるかという観点に立って、教育課程の体系化・構造化に向けた取組を進めていくことが課題となる。このためには、各学部、各学科等の分野に即した「学習成果」に関し、各大学において学生が到達すべき目標を示し、それらを通じて質を保証していく取組を進めつつ、学士課程全体を通じた「学習成果」、目標を明確化するよう努力する必要がある。
 これに関連して、規模の大きな大学については、学部・学科等の縦割りの教学経営が、幅広い学びの保証の妨げとなるきらいがあることも指摘される。教育課程をはじめ、「三つの方針」の企画・実施に当たって、いかにして縦割りの壁を破るかが課題となる。
 また、個別大学の枠を超えて、教育課程の企画・実施において連携・協同することにより、教育内容を一層豊富にする取組も期待される。
 A学生が本気で学び、社会で通用する力を身に付けるよう、きめ細かな指導と厳格な成績評価を
 ○教育課程編成・実施の方針に基づき、学生を本気で学ばせること、単位制度を実質化させることは、「入難出易」と形容されてきた我が国の大学にとって、これまでも大きな課題であった。「大学全入」時代においては、教育課程の内容に止まらず、指導方法、成績評価の改善を併せて講じ、社会で通用する力を確実に身に付けさせることが、いよいよ重要となっている。その際、学生の視点を踏まえつつ、学習者本位の改革を進めていくことが必要である。
 目的意識の希薄化、学習意欲の低下等、学生の多様化により、大学側の対応の困難性は増してきている。最終的には、「課題探求能力」という高等教育に相応しい高次の目標の達成に努める必要があるが、一方で、基礎的な読解力や文章表現力などを修得させることを避けては通れない。また、学生に目的意識を持たせ、学習意欲を喚起する観点から、地域や産業界との連携を深め、外部人材の積極的な参画を得たり、質の高い体験活動の機会を積極的に設けたりするなど、開かれた教育活動を推進することが有意義である。
 成績評価についても、きめ細かな指導を行った上で、客観化・多面化に向けた様々な創意工夫を凝らしつつ、厳格な評価を行うことが強く要請される。
 B教職員の職能開発に向け、自主的・組織的な取組の展開を
 ○各大学が「三つの方針」に基づいて組織的に教育活動を展開するためには、当該大学の教員が共通理解を形成し、具体的な教育実践に取り組んでいくことが求められる。また、教員が、多様化する学生に対して適切な教育指導を行うためには、教授法に関する
 不断の研究を行うことが一層強く要請される。教員の組織的な研修(ファカルティ・ディベロップメント(FD))の実施が、各大学に義務付けられることとなったが、これを契機として、各大学では、FDの在り方を主体的に見直すとともに、教員評価の在り方等を含め、教員の教育力向上に向けた取組を総合的に進めていくことが重要である。
 また、教員と職員との協働関係を一層強化するため、職員の職能開発(スタッフ・ディベロップメント(SD))を推進して専門性の向上を図り、教育・経営など様々な面で、その積極的な参画を図っていくべきである。

(2)国による支援・取組〜大学の自主性・自律性を尊重した多角的支援の飛躍的充実を〜
 ○将来像答申は、国の中心的な役割として、「高等教育の在るべき姿や方向性等の提示」、「制度的枠組みの設定・修正」、「質の保証システムの整備」、「高等教育機関・社会・学習者に対する各種の情報提供」、「財政支援」の五つを挙げている。これらは、いずれも重要であり、国は、政策目的に応じて適切な手段を選び、多角的に各大学を支援していくこととなる。その際、教育基本法の謳うとおり、大学の自主性・自律性を尊重していくことが求められる。
 特に、先進諸外国と比較して、対GDP比等で見ると、我が国の大学に対する財政支援は手薄であると言わざるを得ない。ユニバーサル段階等を迎える中、積極的な投資無くしては、教育の質を維持することさえ困難となる。大学の自主性・自律性を尊重する観点からも、基盤的経費を確実に措置した上で、競争的資金を拡充し、財政支援全体の強化を図っていくことを強く望みたい。一方、大学は、教育基本法等の改正を契機として、社会に対する説明責任を十分果たしていくことが求められるのであり、国としてそうした枠組みづくりを併せて進めていくことが望まれる。
 @我が国の「学士」の水準に関する枠組みづくり、「高等学校から大学へ、大学から社会へ」と連なる階梯の設計を
 ○将来像答申の提言するとおり、ユニバーサル段階においては、大学が自らの選択によって機能別に分化していくこととなり、政策的にも、そうした取組を支援していくことが重要である。一方で、我が国の大学が授与する「学士」について、その在り方が無秩序であっては、知識・技能等の証明として、国内外で信頼され、通用するものとならない。「学習成果」重視の国際的な大学改革の潮流や社会の要請などを踏まえると、国としては、大学関係者と協同し、その主体性の下、学士課程教育の役割を改めて吟味し、我が国の「学士」の水準に関する枠組みづくりがなされるよう、適切な役割を果たしていくことが望ましい。
 こうした枠組みは、分野横断的な水準の確保を目指すものであり、各大学における学位授与の方針の策定・見直しの指針となることが期待される。また、Bで述べる分野別の学位水準の確保に向けた学協会等の取組の基盤になるものとしても重要である。社会の発展に寄与する大学として、それに相応しい内容・水準とはどうあるべきか、それをどのように評価して説明責任を果たしていくのか等の基本的な課題について、分野を横断し、さらには各分野にわたり、十分な研究や検討を進めていくことが必要である。
 ○今日、高等学校卒業者の過半数が大学へ進学し、労働市場において大学卒業者が新規採用者の中心になりつつある中、人生の新しい段階へと移行する若者をいかに支援していくかが、学士課程教育においても重要な課題となる。
 一方で、「大学全入」時代を迎え、各大学の入学者選抜方法の在り方、高等学校での履修状況や評価の在り方が益々多様化してきている。そうした中、教育の質を保証する観点から、単に個別の学校の努力のみに委ねるのではなく、システムとして、高等学校・大学の接続の在り方を見直していくことが求められる。従来、主に過度の受験競争の緩和の観点から、入学者選抜の改善等が推進されてきたが、今後は、各学校段階で最低限必要な知識・技能等を身に付け、若者が人生の階梯を着実に歩んでいく仕組みを再構築していくことが重要である。
 A学士課程教育の優れた実践に対する重点的な財政支援の拡充を
 ○競争的な環境の中で、国公私立大学の優れた教育の取組を重点的に支援するとともに、その成果を広く情報提供することにより、我が国全体としての大学改革を推進していくことを目的とするGP事業は、大学の多様な機能や社会のニーズ等に対応して、年々そのメニューを増やし、支援額も拡充してきている。代表的なプログラムである特色GP及び現代GPだけでも毎年一〇〇〇件前後の応募があり、申請に至るまでの大学内での熱心な検討の過程などを通じ、各大学における大学改革、教育改革の進展に大きな成果をあげている。研究を重視しがちな大学教員に、教育の取組の大切さを認識させるなどの効果もあげている。
 一方で、学士課程教育に対する社会からの期待はますます高度化、多様化しており、教育課程外の支援を含めて、その質の向上に努める大学に対する支援を、今後、より一層拡充することにより、大学教育改革の取組をさらに加速させていく必要がある。
 ○その際、(1)で触れたように、明確化された「三つの方針」の下、次のような支援を行うなど、大学の多様性やニーズを踏まえた制度設計とする必要がある。
 ア 「学習成果」の達成に向けた体系的な教育課程の編成、きめ細かな指導と厳格な成績評価等に取り組む大学への重点的な支援
 イ 社会的な期待が大きい新たな教育モデルの開発などに積極的に取り組む大学への支援
 ウ 思い切ったカリキュラム改革等に伴う人員や設備に対する支援
 エ 全学的な取組から、学部・学科単位の取組まで、その取組規模に応じたきめの細かい支援
 また、各大学の取組の成果を当該大学の教育の質の向上のみならず、我が国の大学全体の教育改革の進展や質の向上に、より効果的に反映させる必要がある。このため、これまでの国や各大学における積極的な情報提供に加えて、優れた取組の成果を各種の評価に反映させたり、設置基準の改正等により各大学が取り組むこととされた内容の実践状況を把握するなど、国による財政的な支援を、計画・実践・評価・改善のサイクルに組み込むことにより、大学教育改革の更なる加速を促す必要がある。
 B大学間の連携、開かれた協同のネットワークの構築を
 ○大学教育の質の向上に向け、本委員会は「競争」と「協同」との調和が重要であると考える。個性や特色を明確にした各大学が、地域内の自主的な連携、協同により、得意分野の強化、集約化、適切な役割分担を進め、地域のニーズに応じた多様で豊富な教育を提供することが、新しい形態として期待される。その具体的な取組としては、例えば、教育・研究設備の共同利用化、共同プログラム(社会人向けを含む)の開発・実施、放送大学の授業番組の活用、大学教員・職員の研修(FD・SD)センターの共同運営、教育活動の相互評価などが考えられる。その際、時間的・地理的な制約を克服するため、情報通信技術(ICT)の積極的な活用が望まれる。
 こうした連携、協同の取組を積極的に支援することは、地域における「知の拠点」としての存在感を一層大きなものとしていく観点から、極めて重要である。また、教員の教育力向上等に関する要請に応え、FDセンター等の機能を強化・拡充していく上でも、有効な取組である。大学の社会貢献機能を盛り込んだ教育基本法等の改正がなされた今日、このような支援は時宜を得たものと考える。
 ○各大学が授与する学士は、学生が専攻する専門分野に関し、一定水準の知識・技能等を証明する機能を持つものである。専門教育の中心を大学院教育に期待するとしても、現行の我が国の学士課程教育の在り方を考えるならば、各分野ごとに教育の質を維持・向上させる仕組みが必要となる。これまで、累次の答申等において、学協会や大学団体に対し、分野別のコア・カリキュラムの策定、FDプログラムの開発・実施、外部評価の推進に関する主体的な取組への期待が表明されてきた。また、大学団体からも、分野別のミニマム・リクワイアメントの設定を求める声がある。このことについては、一部の分野において、そうした取組が見られるものの、総じて取組が低調であると言わざるを得ない。
 このため、今後、各分野の教育を振興する基盤づくりに向け、学協会や大学団体に対し、国として積極的な支援を行うことが必要である。最近では、細分化されていた協会の連合化の動きが進んできており、そうした基盤の素地もできつつある。学協会への働きかけに際しては、国からの諮問等に応じて答申等を行う権能を持つ日本学術会議との連携について積極的に検討することが適当である。
 また、職業教育分野においては、産業界の協力が欠かせない。関係省庁と連携を図り、産業界との「対話」の機会を設けるなど、積極的な働きかけを行うことも重要である。
 また、教員と職員との協働関係を一層強化するため、職員の職能開発(スタッフ・ディベロップメント(SD))を推進して専門性の向上を図り、教育・経営など様々な面で、その積極的な参画を図っていくべきである。

(2)国による支援・取組〜大学の自主性・自律性を尊重した多角的支援の飛躍的充実を〜
 ○将来像答申は、国の中心的な役割として、「高等教育の在るべき姿や方向性等の提示」、「制度的枠組みの設定・修正」、「質の保証システムの整備」、「高等教育機関・社会・学習者に対する各種の情報提供」、「財政支援」の五つを挙げている。これらは、いずれも重要であり、国は、政策目的に応じて適切な手段を選び、多角的に各大学を支援していくこととなる。その際、教育基本法の謳うとおり、大学の自主性・自律性を尊重していくことが求められる。
 特に、先進諸外国と比較して、対GDP比等で見ると、我が国の大学に対する財政支援は手薄であると言わざるを得ない。ユニバーサル段階等を迎える中、積極的な投資無くしては、教育の質を維持することさえ困難となる。大学の自主性・自律性を尊重する観点からも、基盤的経費を確実に措置した上で、競争的資金を拡充し、財政支援全体の強化を図っていくことを強く望みたい。一方、大学は、教育基本法等の改正を契機として、社会に対する説明責任を十分果たしていくことが求められるのであり、国としてそうした枠組みづくりを併せて進めていくことが望まれる。

 @我が国の「学士」の水準に関する枠組みづくり、「高等学校から大学へ、大学から社会へ」と連なる階梯の設計を
 ○将来像答申の提言するとおり、ユニバーサル段階においては、大学が自らの選択によって機能別に分化していくこととなり、政策的にも、そうした取組を支援していくことが重要である。一方で、我が国の大学が授与する「学士」について、その在り方が無秩序であっては、知識・技能等の証明として、国内外で信頼され、通用するものとならない。「学習成果」重視の国際的な大学改革の潮流や社会の要請などを踏まえると、国としては、大学関係者と協同し、その主体性の下、学士課程教育の役割を改めて吟味し、我が国の「学士」の水準に関する枠組みづくりがなされるよう、適切な役割を果たしていくことが望ましい。
 こうした枠組みは、分野横断的な水準の確保を目指すものであり、各大学における学位授与の方針の策定・見直しの指針となることが期待される。また、Bで述べる分野別の学位水準の確保に向けた学協会等の取組の基盤になるものとしても重要である。社会の発展に寄与する大学として、それに相応しい内容・水準とはどうあるべきか、それをどのように評価して説明責任を果たしていくのか等の基本的な課題について、分野を横断し、さらには各分野にわたり、十分な研究や検討を進めていくことが必要である。
 ○今日、高等学校卒業者の過半数が大学へ進学し、労働市場において大学卒業者が新規採用者の中心になりつつある中、人生の新しい段階へと移行する若者をいかに支援していくかが、学士課程教育においても重要な課題となる。
 一方で、「大学全入」時代を迎え、各大学の入学者選抜方法の在り方、高等学校での履修状況や評価の在り方が益々多様化してきている。そうした中、教育の質を保証する観点から、単に個別の学校の努力のみに委ねるのではなく、システムとして、高等学校・大学の接続の在り方を見直していくことが求められる。従来、主に過度の受験競争の緩和の観点から、入学者選抜の改善等が推進されてきたが、今後は、各学校段階で最低限必要な知識・技能等を身に付け、若者が人生の階梯を着実に歩んでいく仕組みを再構築していくことが重要である。

 A学士課程教育の優れた実践に対する重点的な財政支援の拡充を
 ○競争的な環境の中で、国公私立大学の優れた教育の取組を重点的に支援するとともに、その成果を広く情報提供することにより、我が国全体としての大学改革を推進していくことを目的とするGP事業は、大学の多様な機能や社会のニーズ等に対応して、年々そのメニューを増やし、支援額も拡充してきている。代表的なプログラムである特色GP及び現代GPだけでも毎年一〇〇〇件前後の応募があり、申請に至るまでの大学内での熱心な検討の過程などを通じ、各大学における大学改革、教育改革の進展に大きな成果をあげている。研究を重視しがちな大学教員に、教育の取組の大切さを認識させるなどの効果もあげている。
 一方で、学士課程教育に対する社会からの期待はますます高度化、多様化しており、教育課程外の支援を含めて、その質の向上に努める大学に対する支援を、今後、より一層拡充することにより、大学教育改革の取組をさらに加速させていく必要がある。
 ○その際、(1)で触れたように、明確化された「三つの方針」の下、次のような支援を行うなど、大学の多様性やニーズを踏まえた制度設計とする必要がある。
 ア 「学習成果」の達成に向けた体系的な教育課程の編成、きめ細かな指導と厳格な成績評価等に取り組む大学への重点的な支援
 イ 社会的な期待が大きい新たな教育モデルの開発などに積極的に取り組む大学への支援
 ウ 思い切ったカリキュラム改革等に伴う人員や設備に対する支援
 エ 全学的な取組から、学部・学科単位の取組まで、その取組規模に応じたきめの細かい支援
 また、各大学の取組の成果を当該大学の教育の質の向上のみならず、我が国の大学全体の教育改革の進展や質の向上に、より効果的に反映させる必要がある。このため、これまでの国や各大学における積極的な情報提供に加えて、優れた取組の成果を各種の評価に反映させたり、設置基準の改正等により各大学が取り組むこととされた内容の実践状況を把握するなど、国による財政的な支援を、計画・実践・評価・改善のサイクルに組み込むことにより、大学教育改革の更なる加速を促す必要がある。

 B大学間の連携、開かれた協同のネットワークの構築を
 ○大学教育の質の向上に向け、本委員会は「競争」と「協同」との調和が重要であると考える。個性や特色を明確にした各大学が、地域内の自主的な連携、協同により、得意分野の強化、集約化、適切な役割分担を進め、地域のニーズに応じた多様で豊富な教育を提供することが、新しい形態として期待される。その具体的な取組としては、例えば、教育・研究設備の共同利用化、共同プログラム(社会人向けを含む)の開発・実施、放送大学の授業番組の活用、大学教員・職員の研修(FD・SD)センターの共同運営、教育活動の相互評価などが考えられる。その際、時間的・地理的な制約を克服するため、情報通信技術(ICT)の積極的な活用が望まれる。
 こうした連携、協同の取組を積極的に支援することは、地域における「知の拠点」としての存在感を一層大きなものとしていく観点から、極めて重要である。また、教員の教育力向上等に関する要請に応え、FDセンター等の機能を強化・拡充していく上でも、有効な取組である。大学の社会貢献機能を盛り込んだ教育基本法等の改正がなされた今日、このような支援は時宜を得たものと考える。
 ○各大学が授与する学士は、学生が専攻する専門分野に関し、一定水準の知識・技能等を証明する機能を持つものである。専門教育の中心を大学院教育に期待するとしても、現行の我が国の学士課程教育の在り方を考えるならば、各分野ごとに教育の質を維持・向上させる仕組みが必要となる。これまで、累次の答申等において、学協会や大学団体に対し、分野別のコア・カリキュラムの策定、FDプログラムの開発・実施、外部評価の推進に関する主体的な取組への期待が表明されてきた。また、大学団体からも、分野別のミニマム・リクワイアメントの設定を求める声がある。このことについては、一部の分野において、そうした取組が見られるものの、総じて取組が低調であると言わざるを得ない。
 このため、今後、各分野の教育を振興する基盤づくりに向け、学協会や大学団体に対し、国として積極的な支援を行うことが必要である。最近では、細分化されていた協会の連合化の動きが進んできており、そうした基盤の素地もできつつある。学協会への働きかけに際しては、国からの諮問等に応じて答申等を行う権能を持つ日本学術会議との連携について積極的に検討することが適当である。
 また、職業教育分野においては、産業界の協力が欠かせない。関係省庁と連携を図り、産業界との「対話」の機会を設けるなど、積極的な働きかけを行うことも重要である。

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