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平成19年10月 第2291号(10月10日)

学士課程教育の再構築に向けて

  はじめに 〜今なぜ「学士課程教育」か〜

 ○中央教育審議会大学分科会では、平成十八(二〇〇六)年以降、学士課程教育に重点を置いた審議を行ってきた。その問題意識の骨子は次のようなことであり、我が国社会の将来の発展のため、学士課程教育の再構築が喫緊の課題であるという認識に立っている。
 ア グローバルな知識基盤社会、学習社会を迎える中、我が国の学士課程教育は、未来の社会を支え、よりよいものとする「二十一世紀型市民」を幅広く育成するという公共的な使命を果たし、社会からの信頼に応えていく必要があること。
 イ 高等教育そのもののグローバル化が進む中、明確な「学習成果」を重視する国際的な流れを踏まえつつ、我が国の「学士」の水準の維持・向上、そのための教育の中身の充実を図っていく必要があること。
 ウ 我が国に顕著な少子化、人口減少の趨勢の中、学士課程の「入口」では、「大学全入」時代を迎え、教育の質を保証するシステムの再構築が迫られる一方、「出口」では、経済社会からイノベーションや人材の生産性向上に寄与することが強く要請されていること。
 エ 政策的には、大学間の競争の促進によって教育活動の活性化が図られてきたが、教育の質の維持・向上を図る観点からは、大学間の「協同」が併せて必要となってきていること。  ○今回の審議に先立って、中央教育審議会は、平成十七(二〇〇五)年一月に「我が国の高等教育の将来像」答申(以下、「将来像答申」という。)をとりまとめた。同答申は、中長期的(十五年程度)に想定される将来像と、施策の基本的な在り方を示すものであり、「早急に取り組むべき重点施策」として、「一二の提言」を行っている。この中で、「教養教育や専門教育等の総合的な充実」等が重点施策として位置づけられ、「二十一世紀型市民」の育成を目指し、「多様で質の高い学士課程教育を実現する」ことが謳われている。
 その後、中央教育審議会は、平成十七(二〇〇五)年九月に「新時代の大学院教育」答申を行い、国際的に魅力ある大学院教育の構築に向けて総合的な提言を行った。さらに、文部科学省では、同答申に基づき、五年間(平成十八(二〇〇六)〜二十二(二〇一〇)年度)の重点施策を明示した「大学院教育振興施策要綱」を策定した(平成十八(二〇〇六)年三月)。我が国において、大学院教育の抜本的な強化、国際競争力の向上は極めて重要な課題となっているが、そのためにも、その基盤である学士課程教育の充実を図ることが大切である。
 ○本年二月に発足した第四期大学分科会では、制度・教育部会の下に「学士課程教育の在り方に関する小委員会」を設置した。本委員会は、第三期大学分科会から引き継いだ問題意識や主な意見を踏まえ、六回にわたる会議などを通じ、関係委員間の意見集約と整理を図ってきたところであり、今般、制度・教育部会に対する審議経過の報告を行うものである。
 ○この報告では、いわゆる学部段階の教育について、「学士課程教育」と称している。
 これは、将来像答申において、「現在、大学は学部・学科や研究科といった組織に着目した整理がなされている。今後は、教育の充実の観点から、学部・大学院を通じて、学士・修士・博士・専門職学位といった学位を与える課程(プログラム)中心の考え方に再整理していく必要がある」との指摘を踏まえた取扱いである。もとより、大学教育の在り方を検討するに当たっては、学部という組織の在り方や、短期大学の課程などに関する論点も大切であるが、今回は、学士課程教育に着目して審議経過報告のとりまとめを行った。本報告を契機として、学士課程教育という言葉や概念が、一般に広く理解されることも併せて期待したい。
 ○審議経過報告(以下、「本報告」という)では、学士課程教育をめぐる「経緯と現状に関する基本認識」(第1章)と「改革の基本方向」(第二章)を述べた上で、「改革の具体的な方策」(第三章)について、「学位の授与、学修の評価」、「教育内容・方法等」、「高等学校との接続」等の節で順次提言を行っている。これは、将来像答申における重点施策として、各機関ごとの学位授与の方針、教育課程編成・実施の方針、入学者受入れの方針の明確化を支援する必要がある旨、指摘されたことに対応している。
 また、これらの「三つの方針」の実践を担うのは、教職員である。その職能開発は、学士課程教育の改善に向けた条件整備として極めて重要である。さらに、現在の大学・学部等の設置や評価をめぐる諸課題を踏まえると、質保証システムの在り方の点検・見直しも欠かせない。このような考え方に立って、「教職員の職能開発」、「質保証システム」に関しては、節を設けて提言を行っている。
 最後に、「おわりに」として、改革の実行に向け、国や産業界など社会全体からの支援に関して要望するとともに、報告後に重点的に審議を行うべき事項について触れている。
 ○なお、「改革の具体的な方策」(第三章)の各節では、現状と課題に関する本委員会としての認識を示した上で、「改革の方策」として、「大学の取組」と「国による支援・取組」のそれぞれに関する事項を列挙している。このうち、「大学の取組」に関しては、各大学の主体的な取組の参考となることを期待して提示したメニューであり、一律な実施を求める趣旨ではない。もとより、本報告は、様々な具体的な取組に関し、各大学に対して直接指示する性質のものではなく、この提言を受けて、今後、国としてどのような施策を講じ、各大学に働きかけるかは、文部科学省において適切に判断されるべきものと考えている。

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