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平成19年10月 第2291号(10月10日)

事務局長相当者研修会開く 232大学から331名が熱心に研修

  研修テーマ 「大学の社会的責任とマネジメント」

 日本私立大学協会(大沼 淳会長)は、去る十月三日から五日までの三日間にわたり、神戸市のポートピアホテルにおいて、平成十九年度(通算第五九回)「事務局長相当者研修会」を開催した。同研修会は、大学運営の要となる事務局長の役割の重要性に鑑み、同協会の大学事務研究委員会(担当理事=香川達雄女子栄養大学理事長、委員長=丸山徹薫武蔵野音楽大学理事・総務部長)が準備を進めてきたもの。このたびは、加盟三七六大学から二三二大学・三三一名の事務局長等が参加して、熱心に研修した。

 今年度のテーマは、昨年に引き続き、私立大学の社会的責任(USR:University Social Responsibility)であり、特に趣旨を「私立大学の社会的責任とマネジメント〜コンプライアンスマネジメントを中心に〜」と設定し、大学の組織体制が社会の要請に柔軟に反応し、機能を発揮させるために必要な方策ならびに管理運営上の諸問題への対応をどのように推進すべきかを協議した。コンプライアンスは、「倫理法令遵守」とも訳され、私立大学の社会的責任(USR)における中核的な取り組みの一つである。
 はじめに、同協会副会長・関西支部長の森田嘉一京都外国語大学理事長・総長、香川担当理事、丸山委員長らによる開会の挨拶があり、それぞれ社会的背景を理由とした今年度のテーマであるコンプライアンスの重要性を述べた。
 続いて、「私立大学を取り巻く諸情勢と今日的課題」と題して、同協会の小出秀文事務局長より、一八歳人口の減少やユニバーサル化する進学率、株式会社立大学の登場など高等教育を巡る共通的背景の激変や、教育再生会議や中央教育審議会の審議動向など教育行政についての状況報告があった。最後に、今後の展望と期待として、地域と共に地域を拓く私立大学の創造を提案し、大学間でのコンソーシアム作り等の対応をしていく必要性を述べた。
 一日目最後の講演には、「コンプライアンスマネジメントの視点にたった大学組織体制の整備〜慶應義塾大学の事例から〜」と題して、元大学行政管理学会会長の原 邦夫慶應義塾大学病院事務局長・信濃町キャンパス事務長が講演した。
 原氏は、まず、危機管理とコンプライアンスマネジメントの一般的な概念を解説するとともに、同大学での現状と課題について詳細な事例を織り交ぜながら紹介した。慶應義塾大学におけるリスクや想定される局面として、例えば、教職員の精神疾患や環境汚染、地震、台風、戦争、伝染病などを挙げるとともに、その対応として各種マニュアルなど諸規程を作成していると述べた。また、改革の「やりっ放し」を防ぐための内部監査の仕組みや、産学連携などの委託業務と学内での講義等の仕事の関係において、利益が対立する「利益相反」のマネジメント体制について述べた。最後に、「全学的な取り組みがまだ十分ではないので、整合性のあるシステムを構築するとともに、USR報告書の作成を目指していきたい」と今後の取り組みへの意欲を語った。
 二日目には、「私立大学における情報公開の現状と課題〜情報公開のあり方〜」と題して、百万光生金沢工業大学常任理事・総務部長が発表した。
 大学事務研究委員会では、これまでに小委員会を設置して、私立大学における情報公開の現状と課題について研究を進めていたが、このたびはその報告となった。百万氏は、私立大学の情報開示は、私立学校法の改正や入試広報、インターネットの掲示板等における第三者による大学の風説、USRとしてステークホルダーへの説明責任などへの対応全てにおいて必要になってくる、と述べ、その重要さを再三指摘した。今後の方向性として、積極的な情報開示を、むしろ大学改革・問題解決の手段にすべきと提案、民間企業のCSR報告書を参考にしながら情報開示ツールとしての事業報告書を作成していく必要があることなどを述べた。最後に、「情報公開に関して最も大事なことは、義務で消極的に公開するのではなく、自らが主体的に公開し、伝えたいという熱意である」と主張した。
 続いて、「内部監査制度の充実に向けて〜内部監査室の監査はいかにあるべきか〜」と題して、久米信行神奈川大学内部監査室室長が講演した。
 久米室長は、同大学の内部監査室の取り組み内容や設置の経緯を語った。まず、大学の取り組みの全てをカバーすることはできないという認識に立ち、COE補助金監査業務など外部から義務付けられているものや大学の信用を傷つけそうなもの等優先順位をつけ、特に補助金の監査に重要なのは、一般職員の理解を深める研修であると述べた。続いて、監査の問題点については、@監事、A監査法人、B内部監査室の「三様」監査それぞれについて発表、これら三者の問題点を整理し、監事監査規定を成立させた。現在の緊急の課題は、競争的資金の管理運営方法と公益通報者保護法に伴う対応で、方向性について検討中である。
 最後に、万が一起きた場合のリスク管理の中でも、所轄庁への報告やマスコミなどへの公表のタイミングが重要であり、日ごろから準備しておくことが重要だと語った。
 三つ目の講演に、「私立大学経営システムの分析に基づく、戦略的マネジメントの構築〜中長期計画による戦略遂行、その共通する原理と手法〜」と題して、篠田道夫日本福祉大学常任理事より講演があった。
 篠田氏の講演では、同協会附置私学高等教育研究所の研究員として、「私大経営システムの分析」プロジェクトの一環として、戦略経営実現の視点からのアンケート調査の結果を中心に報告があった。豊富な資料やデータを用いながら、理事会の構成や運営、中長期計画の策定状況等を分析。大阪経済大、広島工業大、山梨学院大、静岡産業大、福岡工業大、日本福祉大などの先進事例を紹介するとともに、戦略経営の評価基準等について触れた。最後に、「大学の存立と発展に最も重要なことは、持続的な改革である。ミッションやビジョン、戦略や戦術などの策定とPDCAサイクルに基づいた遂行を行う「戦略経営」の確立こそが改革の持続を保障し、激変する環境の中で本質的な目標を見失うことなく前進できるものだ」と力説した。
 その後、班別研修となり、課題や問題点などの意見交換、事例の発表等が行われ、夕方には情報交換会が行われた。
 最終日には、文部科学省高等教育局の磯田文雄私学部長から「高等教育を巡る諸課題について」と題する講演があった。
 磯田氏は、高等教育政策やこれまでの経過等について体系的に解説を行った。特に、英国サッチャー元首相の新自由主義の流れが、日本の市場原理主義に基づいた規制緩和政策に結びついていることなどを指摘。また、大学の国際標準や全入時代等の社会変化によって学士課程教育の重要性が増していることや高等教育の予算について現在の状況などを説明した。
 最後に、同委員会副委員長の池原喜忠名城大学常勤理事より閉会の挨拶があって閉会となった。

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