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平成19年9月 第2289号(9月26日)

京都外国語大学の地域連携 −3−

京都外国語大学学長 堀川徹志

 京都外国語大学(堀川徹志学長)は、一九四七年に京都外国語学校として設立された。同大学が特に重視する「人間力」を高めるため、地域社会との関わりにおいては、各言語の文化圏に関する豊富なデータと交流実績をもつ外国語大学という特性を活かした連携を継続して行っている。しかしながら、同学の地域連携は、大学が所在する限られた地域との連携に留まらない。このたびは、同大学の堀川徹志学長に地域との連携についてご執筆を頂いた。

 3、地球規模での連携
 最終回となった今回は、地球規模での連携という視点からの取組みを紹介し、最後に本学の地域連携全体に関する課題と将来展望についてまとめたい。
 (1)国際ボランティア活動
 本学では、一九九四年度から新入生(編入学生を含む)全員の必修とする総合科目「言語と平和」で、本学が志向する「平和教育」と、大学生に必要な基礎的能力の養成を目指す「導入ゼミ」との有機的結合を図る「導入教育」を実施している。この効果の一つとして、学生の国際問題、社会問題に対する意識が高まり、とりわけ学生の国際ボランティア活動が活発に行われるようになっている。
 例えば、特定非営利活動法人ハビタットの海外建築ボランティアは、一九九七年一月から学内で活動を始め、同年十一月には正式にハビタット本部からキャンパス支部として承認を受けてサークル活動を行っている。また二〇〇二年三月には、模擬国連の開催や国内外の模擬国連への参加活動を行う国連ソサイエティが発足し、活動を継続している。そのほか、二〇〇〇年度からは海外の学校で語学、文化の学習と教育プロジェクトのシグマ・ソサイエティ、二〇〇二年度からは、子どもの絵本を出版して学校や孤児院へ提供するカンボジア友好ソサイエティなどの国際的活動に、多くの学生が参画している。こういった一連の取組みは、二〇〇四年度の大学基準協会の相互評価において、ユニークな試みとして高く評価されている。
 (2)「Imagine Peace ―貧困と平和―」
 本年、本学園は創立六〇周年の節目を迎えて、様々な記念事業を計画している。その一つとして、学生の課外活動サークルである国連サークルとハビタットサークルが主催する「京都外国語大学六〇周年記念ピースプロジェクトImagine Peace ―模擬国連会議―」を本年十月に開催する。この取組みに対して、本学は共催という形で、人的・資金的・物的支援を行っている。具体的な内容としては、Imagine Peaceプログラム全体の開催、模擬国連、「グローバルランゲージとしての平和」国際会議(NGO関係者、地域活動従事者及び教育関係者による活動発表)、ハンガーバンケット(飢餓体験)、チャリティーコンサート、世界の子供たちの絵画作品の展示、写真展、映画上映会、ゲストスピーカーによる講演など、多彩である。
 二〇〇〇年九月の国連ミレニアム・サミットで一八九か国によるミレニアム宣言が採択されたが、模擬国連では、その宣言に基づいて取りまとめられた八つのミレニアム開発目標のうち、「目標一―極端な貧困と飢餓を解消する―」の達成を目指したアクションプランを作成する計画である。加えて、教育を通して何ができるかを話し合って、実際に自分たちの大学や学生生活に取り入れる目的で、学生、教師、大学の三者が関わってアクションプランを作成することによって、目標一の達成を目指している。なお、これには、世界各国の小学生から大学院生、社会人の参加を広く呼びかけ、地球的規模での開催を目指している。
 (3)学生を主体とした取組みにおける課題と展望
 これらの取組みで問題となるのは、学生有志を中心にして一部の教職員の援助を仰いだ活動であるため、大学全体の組織的取組みとなっていない点である。つまり、現時点では、これらの活動は個人的あるいはグループ活動のレベルに留まっている。今回のプロジェクトは創立六〇周年記念事業として、大学共催という形をとることによって大学の全面的支援が可能となったが、平素の地道な活動については、学生の自主的な活動の範囲内である。活動の有効性を評価すれば、学生の主体性を尊重しながら、さらに活動を奨励する意味で、安全面や資金面での支援充実を図っていくことが必要と考えられる。基本的には、このようなボランティア活動と正課授業の連携をさらに図っていくことが必要であり、特に、地球規模での連携については、NPO・NGOとの連携も図りながら推進していく必要を痛感する。
 さらに、大学の基本姿勢としては、学生による社会活動を奨励するために何らかの表彰制度を設けることが望ましいが、現在、本学では、地域社会に対する奉仕や貢献をして本学の名誉を高めた場合や、クラブ・同好会の課外活動において優秀な成績を収めた場合等には、「総長表彰」「学長表彰」の表彰制度を適用して、学生のインセンティブを高める工夫をしている。
 (4)大学コンソーシアムを活用した地域連携
 財団法人大学コンソーシアム京都は、大学と地域社会及び産業界の連携を強めるとともに大学相互の結びつきを深め、教育研究のさらなる向上とその成果の地域社会・産業界への還元を図ることを目的として設置されていて、現在、京都市域にある五〇の大学・短期大学が加盟している。加盟校には本学のような私立の単科大学もあれば、国立大学法人・公立大学法人、総合大学や女子大学、短期大学など様々あって、それぞれが連携している。規模、性格を問わず、単独の大学でできることは限られている。大学コンソーシアムを窓口にした大学相互の連携は、地域との連携という点で、今後さらに重要になると考えられ、本学としても積極的にこれに参加していく方針である。
 おわりに
 三回に分けて、本学の地域連携の取組みについて紹介させていただいた。各取組みは、それぞれ開始時期や実施期間、規模、対象などが異なるため、その効果や問題点、課題も多種多様である。しかし、その一方で、それぞれに共通しているものもある。それらはひとり本学の場合だけに見られるものではなく、それぞれの大学が実施している地域連携全体に共通した課題ということができるかもしれない。
 第一の問題は、大学本来の使命とされる高等教育・研究に比較して、地域連携の優先度が低いことである。つまり、大学の教育や研究と直接的に結びつかない地域連携のプログラムは、学内的なコンセンサスが得られにくいことである。
 第二の問題は、産学連携は別として、一般的な形態における地域との連携は、その効果・成果が見えにくいということがある。活動の対象が幅広いため、信頼性のあるフィードバックを確認する手段がほとんどない。
 第三の問題は第二の課題とも関連することであるが、地域が求めているものを的確に把握するための大学の組織・機能が脆弱であることが上げられる。大学は有為な人材を地域に輩出したり、研究成果を地域に提供したりする発信型のコミュニケーションは得意である。しかし、地域からのニーズを的確に捉えるための受信型のコミュニケーションは、どちらかというと不得意である。
 上述したような課題を克服するためには、学内外に向けた広報活動の充実と工夫が重要である。第一は広報が公聴機能を持つことであって、地域との窓口として、地域のニーズを的確に捉える機能が求められる。このように、地域連携を促進するには、学内外に対する大学自身のコミュニケーション力が鍵となる。第二は情報の発信であるが、地域が必要とする質の良い情報を積極的に学外に向けて発信し、同時に学内の学生や教職員に向けても発信することが肝要である。自分たちの研究成果や学習成果が、直接、地域に繋がっていることを自覚し、また、それにどのような意義があるのかを認識することは、必然的にやりがいと満足度を高め、次の目標に向かって進む意欲を喚起する。
 本学としてはこのような問題点を克服しながら、すでに展開している地域連携をさらに効果的に推進、あるいは新規に開発することで、今後とも地域と共に歩む個性ある大学を目指していきたい。(おわり)

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